第四章 -加藤 vs アルフレッド- 42 『曲がる火の玉』
「・・・これは」
時間にしては、2〜3秒ほどしか無かっただろうか。
アルフレッドが魔法の力で加藤を引き寄せ、加藤も引き寄せられる力を利用して突っ込み、カウンター狙いの刺突を繰り出したーーー、かと思えば、アゲハが援護射撃を放ち、アルフレッドを銃撃した。
その後、アルフレッドは魔法を解除し、加藤と ぶつかる事は無かった。
一見すると、アゲハの援護で加藤が難を逃れたようにみえる動きだったのだが・・・。
「ーーーどういう事だ?」
島田の目には、アルフレッドの異質な行為が焼き付いていた。
「・・・むぅ」
数瞬ばかり、アルフレッドの行動理由を考え込む島田だがーーー、
「・・・情報が足りないな。だが、俺の推察が正しいのならば、あるいは・・・」
今の段階では、彼の考えは 推察の域を出ることはなかった。
「ーーー斑鳩さん」
「! なんだ?」
だから、島田は隣にいた斑鳩に助けを求める。
「今、《受信と送信》でシャノンに通信を図ることは出来ますか?」
「ーーーシャノンにか?」
斑鳩は、ちらり とシャノンが居るであろう方向に目を向ける。アルフレッドが地上に降り立った時、焦って別々の場所に身を隠してしまったが、シャノンが居る だいたいの方向は斑鳩も理解している。
「ーーーまぁ、だいたいの方向と距離が分かってるからな。通信する事は可能だが・・・」
「なら、今すぐに繋いでくれませんか? 確かめたい事があるんです」
「・・・“確かめたい事?”」
「はい。もしかしたら、奴・・・アルフレッドの弱点・・・とまでは行きませんが、隙を見つける事ができると思うんです」
「ーーー!」
島田の言葉を聞いた斑鳩は、すぐさま《受信と送信》を用いて、シャノンに通信を図る。
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「・・・チ」
加藤を超重力から逃したアルフレッドは、自分の手に目を落として、苦々しく舌打ちを繰り出した。
「ーーーデフォでは、《防御装》を設定していたのが裏目に出たか・・・まぁ、よい」
目を落とした手を、ぐぐぅ と握り込んだアルフレッドは、ちらり と加藤が身を隠したであろう方向を見た。
ゴツゴツとした瓦礫が いくつも折り重なるように倒れ込んでいる。隠れる場所ならば、いくらでも ありそうな風景だ。
実際、アルフレッドは、すでに加藤の姿を目視では見失っていた。
だがしかしーーー、
「また、捕えれば良いだけの話だ」
アルフレッドの魔力感知は、瓦礫の影に身を隠した加藤の魔力を しっかりと補足している。
先ほどと変わらないゴツゴツした瓦礫の山の一角・・・倒壊した大きな建物の裏に、色の濃い赤い魔力と、ぼんやり と光る水色の魔力を見たアルフレッド。
「ーーーそこか」
その2つの魔力に向かって、再び《暗黒武闘》を発動するーーー、その時だ。
「ーーーっ!?」
ボボボボンッ!! と別の瓦礫の影から、いくつかの火の玉が噴き出した。
「魔法・・・《火球》か。あの《獣人種》が放ったものか。だがーーー、」
魔法が噴き出した場所は、先ほどアルフレッドが《五芒星》で爆破した瓦礫の影ーーー、つまり、シャノンと五島がいるであろう場所だ。
アルフレッドは、突如 放たれた魔法に、とりあえず警戒する。
だがーーー、
「ーーーどこへ放って・・・?」
シャノンが放ったであろう複数の《火球》は、アルフレッドではなく、あらぬ方向へ飛んで行ってしまう。
(ーーー陽動か? いや、それにしても・・・)
空に向かって勢いよく打ち上げられた《火球》を目で追うアルフレッド。次の瞬間、打ち上げられた《火球》が曲線を描いて、アルフレッドの元に降り注いできた。
「ーーー!!?」
咄嗟に 地を蹴り、《火球》の着弾予想地点から身を引いたアルフレッド。
正直、《達人級》でもないシャノンが放った魔法攻撃など、アルフレッドにとっては躱すまでもない。魔法で防御するなり、軽くあしらうなりすれば良いだけのモノだ。
ならば なぜ、アルフレッドは、わざわざ魔法を回避する道を選んだのかーーー、その理由は、《火球》の あり得ない動きに、アルフレッドが 一瞬の混乱したからだ。
通常、《火球》などの基礎攻撃魔法には、軌道を操るなどという手段ない。つまり、放ったら真っ直ぐ飛んでいくだけで、軌道が大きく曲がったりなどはしないのだ。
だがしかし、シャノンが放った《火球》は 打ち上がり、空で向きを変えてアルフレッドに向かってきた。
その歪な動きに違和感を覚えたため、アルフレッドは、わざわざ身を引いて躱したのだ。
(ーーー追尾機能を持った《火球》だと!? そんなもの、聞いた事がない・・・だが、実際 この目で見た以上、何らかの仕方がーーーッ!!?)
瞬間、空から落ちてきて、地面に激突する筈だった《火球》のいくつかが、追突スレスレで、ぐんっ とアルフレッドの方に向きを変えた。
「ーーーなっ!?」
突然の事で驚いたアルフレッドだが、何ら不思議な事はない。空で軌道を変えたのならば、地面スレスレでも軌道は変わる筈だ。
次の瞬間、軌道を変えた《火球》が、アルフレッドに直撃する。
ボゴォォォンッ!! という爆音を響かせて、熱風と衝撃波が辺りに撒き散らされた。
と同時にーーー、
「よっしゃ!!」
《火球》の発信源である瓦礫の影ーーー、つまりシャノンと五島がいる場所から高らかな声が聞こえてきた。
「やったぜ、シャノン! あのヤロゥに 1発かましてやった!!」
「アァ。だガ、あの程度で《達人級》の魔道士は倒せなイ! 今のうちニ、シマダやカトウたちと合流するゾ! 何やラ、シマダに秘策があるみたいだからナ!」
「ーーーおう!」
快活にシャノンへ言葉を返した五島は、トドメと言わんばかりに、アルフレッドが居るであろう方に唾を吐いて 中指を立ててみせる。
そう、一連の 曲がる《火球》は、シャノンと五島の合わせ技だ。
シャノンが発動した《火球》に五島が触れて《必中》の能力を付与する。すると、敵を追尾する強力な火の玉ができあがるという訳だ。
実際は、これは島田が考えた案なのだが、自分の能力でアルフレッドに一矢報いる事ができた五島は、上機嫌で島田たちとの合流に向かった。




