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098●‘箱舟’の内部へ

我々は問題の惑星に到着した。例によって、軌道上を周回する。


「よし、探査機を出せ。‘ノアの方舟’近辺を重点的にな。」

惑星ゼルダンのこともある。ここは慎重に調査を開始する。


「‘その他’、探査機を自律無人艦より発艦させます。」

「‘もひとつ’、データ受信準備完了!」

「‘操舵手’、軌道を巡行システムに入力。‘その他’と‘もひとつ’のサポートに入ります。」


艦内での体感時間20分後、最初のデータが届いた。

「かなり大きいですね。全長500m、最大全高100mです。」

「何だと思う、クドー?」

「人工物のようです。意見具申、定石どおり探査車で内部を見てはどうですか。」

「そうだな。探査機から探査車を出す。」

「‘操舵手’、了解。」


探査車のデータがモニターに鮮やかに映し出される。

‘方舟’の内部壁面には、浅く彫られた線画が広がっていた。

それは、洞窟壁画に見られるような動物の群れ、狩りの様子、星の配置、

波のうねりなど、自然と人間の営みが交錯する記憶の断片だった。

絵は素朴ながら、動きと感情が息づいている。色は使われていないが、

彫りの深さと配置が、光の角度によって表情を変える。

床には、石畳を模した幾何学模様が広がっていた。

ギョベクリ・テペの円形神殿を思わせる配置だが、祭壇はなく、

中心には円形のくぼみがあるだけ。

一部、残存する天井には、星図のような穴の配置があり、光が差し込む。

文字らしきものは見当たらない。

壁の一角には、古代地球の洞窟壁画に見られるような、

手形のような印が並んでいる。

周囲には、渦巻きや波紋のような記号が描かれており、

水の記憶を象徴しているようだった。


「うーん、これは農業革命が起きた前後の、テラ文明に似ていますね。」

クドーが言う。

「だが、農耕の痕跡はない。狩猟採集社会が、こんな巨大なものを製造できたのか?」

わたしは、モニターを見つめながら呟いた。

そのとき、探査車が奥の区画に進入し、微弱なエネルギー反応を検出した。

「‘その他’、確認を。」

「はい。壁面の一部に、微弱なエネルギー反応がありますね。」


この方舟は、何なのか。造ったのは誰か、いつからあるのか。

その答えは、まだ誰にも触れられていない。

壁の向こう、時の深淵に眠っているのか。


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