第3部 :このシステムはユーモアのセンスが抜群だ
リクは私を人混みから引き離した。
彼の握る手は、いつもより強く締まっていた。
笑顔はない。
冗談もない。
「そこに立って、何も問題がないなんて言わせないぞ」
私は目をそらした。
「……考えすぎだよ」
「そうかな?」
彼は私たちの後ろを指さした。
「だって、俺が見る限り――女の子たちはみんな、君を避けてるよ」
喉が乾いた。
「否定しようなんて思わないで」と彼は続けた。「彼女たちが君のことで囁き合ってるのが聞こえる。変なこと言ってるんだ」
彼は顎をわずかに固くした。
「そんなの、嘘だって分かってるのに」
沈黙。
「…レン」
私は返事をしなかった。
「こっちを見て」
私は見なかった。
「…レン」
彼の声が低くなった。
「二度と頼まない」
ゆっくりと――
私は顔を上げた。
彼の表情は、もうふざけたものではなかった。
彼は真剣だった。
本当に真剣だった。
「こんなことが起こるのを、今まで見たことあるか?」と彼は言った。「人は一夜にして、いきなりあんな風に振る舞うようにはならない。」
「……噂かもしれないけど――」
「噂なんて、そんなに早く広まらない。」
「……じゃあ、わからない。」
「嘘をつくのはやめろ。」
胸が締め付けられた。
「嘘なんて――」
「なら、説明してみろ。」
「できない」
「なぜだ?」
「……だって、信じてくれないから」
リクは数秒間、私をじっと見つめた。
「……言ってみろ」
私は躊躇した。
「……馬鹿げてるから」
「何年も君を知っている」と彼は言った。「君が馬鹿げてるのは今に始まったことじゃない。言ってみろ」
「……頭がおかしくなったと思われるから。」
「今朝、もうそう思ってたよ」と彼は答えた。「これは単なる確認に過ぎない。」
あれだけのことがあったのに――
私は思わず笑いかけた。
思わず、だ。
「……わかった。」
私はゆっくりと息を吸った。
「……さっきのこと、覚えてる? 僕が空気に話しかけてるって言ったこと。」
「…ああ?」
「…君の言うことは間違ってなかった」
彼は眉をひそめた。
「…何?」
「…何かが見えるんだ」
「…何か?」
「…画面」
リクは瞬きをした。
「…何?」
「システムの画面」と私は静かに言った。「ゲームみたいな」
沈黙。
「……冗談だろ」
「冗談だったらいいんだけど」
彼は私をじっと見つめた。
私が笑うのを待っているようだった。
私は笑わなかった。
「……続きを聞かせて」
「すべては昨日の朝に始まったんだ」と私は言った。
夢のこと、トラックのこと、そして突然目の前にシステムが現れたことを彼に話した。
彼の表情がわずかに変わった。
より真剣な表情に。
「それが僕に役割を割り当てたんだ」と、僕は続けた。
「……どんな役割?」
「……背景キャラ37番」
「……これ、何かの冗談か?」
「違う」
「そして今日……」
僕は言葉を切った。
「……ペナルティを課された」
「ペナルティ?」
「……ああ」
私は手を軽く握りしめた。
「……すべての女の子の僕への好感度を下げたんだ」
リクは眉をひそめた。
「……下げた……どれくらい?」
私は彼を見た。
「……100ポイント」
沈黙。
長い沈黙。
「……レン」
「……ん?」
「……もう一度言ってくれ」
「……すべての女の子の僕への好感度が100下がったんだ」
また沈黙。
彼は僕の背後を見た。
女の子たちを。
距離を。
ささやき声を。
そして再び僕を見た。
「……何だって」
一瞬の沈黙。
そして――
「えっっっ?!」
彼は頭を抱えた。
「つまり、何か見えないシステム――恋愛コメディのゲームみたいなやつ――があって、それが突然、すべての女の子を君に敵対させることに決めたって言うのか?!」
「言っただろ――」
「そして、君は『脇役』だって言うのか?!」彼は続けた。「それって一体どういう意味だ?!俺たち、何か物語の中にいるのかよ?!」
「……たぶんね。」
「たぶん?!」
彼は部屋を歩き回り始めた。
「これ、おかしい――マジでおかしい――」
「わかってる。」
「いや、わかってないだろ!」彼は怒鳴った。「これは普通じゃないよ、レン! 人が『愛情マイナス100』なんて、まるでステータスのように突然食らうことなんてないだろ!」
「……それは分かってる。」
彼は足を止めた。
再び僕を見つめた。
「……それで、君はただ……それを受け入れてるだけなのか?」
「他にどうすればいいんだ?」
「……もっと早く言ってくれればよかったのに!」
「俺自身、何が起きてるのかさえ分からなかったんだ!」
沈黙。
リクはゆっくりと息を吐いた。
髪をかき上げる。
「…これ、めちゃくちゃだ。」
「…ああ。」
「…マジで…めちゃくちゃだ。」
「でも、まだ確信が持てなくて…」
「今、君が言ってることって、文字通り正気じゃないし、狂ってるよ」
「えっと……昨日のこと、覚えてる? 学校で、男の子が女の子にぶつかったあの出来事……僕たちの目の前で。」
「あ、ああ……待って……まさか……」
「僕……あれが起きるって、前から知ってたんだ……」
「えっっっ?!」
「通知が来たんだ」と僕は言った。「偶然の衝突が起きるって。カウントダウンとかも全部。」
リクはただ僕をじっと見つめた。
「……冗談だろ」
「冗談じゃない」
「……それで、ただそこに立って見てただけなのか?!」
「文字通り『ユーザーの介入:不要』って表示されたんだ」
「ま、まさか……レン、頭、大丈夫か?」
「ああ……誓うよ……言ったことは全部本当だ」
「…証明だって…できるんだけど…」
リクは眉をひそめた。
「証明? でも…どうやって?」
「近くで起きるラブコメイベントの通知をオフにしてたんだ」と私は言った。「ランダムにポップアップしてきて…うっとうしかったから」
「…わかった…?」
「またオンにするよ」
私は手を上げて、指をパチンと鳴らした。
私の目の前に、かすかな青い光が現れた。
私にとっては――
画面。
リクにとっては――
私が馬鹿みたいに空を叩いている姿。
私は指をインターフェースの上で滑らせた。
[通知:オフ → オン]
私は彼を一瞥した。
「……ああ、これってどう見えるか分かってる。ただ――信じて。」
リクは返事をしなかった。
ただ見つめていた。
じっと。
黙って。
すると――
画面がちらついた。
新しいウィンドウが勝手に開いた。
[システムイベント通知
今後のロマンチックイベントを検知]
[イベントタイプ:秘密の出会い]
[場所:女子ロッカー裏]
[参加者:男子生徒(NPC)/女子生徒(NPC)]
[物語上の重要性:低]
[イベント詳細:キスシーン]
[イベントまでの残り時間:120秒]
[推奨行動:観察]
私は一瞬、固まってしまった。
「……冗談でしょ」
「……何?」とリクが尋ねた。
「…ここに書いてあるんだ…」私は喉を鳴らした。「…キスがあるって。女子ロッカーの裏で。あと2分で。」
リクはまばたきをした。
「…何だって?」
「キスシーンだよ。」
「…マジか?」
「ああ。」
「…それを信じろって言うのか?」
「…ついてきて。」
私は彼の返事を待たなかった。
彼の袖を掴み、早足で歩き出した。
「おい、レン!」
「一度だけ、私を信じて!」
私たちは廊下を曲がった。
階段を通り過ぎ、
校舎の奥へと向かい――
女子ロッカーの近くへ。
「レン、もしこれが何かの冗談なら――」
「冗談じゃない。」
頭の中でカウントダウンが刻まれていた。
90秒。
角に差し掛かる前に、私たちは歩みを緩めた。
私は彼を引き戻した。
「…ここで待ってて。」
「…なんで?」
「そのまま入ってしまえば、台無しになっちゃうから。」
「…何を台無しに?」
私は指を唇に当てた。
「…見てて。」
私たちは静かに動いた。
慎重に。
角の手前で立ち止まった。
身を隠して。
画面をちらりと見た。
15秒。
リクは腕を組んだ。
「…まさか、これって――」
足音。
「…え?」
一人の少年がそのエリアに入ってきた。
緊張した様子で。
辺りを見回しながら。
そして――
一人の少女が続いた。
「…まさか…」リクが呟いた。
二人はそこに立ち尽くした。
気まずそうに。
沈黙が流れた。
すると、少年が何か囁いた。声は小さすぎて聞き取れないほどだった。
少女は躊躇した。
一瞬――
何も起こらなかった。
それからゆっくりと――
二人は互いに近づいた。
もっと近くへ。
さらに近くへ――
リクの目が丸くなった。
「…おい…レン…」
「ま、まさか…」
そして――
二人はキスをした。
そのキスがどれほど熱烈だったかは書きはしないが……二人が止まるまで、かなり長い時間が経っていた。
少女は息を切らしており、彼女の口紅が少年の唇にべっとりと付いていた。
二人は顔面真っ赤だった。
沈黙。
完全な沈黙。
画面がちらついた。
[イベント完了]
「…何だ…」
リクは動かなかった。
「…一体今、何を見ちゃったんだ!!!」
彼は私の方を向いた。
ゆっくりと。
とてもゆっくりと。
「…知ってたんだな…」
私は何も言わなかった。
「…本当に知ってたんだな。」
「…言っただろ」
「…いや…いや、これは普通じゃない」彼は呟いた。「これは運じゃない…偶然でもない…」
彼は髪をかきむしった。
「…お前が予言したんだ」
「…システムがやったんだ」
リクは髪をかきむしった。
「…待て…待て…」
彼の瞳はさらに見開かれた。
「…じゃあ、席替えの件は――」
「…何?」
「君が白崎さんの隣に移動させられたことだよ」と彼は言った。「あれも普通じゃなかった」
「ああ…システムが強制したから」
「…強制した?」
「『イベント補正』とか言ってた」と私は答えた。「私がストーリーに干渉してたみたい」
リクは完全に黙り込んだ。
「…物語…?」
「…ああ」
「…つまり…」彼はゆっくりと言った。「…俺たち、何かのラブコメの筋書きの中にいるってこと?」
「…そういうことみたいだ」
沈黙。
長い沈黙。
リクは再び周囲を見回した。
生徒たちを。
僕を避けている女子たちを。
何事もなかったかのように続く、普通の学校生活。
そして、再び私の方へ。
「……レン」
「……うん?」
「……これ、狂ってるよ」
「……分かってる」
「いや、つまり――文字通り狂ってるってことさ」と彼は言った。「出来事を予知する? 状況を強引に作り出す? 愛情をステータスみたいに数値化する?」
「……そう」
「……それで、お前は『脇役』扱いなのか?」
「……残念ながらね。」
彼は数秒間、僕をじっと見つめた。
そして突然、また頭を抱えた。
「一体どんなバグったゲームに閉じ込められてるんだ?!」
「俺も同じこと聞いてるんだ!」
「それに、なんでお前がそれになってるんだ?!」彼は続けた。「なんで俺じゃないんだ?!」
「…欲しいのか?」
「…ああ――待て――いや、取り消す!」
そんな状況にもかかわらず――
私は思わず小さく笑ってしまった。
リクは歩き回るのを止めた。
そして再び私を見た。
今度はもっと真剣な表情で。
「…でも、マジで」と彼は言った。「これはただ無視できるようなことじゃない。」
「……分かってる。」
「……これを何とかしなきゃ。」
私はまばたきをした。
「……『私たち』?」
彼は眉をひそめた。
「……当然『私たち』だろ。そんな奇妙な目に見えないシステムを、お前一人で対処させると思うか?」
「……リク……」
彼は腕を組んだ。
「……お前がこの厄介事に巻き込まれてるんだ。だから俺も巻き込まれてる。」
沈黙が流れた。
「……バカ」
私はわずかに微笑んだ。
「……ありがとう」
リクは視線をそらした。
「……まだ感謝するのは早い」と彼は呟いた。「たぶん、もうダメだ」
「う、うん……」私はゆっくりと息を吐いた。「……このペナルティから抜け出す方法を見つけなきゃ」
そう言ったまさにその時――
画面が再びちらついた。
「…待って。」
リクは眉をひそめた。
「…何?」
「画面が……何か表示されてる。」
新しいテキストが現れ始めた。
[システム通知]
[ペナルティ状態:有効]
[ペナルティ解除条件:]
[システムの指示に従い、好感度を回復させること]
私はそれを凝視した。
「……冗談だろ。」
「おい」とリクが言った。「どうした?」
「……これによると……これを解決する唯一の方法は……」
私は躊躇した。
「……システムの言う通りにすることだって。」
一瞬の沈黙。
リクがまばたきをした。
「…それ、最悪な案に聞こえるけど。」
「…ああ。」
画面が再びちらついた。
さらに文字が表示された。
[新たな指令が発令されました]
[好感度回復の対象を選択してください]
[候補者一覧:]
リストが現れた。
名前。
見覚えのある名前。
クラスの女の子たち。
次々と。
画面をスクロールしていく。
僕は固まった。
「……何だよ、これ!?」
「……どうした?」リクが尋ねた。
「……リストが表示されてる……」
「リスト?」
「……うちのクラスの女子たちだ。」
リクが少し身を乗り出した。
「……で?」
「……誰か一人を選べって言うの?!」
沈黙。
「……一人を選ぶ?」彼は繰り返した。
「……ああ。」
「……何のために?」
「……好感度を回復させるため。」
また間が空いた。
そして――
「……それって、さらに最悪だ。」
「分かってるよ!」
リクは髪をかき上げた。
「……つまり……この機械は、君に女の子を選べって言ってるんだな……」
「……そして、その指示に従えって。」
「……評判を挽回するために。」
「……ああ。」
彼は僕をじっと見つめた。
それから、僕の目の前の見えない空間を。
そしてまた僕を。
「……レン。」
「……うん?」
「…… 「俺たち、実はゲームの中にいるんだ。」
「……そうみたいだね。」
沈黙。
すると、リクは突然ニヤリと笑った。
「……よし。」
「……え?」
「もしここに閉じ込められてるなら」と彼は腕を組んで言った。「賢くやるんだ。」
「……どういう意味?」
「……慎重に選ぶんだ。」
私はまばたきをした。
「……慎重に?」
「ああ」と彼は言った。「だって、誰を選ぼうとも……」
彼は私を指差した。
「……その人が重要になるから。」
私の視線はゆっくりと画面に戻った。
名前のリストは、まだ光り続けていた。
待ち構えている。
私たちは互いを見つめ合った。
言葉はいらなかった。
私たちはすでに分かっていた。
「…ああ」とリクは呟いた。
「…唯一の安全な選択肢だ」
私はため息をついた。
「…白崎さんをこんなことに巻き込みたくないんだけど……」
「でも、彼女だけは今まで君を避けていなかった……理由は分からないけど」とリクは答えた。
私の視線は再び画面へと移った。
彼女の名前。
白崎葵。
メインヒロイン。
「……でも……」
私は軽く拳を握りしめた。
「……これしか選択肢はない。」
私は手を伸ばし――
彼女の名前を選んだ。
[ターゲット選択:白崎葵]
[好感度回復ルート開始]
「……終わった」と私は静かに言った。
リクは頭をかいた。
「……待って」
「……何?」
「もし、その課題をこなさなかったらどうなるの?」と彼は尋ねた。「つまり……無視しちゃったらどうなるの?」
私は固まった。
「……いい質問だね」
画面が瞬時にちらついた。
[警告]
[割り当てられたタスクを完了しなかった場合、追加のペナルティが発生します]
[ペナルティ:好感度 -200(全女性キャラクター)]
「…やばい。」
「…マジでやばい!」
私の顔は青ざめた。
「リ、リク…」
「…うん?」
「…もう、どうしようもないわ。」
「…何て書いてあった?」
「…もしタスクをこなさなかったら…」
私は喉を鳴らした。
「…好感度がさらに200下がるって。」
一瞬の沈黙。
「…すべての女の子に対して。」
リクは黙り込んだ。
「…わかった」と彼はゆっくりと言った。「もういい。」
「……ああ。」
「すべての課題をこなすんだぞ。」
「……分かってるよ!」
私は全く信用できないという表情で画面を見返した。
「……マジで、このシステム、全然信用できない……」
「……同感。」
「それに、あの『デイリークエスト』の話なんて、もう聞きたくないよ……」
まるで合図でもあったかのように――
画面が再びちらついた。
[お知らせ]
[デイリークエスト:ペナルティ発動中のため停止中]
[ペナルティ解除後にデイリークエストシステムが再開されます]
私はそれを見つめた。
「…ああ」
一瞬の沈黙。
「…ねえ」
私は腕を組んだ。
「…よかった」
「デイリークエストなんていらない」
すると――
画面がまた変わった。
[タスク1 割り当て]
[目的:教室に入る]
[行動:白崎葵に近づく]
[タスク条件:他の生徒たちの前で5分間、彼女にイチャイチャする]
[必須の最初のセリフ:「今日はすごく可愛いね。」]
…
沈黙。
完全な沈黙。
私は固まった。
「……いや」
リクは瞬きをした。
「……何?」
「……システム、冗談だろ……」
「……レン?」
「……ダメだ!」
私の声が大きくなった。
「……これ、何だよ?!」
「おい――どうしたんだ――」
「マジかよ?!」私は叫び、画面を指差した。
「一体全体、これ何てクエストなんだよ?!」
リクは少し後ずさった。
「…兄貴――落ち着け――」
「誰かこのクソシステムに、冗談はやめろって言ってくれ!!!」
「これ、正気じゃない!!」
「ありえない―― 絶対にこんなのやるもんか!!」
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