均衡の崩壊
次の瞬間――
「潰せぇぇぇッ!!」
リーダー格の怒号と共に、東区の連中が迎え撃つ形で一斉に突っ込んでくる。
数は倍以上。
普通なら、飲み込まれて終わりだ。
だが――
「雑魚が何人いようと――」
琥鉄が一歩前に出る。
右腕を大きく引き、連中の真正面に立った。
「裏切り者は死ね!!」
最前列にいた男が憎しみを込めて拳を突き出す。
だが、その拳が琥鉄に当たることはない。
「フンッ!」
琥鉄から振り出された右腕が、先に当たり、男を吹き飛ばす。
「5m、いやもっとか……?」
飛ばされた男の飛距離から、琥鉄の人並み外れたパワーがうかがえる。
仲間になったとは言えど、思わず背筋が凍る。
「……は?」
誰かが間抜けな声を漏らした。
「雑魚は雑魚なんだよ。」
琥鉄が、つまらなそうに吐き捨てる。
「流石だな。」
龍心は旧友の腕が落ちていないことに嬉しそうに笑った。
「上等だ!!」
さらに複数人の男達が、空いた隙間に突っ込んでくる。
「三人来る!」
旭が即座に状況を読み、声を飛ばす。
「わかってる。」
だが、この男にそんな声は必要無い。
向かってきた敵を次々殴り飛ばしていく。
圧巻。
それ以外言葉が見つからない。
一度敵の雪崩が止まる。
その隙を見逃さない。
「俺達も続くぞ!!」
「「「おぉ!!」」」
ここぞとばかりに俺達は畳み掛ける。
俺は真正面の男に飛び蹴りを繰り出す。
琥鉄に意識が持っていかれていた男は、反応が遅れ、蹴りをまともに喰らい、よろける。
奇襲攻撃は成功、そして――
(さっきの奴よりも弱い……!)
そのまま勢いを落とすことなく、もう一度蹴りを繰り出す。
だが、相手は俺よりも格段に大きい。
余裕で耐えられてしまった。
男はギロリとこちらを睨む。
「奇襲が成功したからって、勝ったと思ってんじゃねぇぞ!!」
そのまま大振りの拳が飛んできた。
避けれない、そう判断し即座に防ごうと、両腕を構える。
「ぐっ……!」
両腕に激しい痛みが走る。
その痛みは骨まで到達する。
何とか防げはした、だが、その代償に腕が持っていかれた。
「重ぇだろ。」
男は薄ら笑いを浮かべる。
完全に、勝ったつもりだ。
だがその油断こそ、こちらのチャンスとなる。
「もう一発喰らっとくか?」
男は再び、拳を繰り出す。
(きた……!)
待っていた攻撃の、二度目を喰らうはずもない。
体を低くかがめ、その拳を避ける。
「あ?おぉ!?」
標的を失った拳は空を切り、勢いを緩めることなく己の体に巻き付く。
再び体勢が崩れる。
そこに足払いを決め、転ばせることに成功する。
地に倒れ込んだ体に、思いっ切り蹴りを叩き込む。
「ぐはっ!!」
もろに喰らった男は、その場でうずくまった。
なんとか勝利した、だが、もはや戦える状態ではない。
周りの状況を確認すると、全員まだ戦闘を続けている。
琥鉄、壮志郎は複数人を一人で相手していた。
そのおかげか、人数は段々対等になり始める。
(もうちょい……!)
微かに希望が見え始めたそのときだ。
カン――
辺りに、コンクリートに硬いものを叩きつけたような甲高い音が響き渡る。
その音だけが、異様に長く残った。
誰も、動かない。
それに伴い戦闘も止まる。
「まずいな……。」
琥鉄が苦虫を噛み潰したような表情でそう呟く。
その目線は、リーダー格の男へと向けられていた。
「もういい、俺がやる。」
男の手にはなにかが握られている。
「木刀ですかねぇ。」
柊輝が呟いた。
木刀は1mあるようにも見える。
男がそれを軽く振る。
ヒュン――ッ。
軽く振っただけで、この音。
まともに喰らえば、ただじゃ済まないことはすぐにわかった。
「やべぇな。」
旭がそう声を漏らす。
表情は笑っているが、声が震えている。
男はゆっくりと首を鳴らし、こちらを見据えた。
「放っておけば調子に乗りやがって……。」
その目は、明らかにさっきまでの奴らとは違う。
殺気が、段違いだ。
「ここからは、遊びじゃねぇぞ。」
次の瞬間――
地面を蹴る音すら聞こえない。
気づいたときには、男の姿が消えていた。
「速っ――!?」
誰かが叫ぶ。
その直後。
ゴッッ!!
鈍い衝突音が辺りに響く。
「ぐっ……!」
琥鉄が、振り下げられた木刀を腕で受け止めていた。
だが、その巨体はわずかに押し込まれている。
琥鉄の足は震えている。
「チッ……重てぇな。」
初めて、琥鉄が焦りを見せた。
あの規格外のパワーを持つ琥鉄を押し込む。
それだけで桁違いの戦闘力だということを理解できる。
「受け止めたか……さすがだな。」
男は口元を歪める。
そして、次の一撃を下から振り上げた。
「くっ……!」
かすりながらも、なんとか琥鉄はその攻撃を躱す。
「だが、何発耐えられる?」
空気が、張り詰める。
(……やべぇな。)
本能が警鐘を鳴らす。
あの一撃、まともに喰らえば――終わる。




