第四章 -加藤 vs アルフレッド- 44 『生き抜くために必要な、もうひとつの“武器”』
「ーーーみんな、もういいよ。逃げてくれ」
ぽつり と溢れるように言った加藤の言葉に、この場にいた他7人は、思わず眉を寄せる。
「ーーーどうしたんだ、加藤? 逃げてくれって・・・」
はじめに尋ねたのは 島田だ。
加藤が言っている事の意味が分からず、島田は困惑した顔を見せる。
「ぁ・・・いや、何つぅか、その・・・みんなに、もう危険な事をしてほしくねぇんだ・・・みんな、俺を復活させるために俺のダメージを肩代わりしたり・・・四門に至っては、寿命を1年も減らしちまったんだろ? 俺とアルフレッドとの戦いで、これ以上・・・みんなに迷惑かける訳には・・・」
申し訳なさそうに、ぽりぽり と頭を掻きながら そう言う加藤。
誰だって、自分のために他人が傷つくのは不本意だろう。それが大切に思っている仲間ならば尚の事だ。
だがしかしーーー、
「別に、加藤のためだけにやってる訳じゃないだろ。みんな、それぞれ戦う理由をもってここに居るんだ」
「そうだナ。確かニ、アルフレッドの目的はカトウかもだガ、奴がカトウに目をつけたのは不可抗力もいいところだシ、カトウが気にする事じゃねぇと思うゼ?」
「・・・っ」
この場にいる誰もに、それぞれ戦う理由がある。
傷つく事や危険を犯す事を、全て加藤の所為だと思っている者はいないだろう。
「て言うか、兵庫さ。さっきも言ったじゃん。私たちは兵庫の “お荷物” でも “宝物” でもないーーー、“仲間” だって。仲間なら頼ってよ」
「そうだな。俺たちだって 力になれる事がある。なにも、加藤が全部 背負って 1人で戦う事はないんだぞ」
「ぅ・・・だけど・・・やっぱり、俺 1人でアルフレッドに挑んだ方が 被害は少なくできるんじゃないかと・・・みんなを危険に晒しなくないし・・・ごにょごにょ・・・」
「いやいや、何言うてんの? ヒョーゴン、さっき1人で戦って 負けたやんか」
「うぐっ!!」
海の無邪気かつ辛辣な指摘が、鋭く加藤の胸を貫いた。
「そうだね。確かに、このまま加藤 1人に任せても アルフレッドを倒せる保証はないね。ま、それは私たちが全員で掛かっても同じ事だけど」
「全員で掛かる方が 多少なりとも可能性は高いだろ。俺たちの連携と島田の作戦が上手くいく事が前提だがな」
「いや、、、だけど・・・っ」
もはや、この場にいる加藤以外の者は、全員でアルフレッドに挑む空気に纏まりつつある。
それでも、加藤は未だに1人で戦う事に固執する。
“戦う者の誇り”だとか、“多対一は卑怯だ” とか言う訳ではない。
ただーーー、加藤はひとえに、仲間を危険に晒したくないだけだ。
自分を残して、誰も死んでほしくないのだ。
「・・・やっぱり、俺はみんなを危険に晒したくない。みんなに色々と助けてもらったから、今は前以上によく分かる・・・みんなは俺の“大切な仲間”だ。みすみす死なせたくはねぇ・・・」
加藤の悲痛な叫びのような言葉を聞いた他7人は、一様に黙り込んでしまった。
きっと、他7人がアルフレッドと戦う覚悟があるように、加藤にも“仲間を死なせたくない” という強固な意志があるのだ。
7人は、加藤の今の言葉から、彼の その強い意志を感じ取った。
ここまでくると、もう意志と意志とのぶつかり合いだ。話し合いや説得で妥協点を探るなど出来ない。
どちらかが折れて、片方の意志を貫くしか道はない。
そんな中、加藤の姿を 縦に避ける瞳孔に映していたシャノンは、気づかれないように「フゥ」と嘆息を吐いた。
(ーーーカトウ。ここがお前の成長点だゼ。《桜花流剣術》ヲ・・・キヨカの修行を思い出セ。なぜキヨカ ガ、お前を1人、暗い山に放り込んだのかヲ・・・。ここの結果いかんデ、きっと お前がアルフレッドに勝てるかどうかが決まるかもだゼ)
加藤の叫びを聞いて、はじめに言葉を発したのは、やはりアゲハだ。
「ーーー兵庫が私たちの事を大切に思ってくれてるのは、よく分かったよ。でも、それはお互い様だから」
「ーーーえ?」
「私やマサルやシャノン・・・ここにいるみんなも。兵庫を“大切な仲間” だと思ってるの。死なせたくない・・・と思ってるの。だから、兵庫が危ない目にあうなら助けたいし、力にもなりたいんだよ」
「ぅ・・・」
「そうだな、アゲハの言う通りだ。いいか加藤、お前が言った“大切な仲間”っての・・・そん中には、お前自身も含まれてんだ。ここにいる みんなは、お前と同じように、その“大切な仲間”を死なせないためにーーー、みんなで生き抜くために戦おうとしてるんだ」
「ーーー!」
「加藤が俺たちを“守る”ために戦うなら、俺たちも加藤を“助ける” ために戦う。嫌だとは言わせないぞ。俺たちが どれだけ本気かは、加藤自身が よく分かってるだろうからな」
「・・・」
島田が言う事は、加藤にはよく理解できた。
加藤が島田やアゲハたちを大切な仲間と思うように、島田やアゲハたちも加藤を大切な仲間だと思っているのだ。
無意識に一方通行だと思い込んでいた気持ちが、相手も同じように思っていたのだ。
それを理解した加藤に、もう島田たちの気持ちを拒む理由はない。
島田の言う通り、彼らが どれだけ本気かというのは、加藤自身が よく理解しているのだから。
「・・・分かったよ」
「ーーー!」
「もう・・・みんなの力を借りる事を拒んだりしねぇ」
加藤は、ぽつり と呟き、みんなでアルフレッドと戦う事を了承した。
だが、1つ・・・加藤には、1つだけ譲れない条件がある。
この条件が守れないとなると、やはり、みんながアルフレッドに立ち向かう事には了承できない。
加藤は、ごくり と生唾を飲み込み、その譲れない条件をみんなに伝える。
「ーーーだけど、ひとつだけ条件がある。これだけは約束すると誓ってくれ」
「? なんだよ?」
代表して、島田が加藤の条件を尋ねる。
尋ねられた加藤は、妙に真面目な雰囲気を醸し出して、仲間たちに向かって、自分の内に抱いていた 切実な願いを吐き出す。
「ーーーみんな、絶対に死なせないでくれ。頼む」
それだけだ。それだけ言って、加藤は7人に頭を下げた。
まるで、切実な願いを神に頼み込む時のような、仰々しくも必死に思える所作で だ。
加藤の その頼みを目にした7人の中からはーーー、
「ーーーはっ」
と小さな笑いが溢れ落ちた。
「当たり前だ。加藤に頼まれるまでもねぇ」
「そうだね。あんな奴に殺されるつもりはないね」
「俺もだ。キヨカさんに想ぃーーー、じゃなかった。やり残した事をそのままに死ねるか」
「ま、そうだね。私もやり残した事いっぱいあるし。死んでやるつもりはないね」
「私もーっ! 大日本志摩 海 モテモテウハウハ帝国を築くまで死ねへんしー」
「す、すごいスケールの夢・・・いや、野望が聞こえた気が・・・」
そして、皆が一様に加藤の願いを聞き届ける。
それを見ていたシャノンは、再び「フハッ」と周りに気づかれないように嘆息を溢した。
(ーーーやるじゃねぇかカトウ。それがキヨカが言っていタ、“生への執着” とは別の生きるために必要な もうひとつの“力” ーーー“仲間”ダ。人ハ、どんなに強くとモ、どんなに努力しようとモ、1人だけじゃ長くは生きられなイ。ましてヤ、共に生きていく仲間ヲ、“守るべき者” なんて決め付けて対等に接せないようじゃナ。キヨカ ハ、お前に その事を伝えるためニ、1人で山に投げ込んだんダ。カトウが自分1人の非力さを理解しテ、ちゃんと仲間を頼るようにするようニ、ナ)
再び、シャノンは「フゥ」と嘆息を吐き出す。
(ようやく理解してくれて良かったゼーーー、マ だいぶ手間が掛かっちまったがナ)




