067●神の裁きなき世界―沈黙の神と倫理の空白―
神は沈黙している。
それは、神がいないということではない。だが、神が語らず、裁かず、導かないならば、その存在は現実において意味を持ち得ない。
この世界は、神の教えに背く者が栄え、信じる者が傷つく場所となった。神の沈黙は、結果として「神の不在」と同じ効果をもたらしている。
かつて神は、預言者を通じて語り、奇跡によって介入し、罪に対して裁きを下したと信じられていた。だが今、戦争は神の名のもとに行われ、虐殺は信仰者によって正当化され、格差は神の沈黙の中で広がっている。神を信じる者が、最大の加害者となることすらある。
この世界は、神が沈黙することで、倫理の空白地帯=無法地帯となった。
そして神の沈黙は、結果として『神の不在』と同義の効果をもたらしている。
それでも、神は「人間の自由を尊重している」と言われる。
だが、自由とは何か。罪なき者が苦しみ、力ある者が支配する自由は、倫理なき自由は、暴力の自由に他ならないのではないか。神が沈黙することで、人間の責任は増す。だが、救済の保証は、静かに失われていく。
この世界において、神の裁きがないならば、人間は神の代わりに裁きを行うべきなのか?
それとも、裁きなき世界において、善を選ぶこと自体が信仰の証なのか?
神の裁きなき世界は、問いの世界である。
そしてその問いに向き合うことこそが、神の沈黙に対する唯一の応答なのかもしれない。




