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第67.5話 嘲笑うソンブルイユ

 足早に通路を進みながら、コランタン・ド・ソンブルイユは()()を見ていた。


 鋼鉄製のスクエア眼鏡(ウィッチグラス)による視界共有。

 そこには、侵入者と戦っていた騎士の視界がそのまま投影されていた。


 数分にも満たない短い戦闘。

 だがその光景は、ソンブルイユにとって値千金の情報を齎していた。


「クククク……」


 思わず口から笑いが漏れる。


「クッ……ハハハハハハハ!」


 それは最早感情を抑える事ができず、哄笑となった。

 白亜の廊下に、男の狂ったような声が木霊した。


()()ブラックハートの弟子というから、どんなものかと思えば!」


 ソンブルイユは片手で顔を覆いながら、漏れ出る声を止める事ができなかった。


「とんだ()()ではないか! 暴虐の魔導士、ブラックハートの弟子であればどれだけの破壊を振りまくかと思えば、これとはな!」


 ――ブラックハートの弟子が来る。


 そう()から聞かされた時、ソンブルイユは生きた心地がしなかった。


 アデライード・ザ・ブラックハート。


 御伽噺にすら謳われる、古式(オブソレット)きっての武闘派。

 竜を下し、魔族を退け、その力でありとあらゆる破壊を齎した忌まわしき魔法使い。

 その名はかつて知らぬものが居ないと言われるまで遍く知れ渡っていた。


 スカルファングが現代式(デルニエクリ)を生み出すその時まで。


 だが名が忘れられたとしても、その力までが失われたわけではない。

 ブラックハートは未だ理不尽の象徴であった。


 その弟子がこの街に来る!


 それが、ソンブルイユにとってどれだけ恐ろしい報告だった事か。


 地下研究所(ここ)の存在が知れたが最後、大規模な破壊魔法で街ごとふっ飛ばされる可能性すら、彼は想定していた。


 死都オーサイスの消滅。

 そのブラックハートの伝説の再現がここで行われない保証など無かった。


 だからこそ、ソンブルイユは最大の警戒を払えと部下たちに命じていたのだ。

 仔細漏らさずその動きを報告し、決して目を離すなと。


 だというのに侵入を許したという報告が上がってきた。


 その時感じた怒りは如何程であったか。

 そして同時に湧き出た恐怖が、どれ程であったか!


 世界は忘れている。


 伝統派魔法使い(オブソレット)が、どれ程までに強いのか。

 そして、どれだけ理不尽なのか。


 ソンブルイユとて、かつては知らなかった。

 ()に出会うまでは。


 だが知ってしまえば恐れるしかない。

 それはかつて光の民が闇の眷属に抗う為の最強の矛だったのだと、理解せざるを得なかった。


「蓋を開ければ破壊の使徒ではなく、まるで研究者。現実はこんなものか」


 目の前に映る魔法使いは、()()()()()()()()()


 使う魔法は巻物(スクロール)頼り。


 しかも何れも初歩に近い。


 施設ごと削り取るような荒々しさや凶悪さは、そこには存在しなかった。


 ソンブルイユの心には、明らかに安堵が生まれていた。

 最悪()()の全力で抑えねばならないと覚悟していた。


 だがこの分であれば、それも杞憂だろう。


 

 底が見えた以上、最早安心してこの魔法使いを迎え討てる。


「となると……少し方針を変えるべきか?」


 元来は、()()を唯一の迎撃手段として用いる手筈であった。

 しかし相手の戦闘力は低い。

 であるのなら、迎え撃つつもりなら騎士達だけでも可能だろう。

 総隊長のボーランも自分を凌ぐ程の使い手だ。

 なんら心配する要素は存在しない。


「せっかくの古式魔法使い(オブソレット)。有用に活用するか」


 戦闘に不得手とは言え、大規模魔法が使えないというわけでは有るまい。

 だとするのなら、()()の性能試験には丁度いいのではないか?


 そのような皮算用が、ソンブルイユの脳内に湧き出てくる。


「ちょうど魔技(パルシオン)対策の効果も見てみたかった所だ」


 彼は己の眼鏡(ウィッチグラス)に手をかけ、部下達に呼びかけた。


『諸君、聞き給え――』


 意気揚々と、この研究所の主は指示を出す。


 古式(オブソレット)の娘を、自分の下へと案内するようにと。


「出迎えは、盛大に行わなくてはな」


 足取り軽やかに、彼は向かう。

 この研究所の地下深くへと。

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