第五章103 『背水の陣』
「ーーー!」
朧げな感覚の中から、パチリッ と意識を覚醒させた加藤。
少しの間だが、懐かしい夢を見ていた。と言っても、加藤からすれば 1年かそこらの記憶だが・・・。
「・・・そうだよなぁ・・・“最強の剣” ってのは、そんなんじゃないよなぁ・・・」
「ーーーぇ? 何か言った?」
ボソボソ と呟いた加藤の声に、肩を貸していたアゲハが反応するがーーー、
「仲間傷つけて・・・殺して・・・そんな剣が最強な訳・・・」
加藤は変わらず、よく分からない事を呟いている。意識が朦朧としているためだろうか・・・もしかしたら、死ぬ間際の譫言かもしれない。
「ヤバいかも・・・」
どう見ても正常ではない加藤の様子に、顔をしかめるアゲハ。すぐに戦場を逃げ出して、治療を施す必要があるかもしれない。
「どこか逃げる場所は・・・って、マジで!?」
次の瞬間、アゲハは驚愕する。
《綾兵会》に襲われたグラウンドから脱出を図ろうとしたアゲハだが、敵の足止めをしてくれていた縦島が力尽きたようだ。
《第六感》の能力で縦島の死をを感じ取ったアゲハは、奥歯を噛み締めて小さく呻く。
「・・・ッ。コウノスケ・・・ッ」
当然、縦島が死に絶えた以上、室伏を留めておく術は無くなった訳だ。
縦島の手によって《綾兵会》の他のメンバーが全滅したのはありがたいが、肝心な室伏が無傷では、あまり意味がない。
「ーーーもう・・・ッ。本当に、、勘弁してよ・・・ッ」
当然のごとく、縦島を殺した室伏はアゲハたちの元に迫ってくる。仲間を殺してまでも立ち向かってくる室伏に命乞いなど無意味だ。
ならば、戦わなくてはならない。
「ごめん兵庫! ちょっと、ここに居て」
肩に担いだ加藤を降ろしたアゲハは、迫ってくる室伏に構える。加藤が背にいる以上、アゲハも負ける事などあってはならない。
だがしかしーーー、
「ーーー痛ッ」
二丁拳銃を構えた瞬間、ビキィ・・・ッ と右腕と右脇腹に引き攣ったような痛みが走る。先ほどの室伏の一撃で、やはり腕と肋骨が折れているようだ。
「本当に、、もう! 次から次へと・・・ッ」
身体の右半身が不調になっているアゲハ。今の状態では、仮に《第六感》をフル活用したところで、室伏に勝つ事など不可能に近い。
だが、やらねばいけない。
アゲハ 1人なら、きっと諦めていた状況だろう。だが、今は背後に加藤がいる。
仲間が背にいる以上、アゲハに “諦め” も “死ぬ事” も選択肢にはない。
「ーーー絶対に、、倒すッ!!」
強固な意志で右半身に広がる鈍痛を抑え込んだアゲハは、次の瞬間、室伏と打つかる。
***************
加藤を背にして、室伏に立ち向かうアゲハ。
まさに、“背水の陣” とも取れる その覚悟を見た室伏はーーー、
「・・・ハッ。愚かだな」
鼻でアゲハの覚悟を嘲笑う。
「死に体の兵庫など捨て、1人で逃げれば良いものを」
手首のスナップを効かせて、フォンフォンフォンッ と鋼鉄棍棒を振り回した室伏。これは、彼なりのルーティンなのかもしれない。強者と相対する時に見せるルーティン・・・。
「ーーー死ね」
アゲハを攻撃可能範囲にいれた瞬間、室伏は鋼鉄棍棒を振り上げた。
「ーーーッ!」
狙うは当然、アゲハの脳天だ。
ゴォッ!! という暴風を纏いながら振り下ろされた鋼鉄の塊。直撃すれば、熊の頭蓋すらも粉砕できそうな威力を秘めている。
刹那、アゲハは《第六感》を発動して、室伏の鋼鉄棍棒の軌道を見切る。そして、身体を数センチほど横へ傾け、最小限の動きで室伏の一撃を躱した。
瞬間、鋼鉄棍棒が地面に打ち下ろされる。ドッ、、ゴォ!!! という地響きを伴う衝撃が辺りに撒き散らされたーーーが、それだけだ。
室伏の一撃は、アゲハの命までは届いていない。
「ーーーチィ」
苦々しく舌を打ち鳴らした室伏。
手負のアゲハなら一撃で充分とタカを括っていたのだろうが、まるで見当違いだった。
当然、室伏の攻撃を躱したのならば、今度はアゲハのターンだ。
アゲハは、室伏の足に銃口を向ける。瞬間、パァンッ と乾いた発泡音が鳴り響き、アゲハの銃が火を吹いた。
だがしかし、弾丸が放たれる瞬間、狙われた足を半歩ほど引いた室伏。
「!!?」
そのため、弾丸は室伏の足の代わりに地面へと減り込んだ。
(ーーーッ!!? 嘘でしょ・・・ッ! 今のを躱すの!!?)
今度は、室伏の身体に銃口を向けたアゲハ。
身体は、足よりも表面積が広い。今の 2者の距離ならば、弾丸を躱すのは至難の業だ。
(ーーー狙うは肩・・・ッ)
もちろん、加藤の友達を殺す気などないアゲハは、急所を外して狙いを定める。
瞬間、またも乾いた発泡音が鳴り響き、室伏に向かって弾丸が高速で飛来する。
躱せるはずがない・・・アゲハは、そう信じきっていた。
だがしかしーーー、
「ーーーフンッ」
「ーーーなっ!!?」
室伏は身体を横へ向けて、最小限の動きでアゲハの弾丸を躱す。瞬間、ヒュンッ と空を切った弾丸は、彼方へと消えてしまった。
「嘘でしょ・・・これも躱すの!?」
「驚いたか? 銃口の向きと引き金の指の動きに注意すれば、近距離でも弾丸を躱すことは容易い。まぁ、経験あっての反則技みたいなモノだがな。ーーーというより、お前・・・舐めてんのか?」
「ーーーッ!!」
次の瞬間、ギロリッ と室伏の鋭い双眸がアゲハを貫いた。




