第五章104 『絶体絶命』
命を狙って襲いにくる室伏に、拳銃を2度ほど発砲したアゲハ。だが、その全てを室伏に躱されてしまう。
近距離での銃撃だ。普通の人間ならば、“躱す” などという神技は不可能だろう。
だが、室伏は それをやってのけた。
「ーーー驚いたか? 銃口の向きと引き金の指の動きに注意すれば、近距離でも弾丸を躱すことは容易い。まぁ、経験あっての反則技みたいなモノだがな。ーーーというより、お前・・・舐めてんのか?」
「ーーーッ!!」
次の瞬間、ギロリッ と室伏の鋭い双眸がアゲハを貫く。
「さっきから舐めた攻撃ばっかりしやがって」
「なっ、、どう言う意味よ・・・」
室伏は、手首のスナップを効かせて、フォンフォンフォンッ と武器である鋼鉄棍棒を回転させる。
「足に肩・・・お前が狙っている所は、急所では ない場所ばかりだ」
「・・・ッ」
「今は世紀末だぞ? そんなイカれた世界で、俺もお前も戦うと決めた以上ーーー、」
次の瞬間、室伏は回転させていた鋼鉄棍棒をノーモーションで横薙ぎに振り払った。もちろん、アゲハの首めがけてだ。
「ーーーッッッ!!!」
アゲハには油断は無かった。
敵と近距離で向かい合っているのだから当然だ。《第六感》と神経を張り巡らして、室伏の一挙手一投足を見落とさぬようにしていた。
そのアゲハが、一瞬 反応を遅らせるほど、室伏の横薙ぎの一閃は予備動作がなかったのだ。
「ーーーッぶなイ!!」
ギリギリのところで頭を下げたアゲハは、暴風を纏った衝撃を頭上で見送る。
そして、すぐさま数歩ほど後へ下がった。
正直言って、室伏とは距離を取って戦いたいが、アゲハの背後には動けない加藤がいる。距離を取りすぎると、きっと室伏の棍棒は加藤に向けられるだろう。
(ーーー付かず離れずを意識して戦わなくちゃ・・・ッ)
だからアゲハは、二丁拳銃のメリットを捨てて、室伏の間合いで戦うしかないのだ。
仲間を守るために、ギリギリの所で戦うアゲハを前に、室伏はさらに言葉を続ける。
「イカれた世界で戦うと決めた以上、選ぶ選択肢は、“死ぬ” か “殺す” かなんだよ。“倒す” なんて甘い考えはない」
「・・・ッ」
「はっきり言って、兵庫を守りたいなら俺を殺すしかないぞ。確実に息の根を止めない限り、俺はお前を何処までも追っていく」
そう言った室伏は、静かに鋼鉄棍棒を正中に構えた。
戦うと決めた者の本気の臨戦体制という事だろう。
「急所外して動き止めようなんて みみっちい事はもう止めな。でないとーーー」
次の瞬間、アゲハは《第六感》を通じて少し先の未来を見た。室伏の突きが頭部に直撃して、自らの頭蓋が弾け飛ぶ未来だ。
「ーーーッッッ!!!」
そこからは、正に反射的に身体が動いていた。
咄嗟に身体を右に傾けて、室伏の攻撃が来るであろう軌道から頭を退けるーーー、とほぼ同時だ。
ボッ、、ヒュッ! と空間に穴が開くような短な音が響いて、アゲハの顔の真横に、室伏の鋼鉄棍棒の穂先が現れた。
「一瞬で死ぬぞ」
刹那、再びアゲハの脳内に、あらゆる未来の景色が巡った。すべて、《第六感》の直感能力で知り得たコンマ数秒後の未来だ。
そこには、五月雨突きのごとく、室伏が放つ鋭い突きの数々と、その攻撃が直撃して肉人形のようになるアゲハの姿が見えた。
「や、、ばいッッッ!!」
アゲハの全身の毛が逆だったと同時に、室伏の手元が光った。少し遅れて、ボボボボボボボ、、ヒュンッ!!! と空間に幾つもの穴が開く。
室伏が得意とする五月雨突きが放たれたのだ。
「ーーーぐっ、、はっ!!」
もちろん、視覚や聴覚といった感覚機関ではなく、《第六感》という直感で室伏の攻撃を感じ取っていたアゲハは、放たれた無数の突きを ある程度なら見切る事ができた。
だがしかし、あくまで “見切る” だけだ。
身体の骨がいくつも折れているアゲハが、いつものパフォーマンスで身体を動かせる訳がない。
結果、左肩と右足に突きを受けてしまったアゲハはーーー、
「ぐわァァァァアアアァァァアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッ!!!!」
という慟哭を上げて、大きく背後へ吹き飛んだ。
そのまま、2度3度ほどグラウンドの地面を跳ね転がったのちーーー、
「ーーーうぐッ!!!」
背後で横たわる加藤の身体にぶつかって、その勢いを殺す。
「ぐ・・・ぅぐぐ・・・ッ」
小さく呻き声を上げたアゲハ。
「か、、ひゅ・・・ひゅ、、ひゅ、、」
不意に、アゲハの口元から空気が漏れ出た。喉の奥が嫌に熱いのだ。いや、それだけではない。身体が動かない上に、息もできない。苦しい・・・。
数多の苦痛がアゲハの身体から生まれて、頭へと登っていく。
だが、それだけだ。
痛みで口が利けないアゲハにとって、その苦しみを外に出す術はない。
(ーーーあぁ・・・ダメ。死ぬかも・・・)
薄れゆく意識の中、アゲハの視界に映り込んだのは、悠然と近づいてくる室伏の姿だ。
きっと、トドメを刺しに向かってきているのだろう。
じゃりじゃりじゃり とグラウンドの土を踏みしめながらアゲハの目の前にやってきた室伏は、静かに鋼鉄棍棒を振り上げた。
「これで終わりだな。死ね」
その言葉を最後に、アゲハの脳天に鉄の塊は振り下ろされた。




