第12話 それは舞踏会の招待状でした
コツンッ。二十一時。
その音で迷わず窓を開け、彼を招き入れた。
これが毎晩の日課となっていた。
「いらっしゃい」
ふと、月明かりに照らされた彼の髪が目に入る。見慣れ始めていたブロンドが消えていた。
(黒い……。髪色、やっと元に戻したんだ)
彼は靴を魔法で綺麗にしてから部屋へ入った。
相変わらず几帳面な性格のようで、次に「時間だ」と言い、彼は時計を指した。
彼は声を落として言う。
「決まった時間以外は鍵をかけておけ。本当に襲われても知らないぞ」
「知ってます。もう経験済みですから!」
その言葉に彼は顔をしかめる。その様子を見てリアは思わずくすっと笑った。すると一瞬で温度が下がる気がした。
(もうっ……この人と話すの疲れる……!)
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魔力の循環を終えた後、温かい風が止む。
ふわりと浮いた髪も、すとんと落ちた。彼はかざしていた手をゆっくり離し、黒い手袋を付け直す。
そして淡々と話し出した。
「任務に協力してくれただろ」
「あ、はい」
「あれはもう終わった」
「なんの調査か知りませんが……上手くいきましたか?」
(たぶん、誰かの花嫁探し……だと思う。渡したノートも役立ってるといいな)
そんな妄想を膨らませ、リアはわずかに目を細めた。誰かが知らない場所で幸せになるなら、こんな嬉しいことはない。
「……今度、舞踏会がある」
「へぇ、そんなイベントがあるんですね」
舞踏会と言えば、全員が主役級のスタイル。演奏も食事もきっと、豪華に違いない。
リアがもし華やかな場所に縁があるとすれば――学院の卒業パーティくらいだろう。
「行ってみたい……」
(人生で一度くらい)
独り言のように呟いた。すると彼はリアに一通の封筒を差し出した。「受け取れ」と言わんばかりに。
「……え、私に?」
それは、金色の刻印まで押された上品な紙質の封筒だった。思わず飾ってしまいたくなるような細かいデザインが施されている。
「招待状があれば誰でも参加できる」
「ありがとうございます……」
リアはそれを受け取り、封筒が視界いっぱいに広がるほど顔を近づけた。「どうして自分に」という考えが浮かび、怖くなったが――
「……美味い料理が出る」
その一言で興味は再び戻された。彼はそれだけ言って、視線を逸らす。どうやら『お礼』のつもりのようだ。
「なら、食事をしに行くだけですね」
(舞踏会なのに? でも、私一人で……?)
「セドリックさんは……」
無言で同じ封筒を見せられた。つまり、一人で迷う心配は無さそうで安心した。
リアはふぅ……と息を吐き、目を細め、口角を上げた。これが、夢の舞踏会――
「こういうのって、ちょっと緊張しますね。私、初めてです。どんな方たちが来るんですか?」
自分みたいな平民の……魔力なしが行っても大丈夫な場所か尋ねる。
「この国の第三殿下だ。王位継承権がある」
「他には――」
「そうなんですね……。すごい――えっ。」
リアは息を呑んだ。
「第三殿下……?」
王家の人間は、定期的にお披露目の場が設けられており、年子の皇太子殿下と第二殿下は国民の前に姿をよく見せてくれる。
ただ、第三殿下は違った。
(派手な行事には不参加……)
(顔が知れない、不思議なお方……)
招待状を握る手に少し力が入る。一体どんな人なのだろう。リアは緊張と不安からなのか、心臓の鼓動が速くなり、見えない首輪も熱を帯びた。
「あなたのお仕事と関係あるんですか……?」
「……」
「どんなお方……」
彼はまぶたを閉じ、腕まで組み、黙秘を続けるようだ。それはもう「関係ある」と言っているようなものだと思った。




