第3章 私を本編へと引きずり込んだシステム
第3話〜第5話は長めになってしまいましたが、今後は読みやすさを意識して、分量を調整していきます。
[デイリークエスト
クラスの女子と1時間話す
歩きながら女子の手を握る
女子から褒められる]
…
…
一瞬、頭が真っ白になった。
「女子と1時間話す…?」
「女子の手を握る…?」
「女子に…褒められる…?」
「一体全体、これらはどんなクエストなんだ!?」
「……大丈夫?」
私はびくっとした。肩が跳ね上がり、首を振り向いた勢いで、椅子の上でバランスを崩しそうになった。
白崎葵が私を見ていた。まっすぐ、私を。
一瞬、頭が真っ白になった。いつから私を見ていたんだ……?
「……ご、ごめんなさい」彼女は慌てて言い、申し訳なさそうに手を少し上げた。「驚かせるつもりはなかったの」
驚かせる……?
「急に何か言ったから、何かあったのかと思って……」
僕は空に向かって話していた。
クラスで一番美しい女の子の前で。
すごいな。
よくやった、レン。第一印象は最悪だ。
「…い、いいえ」と、僕は慌てて背筋を伸ばした。「…いや、大丈夫。何も起きてない。ただ……考えてただけ」
彼女は一瞬僕を見つめ、「…本当に?」
「…うん」と、僕は黒板の方を見据えて答えた。「ちょっと混乱してただけ」
しばらくして、彼女はうなずくと、ノートに目を戻した。
再び沈黙が訪れた。
教室には、黒板を擦るチョークの音と、ページをめくる音だけが響いている。
黒板を見ようとしたが、頭が集中できない。
この気まずさは一体何なんだ…?
ただ隣同士に座っているだけだ。
普通のことだ。
まったく普通のことだ。
それでも……
数秒後、私は小声で言った。
「…あの。白崎 さん?」
彼女はまた私を見た。
「はい?」
私は一瞬ためらい、頬を掻いた。
「…君は…僕の隣に座って、気まずい?」
彼女は一度まばたきをした。
「…え?」
「つまり――」変な感じにならないよう、私は急いで付け加えた。
「もしそうなら、先生に席を替えたいって言えばいいよ。先生ならきっと許可してくれると思うよ。」
そう言った瞬間、彼女は少し驚いたような表情で私を見た。
それから、少し首を傾げた。
「……なんで?」
「……なんで?」
「私の隣に座りたくないの?」
私の頭はまた止まった。
えっ――
「違う!そういう意味じゃない!」
先生に聞こえないよう、私は急いで声を潜めた。
「ただ……その……突然、知らない人の隣に座れって言われたら、気まずいかもしれないと思って。」
彼女はしばらく私をじっと見つめた。
それから、表情が少し和らいだ。
「……気まずくないよ。」
「……本当?」
「うん。」
彼女は一瞬間を置き、それから静かに付け加えた。
「どちらかといえば……私が急に席を替わってほしいって言った方が、もっと気まずいと思う。」
それ……確かに一理ある。
「……うん……そうだな」と私はつぶやいた。
しばらくの間、私たちは二人とも再び黒板を見つめた。
それから彼女がまた口を開いたが、今度はそれほど真剣な口調ではなかった。
「きみ、高橋君 だよね?」
私は彼女を見た。
「……うん。」
「数学の成績、いつも高いよね。」
私はまばたきをした。
待てよ。
彼女、それ知ってるの?
「……えっと……数学だけだよ」と私は言った。
「他の科目は……そんなにすごいわけじゃない。」
すると彼女はノートを見て、また私の方を見た。
「……実は最近、何章か欠席しちゃって」と彼女は言った。
「……欠席?」
彼女は軽くうなずいた。
「家族と旅行に行ってて、授業をいくつか休んじゃったの」
ああ。
彼女は少し躊躇してから、言葉を続けた。
「だから……もしよければ……いつかノートを見せてくれない?」
一瞬、私はただ彼女を見つめていた。
クラスで一番美しい女の子。
クラスで一番の優等生。
私に助けを求めている。
脳裏で即座に警鐘が鳴り響いた。
これは間違いなく、あのイベントの一つだ。
どこからともなく青いパネルが開いた。
[ロマコメイベント発動中…
ヒロインとの接触を検知
選択によりストーリールートが分岐します]
「…ふざけるな」と、俺は小声で呟いた。
素早く目の前の空気をタップした。
インターフェースは瞬時に消えた。
「……何か言いましたか?」と彼女は尋ねた。
私は硬直した。
くそ。
彼女はまた私をじっと見つめていた。
「……い、いいえ」と私は慌てて答えた。「えっと……何も」
うまく切り抜けた。
完全に普通だ。
絶対に怪しまれていない。
私は咳払いをして、無理やり会話を続けた。
「ノート、手伝うよ」と私は言った。「もしよければ、だけど」
彼女は一度まばたきをし、それから小さくうなずいた。「構わないよ」
しばらくの間、私たち二人とも何も言わなかった。
そして、彼女がそっと言った。
「ありがとう」
…そして――
彼女は微笑んだ。
大きな笑顔ではなかった。
派手なものではなかった。
大げさなものでもなかった。
それは柔らかかった。
優しいものだった。
だが、なぜか……その笑顔は私の脳を完全に打ち砕いた。
一瞬、周囲のすべてが消え去ったように感じた。黒板を擦るチョークの音。教室の静かなざわめき。時計の針の音さえも――
すべてが消え去った。
彼女の笑顔……それは温かかった。
綺麗でもなかった。
可愛くもなかった。
ただ、温かかった。
あの、理由もなく胸が締め付けられるような温かさ。頭が真っ白になるような温かさ……まるで脳が機能することを完全に諦めてしまったかのような。彼女が微笑むと、その金色の瞳はわずかに柔らかくなり、窓から差し込む光が瞳に反射して、まるで……現実離れしたように見えた。
「……これは何だ……?」と私は心の中で思った。
一瞬、息をすることさえ忘れてしまった。
私は慌てて視線をそらし、再び黒板に集中しようと必死になった。
落ち着け。
落ち着いて。
ただの笑顔だよ。
ごく普通の笑顔。
みんなよくやってることだ。
これは全く普通のことだ。
…それなのに、なぜ私の心臓は5回も跳ね上がったんだろう?
私は背筋を伸ばし、まるで何もなかったかのように振る舞おうと必死になった。まるで、たった一つの表情に精神的に打ちのめされたことなどなかったかのように。まるで、笑顔という単純なものを過剰に分析してしまったことなどなかったかのように。まるで、私が――
完全にぼんやりしていたことなどなかったかのように。
先生は何かについて延々と話し続けていた。
数字。方程式。グラフ。
普段は集中できる科目なのに。
でも今日は?
何も耳に入らなかった。
頭の中は、あの瞬間のことばかり。
あの笑顔。
また。
そしてまた。
そしてまた。
「…集中しろ」と、自分に呟いた。
効果なし。
ノートを取ろうとした。
ふと気づくと、数字の「3」を3回続けて書いていた。
今どの単元を勉強しているのか、さっぱりわからなかった。代数?三角法?もう別の単元に移ったのか?
待てよ…いつベルが鳴ったんだ?
いつの間にか、先生は教室を出て行った。別の先生がやって来た。それからまた別の先生。声が変わった。話題が変わった。
でも、私は何も気づかなかった。
時間が……過ぎていった。
そして気がつくと……リン——
大きなベルの音が教室中に響き渡った。
休み時間。
休み時間のベルが鳴るやいなや、教室中が騒然となった。
椅子が床を擦る音。話し声。後ろの方で誰かが大声で笑っている。
私はまだ、ここ数時間の授業で何が起きていたのか理解しようとしていたその時——
「白崎!」
「ねえ、白崎、ちょっと聞いていい?」
「今日の髪型、すごく似合ってる!」
一瞬にして……
私たちは囲まれた。
「……うわっ。」
女子たちがあっという間に彼女を取り囲み、まるでそれがこの世で最も自然なことであるかのように小さな輪を作った。
当然だ。
そうなるに決まってる。
白崎葵だった。
その間、僕は相変わらずそこに座っていた。
完全に無視されている。別に、そうなるのは予想していたことだが。
僕は椅子に少し背もたれ、顎を手のひらに乗せた。「…ああ、これならいい感じだ」
女の子の一人が白崎さんに顔を近づけた。
「今日の髪、すごくツヤツヤしてる!シャンプー変えたの?」
「それとも、この前話してたあのオイル? 名前、もう一度教えて!」
「それに肌も……マジで、なんでそんなにきれいなの?!」
「ニキビなんてできるの?」
葵は軽く微笑み、小さく笑った。
「別に特別なことじゃないわ」と彼女は優しく言った。「ただ、基本的なケアをしているだけよ」
「まさか、それだけ『基本』なんてありえない!」
「私たちにも教えて!」
「今日使ってるリップティント、何?すごく似合ってる!」
「そう!すごくお似合い!」
彼女は皆の質問に落ち着いて答えた。
その優しい声。わずかに動く首。穏やかな表情。
「……最近買ったものなの」と彼女は静かに言った。
「もしよかったら、後で詳細を送るわ」
「ぜひ教えて!」
「ほら、彼女なら教えてくれるって言ったでしょ!」
さらに声が。さらに質問が。さらに注目が集まる。
私はゆっくりと椅子を少し後ろにずらした。あんなに賑やかな真ん中に座る必要なんてない。どうせ誰も私なんて見ていないし。
すると――
男子たちも加わってきた。やっぱりね。
「白崎さん、今日の放課後、空いてる?」
「ねえ、駅の近くに新しい店があってさ――」
「一緒に遊ばない?」
「うん、カラオケに行く予定なんだ!」
「カラオケって楽しそうじゃない?」
ああ。
やっぱり来た。
お決まりの展開だ。
横目で彼女を見た。
相変わらず笑顔。
相変わらず落ち着いている。
相変わらず完璧だ。
「……ごめん」と彼女は丁寧に言った。
「今日は用事があるから、行けないの」
「えー、マジ?」
「ちょっとだけ、さ……」
「じゃあ、今度?」
彼女は軽く首を振り、それでも優しい微笑みを絶やさなかった。
「また今度ね」
その口調は柔らかかった。
断っているわけでもなく。
誘っているわけでもなく。
ただ……完璧にバランスが取れていた。
誰の気持ちも傷つけないような答え方だった。
「……彼女はこれが上手い」と、私は静かに呟いた。
あのように人と接すること。皆を満足させること。すべてを円滑に進めること。
だが……
ほんの一瞬――
あることに気づいた。
それは微かなものだった。
あまりにも微かすぎて、他の人ならおそらく気づかなかっただろう。
だが、私は気づいた。
あの笑顔。
それは変わらなかった。
一度たりとも。
同じ曲線。
同じ表情。
毎回、同じ完璧な反応。
「……あれは……自然なことなのか?」と私は思った。
それとも――
彼女はただ、これに慣れているだけなのか?
ほんの一瞬、彼女の目がわずかに動いた。
笑顔は依然としてそこにあった。
だが、その笑顔のどこかには……
違和感が感じられた。
私は席からゆっくりと立ち上がり、白崎の周りで渦巻く騒ぎを避けようとした。あの群衆の中で生き残るなんて無理だ。
「…やっと」と、私は立ち去りながら独り言をつぶやいた。「静かだ」
「レン――」
ドスン。
「――うわっ?!」
誰かが後ろからぶつかってきたので、私は一歩前に出た。
すぐに振り返った。
「……リク」
彼は私を見た。
そして目を細めた。
「……お前」
「……何?」
彼は私の肩に手を置き、首を横に振った。
「……俺は君を信じていた」
「……またか」
「裏切ったな」
「…裏切ってなんかいないよ」
「裏切ったんだ」
「先生にマジで怒られたんだぞ!」
「なんて美しい罰だったことか」と彼は言い、私の席を指さした。
「…やめてよ」
「お前」
彼は大げさに私の顔を指さした。
「白崎葵の隣に座って…」
「…無理やりね。」
「それで『ロマンチックな瞬間』を過ごしたのね。」
「…ただ話しただけだよ。」
「言い訳ね。」
「本当のことだよ。」
「親友にも何も言わなかったのね。」
「そんなことになるとは思ってもみなかったんだぞ?!」
「許せない。」
「……頭おかしいんじゃないの」
私は腕を組んだ。
「それに、無実のふりなんてしないで」
彼はまばたきをした。「……僕?」
「そう、あなたよ」
「先生が私たちを呼んだ時、あなたは何をしたの?」
「……何も?」
「そうよ。何も。」
「まるで私のことなんて知らないかのように、ただ座っていただけじゃない。」
「あれは生存本能ってやつさ。」
「あれは裏切りよ。」
「あれは知性ってやつさ。」
「あれは蛇みたいな奴ってことよ。」
彼はニヤリと笑った。
「…そして、その蛇のおかげで――」
彼は再び私の席を指差した。
「君は今、白崎葵の隣に座っている。」
「……彼女の名前をそんな風に言うのはやめて。」
「どういう風に?」
「まるで伝説的な偉業みたいに。」
「そうだよ。」
「……私は何もしてないわ。」
「その通り。だからこそ、もっとクレイジーなんだ。」
私はため息をついた。
「……大げさよ。」
「俺は正しく反応してるだけだ。」
「違う、君は――」
彼は突然言葉を止めた。
そして、顔を近づけてきた。
「……待って。」
「……何?」
「……なんで顔が赤いんだ?」
私は固まった。
「……赤くないよ。」
「赤いわ。」
「ただ暑いだけ。」
「今日は暑くないよ。」
「……急いで歩いたから。」
「座ってたじゃないか。」
「……黙って。」
彼は私を見つめ、目を細めてさらに身を乗り出した。
「……赤くなってる。」
「赤くなってなんかいない。」
「文字通り真っ赤だよ。」
「全然普通だよ。」
「ありえない。」
「…リク。」
「ありえないよ~。」
「…やめて。」
「君、固まってるよ。」
「…固まってなんかいない。」
「今日の授業を全部忘れたんだろ。」
「忘れてないよ——」
「…教科を言ってみて。」
「…数学。」
「それは『前』の話だろ。」
「…黙って。」
彼は爆笑した。
「ハハハハ—— ブラザー——」
「やめて——」
「ブラザーのシステムがクラッシュした——」
「そんなことじゃなかった——」
「メモリ不足で動いてるんだ」
「黙って——」
私は笑いをこらえようとした。
本当にそうしようとしたんだ。
でも、彼がそうやって言い続ける様子を見て――
「……プッ――」
彼はすぐに僕を指差した。
「笑っただろ――」
「笑ってないよ――」
「笑ったよ――」
「……わかった、いいよ――」
結局、僕たちは教室の真ん中で、二人ともバカみたいに笑い転げてしまった。
私の顔はまだ少し赤かった。
彼のニヤニヤした顔は相変わらずうざかった。
でも、その瞬間だけは――
すべてがまた、普通に戻った気がした。
「…なあ」彼は目を拭いながら言った。
「俺、本当に誰よりも君のことを分かってるんだな」
「…うるさい」
「おい」
突然、背後から柔らかい声がした。
二人は同時に振り返った。
そこに立っていたのは、白崎葵だった。
「…!」
一瞬、頭が真っ白になった。
一方、陸は――即座に立ち上がった。
「あ、白崎!」彼は、あまりにも元気すぎるほどに言った。「やあ!」
「…やあ」彼女は小さく頷き、礼儀正しく答えた。
そして、彼女は私を見た。
「…高橋君」
「…え、えっと?」私は、あまりにも早口で答えた。
いいぞ。すごくクールだ。全く怪しくない。
「ただ言いたくて」彼女は静かに言った。「ありがとう……数学のノートを手伝ってくれるって言ってくれて」
「…大したことじゃないよ」私は言った。「本当に」
そして、何かが起こる前に――
リクが突然、その場に割り込んできた。
「…マジでこいつに手伝ってもらうつもり?」
「…おい。」
白崎 さんは瞬きをした。
「…何か問題でもあるの?」と彼女は冷静に尋ねた。
陸は、あたかも私が何か深い闇の秘密であるかのように、私を指差した。
「こいつは」と彼は言った。「昼も夜もアニメばかり見てるんだ。」
「…そんなことないよ」
「本当だよ」
「『僕も勉強してるんだ』」
「ああ、アニメのストーリーをね」
「…アニメ?」彼女は繰り返した。
驚いたことに――
彼女の表情がわずかに変わった。
「…アニメ見てるの?」彼女は僕を見て尋ねた。
「…うん」僕はゆっくりと言った。「…たくさん」
少しの間が空いた。
すると彼女は言った――
「……私もアニメ見てるの」
「……え?」
待てよ。
「……本当に?」
彼女は軽く頷いた。
「うん」
「……マジで?」
「……うん」と彼女はもう一度言った。今度は少し楽しげな口調だった。
「……まさかとは思わなかった」と私は認めた。
「……なんで?」彼女は少し首を傾げた。
「その……。」私は躊躇した。
「あんまりそういうタイプには見えないから。」
「……タイプ?」彼女は繰り返した。
「……ほら、あの……」私は気まずそうに言った。
「……ちょっと失礼じゃない?」と彼女は言った。
「……そういう意味じゃなかったんだ!」
隣でリクが鼻を鳴らした。
「…もう終わりだ」と彼は小声で言った。
「…黙ってよ」
葵は小さく、静かに笑った。
「…いいのよ」と彼女は言った。
「言いたいことはわかるわ」
そして彼女は再び私を見た。
「…じゃあ、どんなアニメを見てるの?」
「…だいたいラブストーリーかな」と私は思わず答えた。
そう言った瞬間――
「…ラブストーリー?!」と彼女は言った。
私は固まった。
リクも固まった。
「…ラブストーリーのアニメを見てるの?!」
「…う、うん――」
「どれ?!」
「…えっと――たくさん――」
「スローバーンが好き?それともストレートなやつ?!」
「…ス、スローバーン……」
「そうでしょう?!」彼女は少し身を乗り出した。
「時間をかけて盛り上がるほうが断然いいわ!」
「…その通り……」
「それに、二人が自分の気持ちに気づくのが遅くなるのも……」
「うん……」
「それに、あの小さな瞬間たち——」
「ただ一緒に座って、何も話さないような時とか——」
「でも、その緊張感が伝わってくる——」
「うん——」
リクはゆっくりと一歩後ずさった。
「……怖い。」
私たちは彼を無視した。
「……新しいアニメ、見た?」私が口を開いた。
「『天使は悪魔の隣に住んでいる』?!」彼女は即座に言った。
「……そう——」
「あの告白シーン——」
「うわあ——」
彼女は言葉を切った。
そして――
沈黙。
彼女の目が大きく見開かれた。
彼女はゆっくりと背筋を伸ばした。
「……あ」
彼女の表情がまた変わった。
落ち着きを取り戻した。
平然とした表情に戻った。
「……ごめんなさい」と彼女は静かに言った。
「ちょっと……興奮しすぎちゃった」
葵は少し照れくさそうに、一瞬目をそらした
「……そんなに大きな声で話すつもりはなかったんだけど」
「……いいよ」と僕は言った。
白崎 さんは彼女をしばらく見つめた。
「……今のは何だったの?」
あの時の彼女――
興奮していて。
声が大きくて。
普段の落ち着いた彼女とは、まるで別人のようだった。
「……僕、今……彼女のまったく新しい一面を引き出してしまったのかな?」
だって、あれは偽物には感じられなかった。
無理やりな感じがしなかった。
あれは――
本物だった。
「…あの、えっと…」青井は、今度は少し躊躇いがちに口を開いた。
「…放課後、時間ある?」
私はまばたきをした。
「…放課後?」
「うん」と彼女は軽く答えた。
「…ノートの勉強を手伝ってほしいの」
「…あ、うん」と、僕は慌てて答えた。
「いいよ」
ちょっと待てよ……
今、即座に「いいよ」って言ったのか?
「…どこで?」
彼女は、何事もなかったかのように答えた。
「…私の家」
僕の頭は完全に停止した。
「…え?」
「学校から近いから」と、彼女はさりげなく言った。
「…だから、そっちで勉強した方が楽でしょ。」
頭が真っ白になった。
彼女の家…
彼女の家…
二人きりで??
「…えっ――」
声が出なかった…
「…えっ―― いや、その――」
彼女を見た。
それからリクを見た。
大失敗だった。彼は私をじっと見つめていた。ニヤニヤと。今まで見たこともないほどに、大きく口を開けて。
「…レン」彼の目はそう言っていた。
「…お前は終わりだ」
私は再び葵の方を向いた。
「…どうして?」彼女は少し首を傾げて尋ねた。
「…何か問題でも?」
「…いや、その…」
言葉。
私の言葉はどこへ行ったんだ。
「……その……ただ……」
脳が全く言うことを聞かない。
「ああ」と彼女は優しく言った。
「……もし気まずいなら、その……」
「違う――」
少し早口で言ってしまった。
「……つまり……」
落ち着け。
「……いや、大丈夫」と、平然を装って言った。
「本当に?」
「……構わないよ」
「……本当に?」と彼女は尋ねた。
「……うん」
全然パニックになってない。
全然普通だ。
放課後に一番人気の女の子の家に行くことに同意したなんて、絶対に考えすぎなんかじゃない。
「……じゃあ」と彼女は優しく言った。
「授業が終わったら待ってるね」
「…わかった。」
彼女は小さくうなずいた。
そして振り返り、自分の席の方へ歩いていった。
沈黙。私はその場に立ち尽くした。凍りついたように。
「…レン。」
私は返事をしなかった。
「…レン。」
相変わらず無言。
「…レン。」
「…何?」
リクはゆっくりと私の方を向いた。
「…彼女の家に行くんだね。」
「…分かってる。」
「…あいつの家へ。」
「…分かってるよ。」
「…放課後。」
「…もういいから、繰り返さないで。」
彼は私の肩に手を置いた。
「…もう終わりだ。」
「…何が終わりなんだ?」
「お前の平穏な生活だ。」
「…黙れ。」
目の前で青い画面が再びちらりと現れた。
「…ああ」と私は呟いた。
「当然さ」
「そうだろう」
「今、こんなことが起きないわけがない」
状況に応じ、画面の明るさがわずかに増したように見えた。新しいテキストの行が現れ始めた。
[警告
サブキャラクターがメインストーリーに干渉しています]
「…またこれか?」
さらにテキストの行が。
[ヒロインとの交流:アクティブ
物語の逸脱:増加中
予定外のルート発動を検知]
「…予定外――何?」
私は眉をひそめた。
「『予定外』ってどういう意味…?」
すると――
新しいウィンドウがポップアップした。
[好感度 +2]
「…え?」
私はまばたきをした。また一行が表示された。
[ヒロインの好感度上昇
現在の対象:白崎葵]
「…待って。」
脳が一時停止した。
「…好感度?」
私は画面を凝視した。
「…ちょっと待って。」
「…これ、好感度まで計測してるの?!」
まるで、この状況に何の違和感も感じてはいけないかのように、情報は次々と表示され続けた。
[システム注記:
ユーザーの行動は、関係性の進展に直接影響します。]
「…関係性の進展…?」
私は髪をかきむしった。
「…つまり…」
「…俺の行動のすべてが——」
「…まるで恋愛シミュレーションゲームみたいに記録されてるってことか?!」
背後で――
「おい」とリクが言った。
「……また独り言言ってるの?」
「……何でもない」と即座に答えた。
「……ただ考えてただけ」
「変人みたいに声に出して?」
「……黙って」
画面に視線を戻した。
まだそこにあった。
まだ光っていた。
相変わらず、全くもって理不尽だった。
「…まずい」と私は思った。
「最初は俺を背景キャラに割り当てて…」
「…今度は好感度を計測してる…?」
私は一瞬、葵の方をちらりと見た。
彼女は自分の席に戻っていた。
落ち着いている。
動じない。
まるで何も変わることのない日常のように。
「…好感度+2…」私は小さく呟いた。「…何に対して?」
話したこと?
手伝うって言ったこと?
それとも――
家に行ったこと?
「……まさか……」
目が少しピクッと動いた。
「……もしこれが増え続けたら……」
「……それってつまり――」
私は言葉を止めた。
「……いや」
首を横に振った。
「……まさか、そんなに簡単に巻き込まれるわけがない」
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