第四章 -加藤 vs アルフレッド- 26 『水蒸気爆発』
「ーーーなっ!?」
「・・・アルフ」
突如、瓦礫の山で遭遇した強敵に、島田とアゲハは固まってしまった。
アルフレッドと遭遇などしないとタカを括っていた訳ではない。実際、加藤の加勢にいくために、アルフレッドとの戦闘は 彼らなりに何度もイメージしていたくらいだ。
それなのにーーー、
「「・・・っ」」
加藤を救うと息巻いていた2人は、アルフレッドから受けるプレッシャーに、無様に棒立ちとなってしまった。
「・・・チ」
対するアルフレッドも、島田たちと遭遇した瞬間、身体の動きを止めてしまっていた。
もちろん、島田やアゲハのように、恐れからくる硬直ではない。
これは、鬱陶しい存在を目にした時に起こる、感情の整理による固まりだ。
例えば、家で食事をしていたらハエが集ってきたとする。多くの人は、ハエを見た瞬間、“うわっ、ハエだ。だる〜” などとハエを見たという情報と感情を頭の中で整理するはずだ。
誰も、“うわっ、ハエだ! 殺さないと殺される!” などと命の危機感を覚えて、即行動する事はないだろう。
つまり、そう言う事だ。
アルフレッドにとって、突如、目の前に現れた島田たちは、ハエのような鬱陶しい存在に過ぎず、加藤のように命を脅かす敵ではないのだ。
だからこそのーーー、
「はぁ〜・・・」
煩わしいな、という身体の止め。
もちろん この後、アルフレッドは島田たちを殺しにかかる。
だがそれは、面倒くさいと思いながら 重い腰をあげて、殺虫剤を手に取るような だらだら とした行動だ。
おそらく、秒数にしても4〜5秒はあるだろう。
その数秒の間に、アルフレッドに対応した者が島田たちの中にいた。
それは当然ーーー、銀髪猫耳少女のシャノンだ。
刹那、シャノンは、バンッと地面に手を打ちつけた。
「ーーー《剣の山》」
次の瞬間、アルフレッドと島田たち 3人を隔てるように、鋭利に尖った巨大な岩山が瓦礫を押し除けて出現した。
「ーーーうわっ!?」
「魔法・・・っ!?」
目の前に現れた岩山が アルフレッドの魔法攻撃だと勘違いした島田とアゲハは、咄嗟に戦闘体制を取る。
ここで、2人の硬直は とりあえずは解けた。
「ーーー《水牢》」
次いでシャノンは、アルフレッドを取り囲むように水の牢を出現させた。
瞬間、ドプンッ と、巨大な球状の水牢に 囚われたアルフレッド。このままでは、陸上で溺れてしまう。
「ーーーチ」
鬱陶しく舌を打ち鳴らしたアルフレッドは、《水牢》を解除するべく、《呪文封じ》を唱えるーーー、その1手早く、シャノンは次の魔法を発動させた。
「ーーー《火球》」
シャノンは、掌に出現した小さな小さな、小石程度の火の玉を、目の前の岩山の上から放物線を描いて アルフレッドの元へ投げ込んだ。
刹那、高温のエネルギーが凝縮された《火球》が、アルフレッドを捕える《水牢》と接触する。
ジュ・・・ッ という短い音が鳴った瞬間、瞬時に高温に熱せられた《水牢》の水は、堆積を膨張させて 気体へと変わる。
次の瞬間、アルフレッドを閉じ込める《水牢》が大爆発を起こした。
水が高温の物体に触れた瞬間、瞬時に蒸発して爆発が起きるーーー、水蒸気爆発というものだ。
「ーーーうわぁ!!!」
「キャァァァァァーーーッ!!」
爆発の衝撃は、岩山で守られていた島田やアゲハにも十二分に伝わる。
だがしかし、それだけだ。
爆風で身体が吹き飛ぶ訳ではない。彼らは 生きている。
絶望的な状況下から、とりあえずは生きて脱せられたのだ。
・・・とりあえず、は。
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舞い上がった土煙りによって、一時的にアルフレッドの目から逃れる事に成功した斑鳩は、加藤を担ぎながら 瓦礫の山を ひた走っていた。
「ーーーはぁはぁはぁ・・・っ」
本来、意識がない男性を担ぎ上げて、足場が悪い瓦礫の上を走り続けるなど 容易くない行為だ。
息は上がるし、瓦礫に足を取られそうになる。
だが斑鳩は、決して足を止めず、転びもせずに意識がない加藤を運び続けていた。
背後に迫るアルフレッドから逃げろ と、本能が叫んでいるのもあるが、斑鳩が足を止めない最たる理由はーーー、
「ーーーくそっ! 加藤、起きろ! おい!!」
肩に担ぐ加藤の呼吸が、徐々に小さくなっているからだ。
ふと、斑鳩が足を止めてしまえば、そのまま加藤の呼吸も止まってしまうのではないか・・・そんな不安が、斑鳩を前へと押し出していたのだ。
「マジで・・・どうすりゃいい!? どうすりゃ加藤を助けられる・・・っ」
加藤は 必ず助かるという一縷の望みに賭けて、瓦礫の山を突き進んでいた斑鳩だが、現実は非情だった。
都合よく回復アイテムが落ちている訳もないし、手助けキャラが現れる訳もない。
無意味に瓦礫の山を彷徨い、徐々に加藤の命を削り続けている。
だが、その時だーーー。
「ーーーっ!!」
斑鳩が、諦めたように天を仰いだ瞬間ーーー。
「・・・あれは・・・?」
彼の視界に、街を取り囲む《蔦壁》を登っている土の塊のようなモノが飛び込んできた。
それはーーー、斑鳩も よく知っている仲間の能力で創り出された土塊人形だ。
「四門の土塊人形か!?」
次の瞬間、壁を登っていた土塊人形から、誰かが手を振っているのが見えた。




