第四章 -加藤 vs アルフレッド- 40 『私たちは・・・』
突如、瓦礫を押し除けて アルフレッドの背後に姿を現した土塊人形。
30メートル超ある土塊巨人が《暗黒領域》に吸い込まれてしまったので、急遽、四門が新しく寿命を与えて創り出した個体だ。
与えた寿命は 2週間。
約5分の寿命で、野生のヒグマを殴り殺せる力を持つ土塊人形にとって、2週間という時間は、かなり強力と言ってもいいだろう。
だがしかしーーー、
「ーーー《爆ぜよ》」
1年の寿命を《贈命》された土塊巨人と 互角以上に渡り合ったアルフレッドにとって、2週間程度の時間しか与えられていない個体は ザコも同然だった。
瞬間、アルフレッドの背後で拳を振り上げていた土塊人形が内側から爆発する。爆音と黒々とした煙をあげて、粉々に四散する土塊人形。
「もう、泥人形と戯れる気はないーーー《竜巻よ》」
次いで、淑やかな所作で、スゥと指で空を切ったアルフレッド。その刹那、粉々になった土塊人形が竜巻に襲われて、細かくなった瓦礫や破片が空の彼方へと舞いあげられた。
「ーーーくっ」
その光景を 少し離れた場所で見ていた四門は、苦々しく顔を歪める。
「いくら魔力が尽きるまで動き続ける人形とはいえ、魔力が秘められているのは、あくまで決められた土塊のみ。粉々にして吹き飛ばしてやれば、再生には時間が掛かるーーー、そして」
アルフレッドの視線は、遠く瓦礫の影に隠れていた四門に向けられる。障害物があり、肉眼では四門の姿など見えないが、アルフレッドの魔力感知には、瓦礫の影に隠れた高魔力体が よく見えていた。
「貴様のような能力を持った者の利点は、遠方や隠れた場所から敵に攻撃できるという所だ。私に捕捉される距離に近づいてきたのは愚策だったなーーー、《爆ぜよ》」
次の瞬間、瓦礫の影に身を隠していた四門の足元がーーー、ボゴォォォーッン!! と爆発した。
「うわぁぁぁあーーーっ!!!」
突如、身に降りかかった爆発に 叫び声を上げた四門。その声に素早く反応したのは、やはり五島だ。
「ーーー四門!!?」
五島は、隠れていた瓦礫から飛び出して、爆発が巻き起こった方ーーー、すなわち、四門の叫び声が聞こえてきた方へ顔を向けた。
それが愚策だった。
「ーーー!」
先ほどから、アルフレッドが感じていた魔力反応が 罠の類ではなく、ただ隠れている加藤たちであると知られてしまったのだ。
「やはり、周囲に感じていた魔力反応は《複製魔力》などではなく、魔人たちの魔力だったか」
敵が姿を表せば、アルフレッドがする事など決まっている。
「ーーー《五芒星》」
フォォォン・・・ッ という軽やかな音と共に、アルフレッドの周囲に 5つの光球が出現した。
「死ね」
次の瞬間、光り輝く5つの球体が 五島へ放たれる。その速度は、攻撃魔法最速と言われている《雷槍》にすら匹敵する。
威力にしては段違いだ。
「ーーーゴトウ! 伏せロ!!」
刹那、近くの瓦礫の影に隠れていたシャノンが飛び出して、五島を押し倒す。
そしてーーー、
「ーーー《防御装》!」
体表面から魔力を吹き出して、せめてもの防御を展開するシャノン。これで、放たれた魔法攻撃のダメージを幾分か減少させられるがーーー・・・。
「ーーーマズッ」
シャノンは、守りが不十分である事を理解していた。
次の瞬間、シャノンと五島に《五芒星》が直撃して、大規模な爆発が巻き起こる。
***************
「ーーー兵庫。アンタ、なんか勘違いしてない?」
「ーーーぇ?」
仲間を危険に晒さまいと思う加藤の気持ちに、真っ向から言葉を返したアゲハは、いままで自分の心の内に蟠っていた、加藤へ対する“不満” を彼にぶつけ始めた。
「兵庫は、私やマサルを “お荷物” だって思ってるの?」
「は? ぇ・・・? いや・・・別に そんな」
「ーーーじゃあ、“宝物” か何か? どっちにしても、それって私たちに すごく失礼じゃない?」
「?? いや、何言ってんだよ!? 別に俺は、お前らを“荷物” とか“宝物” とかなんて思ってねぇよ」
「それじゃあ、何よ?」
「・・・ぅ」
アゲハの妙な圧を受けて、加藤は思わず怯んだ。その隙を付くように、アゲハはさらに言葉を続ける。
「私たちは兵庫の何?」
「ぇーと・・・まぁ、“仲間” ・・・ですかね」
「そうよね。だったら、“守る”とか言ってないで、私たちを“頼り” なさいよ! 確かに、私たちには、兵庫みたいにアルフレッドと真っ向から戦う力はないかもだけど・・・それでも、兵庫の力になれる事はあるはずだよ!」
「ーーーっ」
その刹那、2度の爆音が轟いた。
「ーーーなんだ!?」
「爆発!?」
突然の爆音に、加藤とアゲハの意識も そちらに向けられる。
「何が起こった!? あれはーーー・・・っ」
加藤が目にしたのは、黒々とした黒煙をあげる建物の瓦礫だ。
加藤の記憶が正しければ、その瓦礫の影にはーーー、
「ーーーっ! アルフレッドの野郎・・・っ」
シャノンと五島がいたはずだ。
***************
アルフレッドの《五芒星》の直撃を受けたシャノンと五島。普通ならば、死んでもおかしくないほどのダメージを負うはずだがーーー、
「いつツ・・・アレ?」
「・・・い、生きてんのか? 私たち・・・」
シャノンと五島は 生きていた。
無傷・・・とは言えないが、大きなケガもなく、身体の感覚器官も正常に作用している。身近で大爆発を受けたのならば、耳くらい不能になっていても不思議ではないはずなのに、だ。
その理由は、シャノンと五島を庇うように 地面から出てきて、一瞬のうちに2人を内側に取り込んだ土の塊にあった。
「こいつは・・・四門の土塊人形か!?」
そう、2人をアルフレッドの魔法から守ったのは、四門が創り出した土塊人形だ。
アルフレッドを強襲した時のように、シャノンと五島の足元の土塊に遠隔で寿命を与えて、彼女たち の身を守るように地中から出現させたのだ。
次の瞬間、シャノンと五島を爆発から守った土塊が、ボロボロッ と崩れていく。どうやら、咄嗟のことで 四門も数秒ほどしか寿命を《贈命》できなかったようだ。
だがしかし、その四門の数秒で、シャノンと五島も命を拾うことができた。
「・・・死んでいない?」
アルフレッドも、シャノンと五島が死んでいない事に気がついたようだ。
「・・・先ほどの魔人も死んでいないようだし・・・奴が遠隔で術を使い守ったのか。器用な事をするな」
嘆息を吐きながら、先ほど《爆ぜよ》で攻撃を仕掛けた四門に目を向ける。やはり、瓦礫と爆発の黒煙で四門の姿は見えないが、彼が発する魔力は変わらず感じる。
(・・・泥人形を作り出す奴は、どうやら守りに特化した魔人のようだな。と言っても、何度か魔法を浴びせれば殺せるだろうが・・・っ!!!?)
刹那、首元を守るように腕を掲げたアルフレッド。次の瞬間、アルフレッドの首元に鋭い斬撃が飛来して、ギャリィィィィ・・・ッン と劈くような音が響き渡った。
もちろん、斬撃を飛ばしてきたのはーーー、
「ーーーやはり、まず殺すべきは貴様だな。加藤 兵庫!」
加藤 兵庫その人だ。




