第1部 : 私が切望していた温もり
私が反応する間もなく、彼女は突然私を抱きしめた。
温かくて、柔らかくて、すぐそばにいる。
私の体は固まった。
「……白崎さん?」
彼女はすぐには答えなかった。
その代わりに、優しく私を引き寄せ、私の頭をそっと彼女の胸元に寄せた。
「……高橋くん」と彼女は静かに言った。「……もう大丈夫よ」
何と言っていいか分からなかった。
「もう、全部一人で背負わなくていいのよ」
私の指がわずかに力んだ。
「……リクくんがいる。アイリがいる。そして私がいる」
彼女の声は優しくなった。
「……あなたを見捨てた人たちが、あなたの価値を決めることなんてできないわ」
彼女は言葉を切った。
「……だって、もし彼らが正しかったら、私は今ここに座っていられないから。」
僕は視線をそらした。
「……僕……」
僕の声は弱々しかった。
「……ごめん。」
するとすぐに、彼女の腕が僕を強く抱きしめた。
「……やめて。」
僕はまばたきをした。
「……え?」
「謝ったりしないで」と彼女はきっぱりと言った。
「……話したことに対してじゃない。私を信じてくれたことに対してじゃない。正直だったことに対してじゃない。」
沈黙。
それから、彼女はまた優しい口調に戻った。
「……話してくれてよかった。」
「……疲れてるなら……気分が良くなるまで、このままいていいよ。」
白崎さんはすぐには離れようとしなかった。
数秒間、彼女はただそのままでいた。
私を抱きしめたまま。
温かく。揺るぎなく。
自分でも気づかなかったほど、安心できる温もりだった。
すると、ゆっくりと、私の体は緩んでいった。
さっきまで凍りついていた私の手は、一瞬ためらった……そして、そっと彼女を抱きしめた。
最初は強くは抱きしめなかった。
ただ、その温もりに応えるのに十分なだけ。
私は答えなかった。
答えられなかった。
部屋は、静寂よりも静かだった。
いつものような静寂ではない。
この静寂は、空虚には感じられなかった。
むしろ……満たされているように感じられた。
まるで、世界がついに私から何も求めなくなったかのように。
……この感覚は何だろう?
私は静かに思った。
気づかないうちに、私の腕の力が少し強まっていた。
温かい……
ただ身体的な温かさだけじゃない。
もっと深い何か。
うまく言葉にできない何か。
初めてのことだ……
思考が途切れた。
……何も考えていないような気がする。
過去もない。
過ちもない。
雑音もない。
プレッシャーもない。
ただ……ここにいる。
ただ今この瞬間。
視線をゆっくりと下ろした。
これが……安らぎという感覚なのか。
小さな息が漏れた。
まるで、声を大きく出しすぎたら、この瞬間が壊れてしまうのではないかと恐れているかのように。
腕を彼女に巻きつけたまま、もう少しだけそのままでいた。
そうしなければならないからではない。
ただ、まだ手放したくなかったからだ。
そして初めて……
十方から引っ張られているような感覚がなかった。
何かのバランスを取ろうとしているような感覚もなかった。
ただ……そこにいた。
静かに。
温かく。
その場所に。
しばらくして、私の腕の力が少し緩んだ。
彼女のもそうだった。
私たちはゆっくりと離れた。
急にではなく。
ただ……自然に。
何かがそっと手を離すように。
私はすぐに視線をそらした。
顔が熱くなった。
熱すぎる。
慌てて手の甲で目をこすった。
「…ちっ」
笑い飛ばそうとしたが、声は弱々しかった。
白崎さんは少し首を傾げた。
「……顔、赤くなってる」
「……そんなことない」
「……あるよ」
「……違うよ。」
短い沈黙。
それから、彼女は優しく微笑んだ。
今度はからかうような笑みではない。
ただ……優しいだけ。
私はもうひと息、床を見つめた。
「……ごめん。」
止める間もなく、またその言葉が口をついて出た。
するとすぐに――
彼女の声が少し鋭くなった。
「……言ったでしょ」
私はまばたきをした。
彼女はほんの少し身を乗り出した。
金色の瞳は揺るぎない。
「……謝らないで」
彼女の口調は再び柔らかくなったが、その確固たる強さは失われていなかった。
「……感情的になったことに対して」
「……正直だったことに対して」
「……そして、誰かを必要としたことに対して」
私は黙り込んだ。
その最後の言葉が、他の言葉よりも長く心に残った。
誰かを必要としていること。
私は何も言わなかった。
白崎さんは少し身を寄せ、今度はきちんと私の隣に座り、肩が私の肩にほとんど触れそうになった。
「……あなたはいつも、この世界で居場所を勝ち取らなきゃいけないみたいに話すわね」と、彼女は静かに言った。
私は彼女を見た。
彼女は私を見ていなかった。
ただ、少し先を見つめていた。
「……でも、そんなことないわ」
間が空いた。
彼女の指が、膝の上で軽く丸まった。
「……高橋くん、あなたは決して『重すぎる』なんてことなかったのよ」
「……ただ、あなたをちゃんと受け止められる人がいない場所にいただけ」
一瞬、息が止まった。
なぜ、さっき自分が言ったことよりも、その言葉の方が胸に突き刺さったのか、自分でもわからなかった。
私は喉を鳴らした。
「……それ、今、でっち上げたような言い方だね」
冗談を言おうとした。
思ったより弱々しい声になってしまった。
彼女はようやく私の方へ顔を向けた。
「……それなら、間違っていてもいいわ」と、彼女は静かに言った。
「……でも、それを信じていいってことを、止めないで」
また沈黙が訪れた。
でも、今のは違う。
重くはない。
空虚でもない。
ただ……近しい。
「君のことを知りたい。」
私は彼女を見た。
「……なぜ?」
私は静かに尋ねた。
白崎さんはすぐには答えなかった。
考え込むように、一度まばたきをした。
そして、そっと――
「……あなたがここにいるから。」
間が空いた。
「……それに、あなたのことを知らないままでいたくないの。」
私は黙り込んだ。
彼女は少し近づいてきたが、あまり近づきすぎはしなかった。
「……あなたはいつも、何事も平気なふりをしている。」
彼女の声は少し低くなった。
「……でも、そうじゃないでしょう。」
「……そんなことないよ。」
彼女はすぐに首を振った。
「……本当よ。」
迷いはない。
疑いもない。
その言葉に、私はまた黙り込んだ。
白崎さんは一瞬目をそらすと、さらに柔らかい口調で付け加えた――
「……そのところが、私は好きじゃないの。」
沈黙。
私は頬を軽く掻いた。
「……私をあまりにもよく知っているような言い方ね」
私は半分冗談めかしてそう言った。
彼女は私を一瞥した。
「……いいえ」
少しの間が空いた。
「……まだあなたのことを理解しようとしているところよ」
そして彼女はためらった。
「……でも、知りたいの」
その言葉は、今度はもっと自然に響いた。
大げさなものではなく。
ただ、正直な言葉だった。
私は彼女を見た。
二人の間に短い沈黙が流れた。
気まずい沈黙ではなかった。
ただ……穏やかな沈黙だった。
そして、私はようやく口を開いた。
「……ありがとう。」
私の声は、思ったより柔らかく出てしまった。
私はすぐに、ほとんど本能的に付け加えた――
「……すべてに。」
白崎さんは瞬きをした。
そしてすぐに、少し眉をひそめた。
「……やめて。」
私は言葉を止めた。
「……え?」
彼女は少し身を乗り出し、目を細めた。
「……そんな風に言わないで。」
私は首を傾げた。
「……どういう風に?」
「……まるで、私が何かすごいことをしたかのように感謝しているみたい。」
短い沈黙。
「……そんなことしてないよ」
私は気まずそうに頬を掻いた。
「……でも、したじゃない」
沈黙。
彼女は一瞬、私をじっと見つめた。
そして静かにため息をついた。
「……本当に分かってないのね」
私は小さく、自信なさげに笑った。
「……じゃあ、説明してよ」
その言葉に、彼女は一瞬動きを止めた。
ほんの一瞬だけ。
それから彼女は少し視線をそらした。
「……それは、誰かに『感謝』するようなことじゃないの」
少しの間。
「……ただ……やるべきことなの」
私は黙っていた。
「……それでも」
私はそっと言った。
「……それでも、助かったよ」
間。
私は袖を握る指を少し強くした。
「……すごく。」
再び沈黙。
白崎さんはすぐには返事をしなかった。
それから、ソファの上で少し近づいてきた。
パーソナルスペースを侵すわけじゃない。
ただ……近くにいてくれるだけ。
「……高橋くん。」
「……うん?」
彼女の声は柔らかくなった。
「…… 誰かが普通に接してくれると、いつも驚いたような口調で話すね」
僕は少し固まった。
彼女は続けた。
「……まるで、優しさなんて珍しいものみたいに」
少しの間。
「……そうあるべきじゃないのに」
僕はうつむいた。
一瞬、何と言っていいか分からなかった。
それから、静かに――
「……僕にとっては、普通じゃなかったんだ」
沈黙。
白崎さんは口を挟まなかった。
ただ聞いていた。
だから、私は続けた。
「……だから、その感覚を忘れてしまったんだと思う」
弱々しい笑いが漏れた。
「……今でも、思い出そうとしてるんだけど」
間が空いた。
そして――
「……バカね」
彼女はそっとそう言った。
きつい口調ではない。
侮辱でもなかった。
ただ……正直な言葉だった。
私はまばたきをした。
「……え?」
白崎さんが今、私を見つめた。
金色の瞳は揺るぎない。
「……『思い出す』必要なんてないのよ」
少しの間。
「……ただ、それを受け入れればいいの」
私は黙り込んだ。
彼女は少し背もたれに寄りかかったが、声はしっかりしていた。
「……あなたのことを気にかけている人たちは……もう、現実の存在なんだから。」
一瞬の沈黙。
それから、さらに優しく――
「……私も含めて。」
沈黙。
その言葉は、思ったより長く空気に漂っていた。
私はゆっくりと息を吐いた。
そして、疲れ切ったような小さな笑みを浮かべた。
「……あなたも本当に頑固ね」
彼女は瞬きをした。
「……そんなことないわ」
私は軽く頷いた。
「……うん、そうよ」
「……じゃあ、二人とも頑固ってことね」
私たちは静かに笑い、やがて声を上げて笑った。
雰囲気が和やかになった。
その時、私は時計に目をやった。
「……あら」
私はまばたきをした。
「……もうこんなに遅いのか?」
白崎さんも私の視線を追った。
彼女の視線は時刻に留まった。
そして、彼女は静かにため息をついた。
「……ああ。」
少しの間が空いた。
「……また遅刻ね。」
私は少し固まった。
「……え?」
彼女は私を見た。
「……私の見た限りでは……これ、よくあることよね」
私は気まずそうに頬を掻いた。
「……いつも俺のせいじゃないよ」
彼女は首を傾げた。
「……一度だけ、私のせいだったわ」
私はまばたきをした。
「……え?」
彼女は軽く頷いた。
「……アニメを見てた時よ」
間が空いた。
「……時間を忘れてたんだ」
沈黙。
私は彼女をじっと見つめた。
そしてゆっくりと――
「……ああ」
思い出した。
あの夜のこと。
まさにあの状況。
私はため息をついた。
「……そうか……あれがあったな」
白崎さんは少し視線をそらした。
「……だから、もう知ってるの」
間が空いた。
それから静かに――
「……リラックスしていると、時間の経過に気づきにくいんだね」
僕は弱々しい笑みを浮かべた。
「……それって侮辱みたいだ」
「……違うよ」
僕は少し伸びをした。
「……まあ……それでも僕は死んでるけど」
彼女は瞬きをした。
「……死んでる?」
私は頷いた。
「……また母さんに怒られるな。」
彼女は小さくため息をついた。
「……いつものことね。」
その言葉に、私は言葉を詰まらせた。
「……なんで、そんな風に諦めたような口調で言うの?」
彼女は一瞬、私を見つめた。
そして、ただこう言った。
「……だって、何度も繰り返してるから。」
一瞬の沈黙。
それから、さらに柔らかい声で――
「……それに、あなたは毎回生き延びてるし」
僕は少し笑った。
「……なるほどな」
僕はカバンを手に取った。
カバンを手に取り、ドアの方へ歩き出した。
手がもうドアノブにかかっていた――
その時、突然、
背後から何かがそっと僕の手を握った。
私は足を止めた。
「……え?」
少し振り返った。
「……白崎さん?」
彼女はそこに立っていた。
彼女の指は、まだ私の手を握っていた。
だが、彼女は私を見ていなかった。
「……あなた……」
彼女の声は低く漏れた。
聞こえるか聞こえないか、そんなほど小さな声だった。
「…… 「ここに……一晩、泊まってもいいわよ――」
「……ん?」
私は首を傾げた。
彼女は固まった。
一瞬、握る力が強まった。
そしてすぐに緩んだ。
「……な、何でもない」
私はまばたきをした。
「……よく聞こえなかった」
白崎さんは素早く顔を背けた。
頬にほのかな赤みが浮かんでいた。
「……いいえ。何でもないわ」
彼女は軽く首を振った。
「……忘れて」
間が空いた。
そして、さらに小さな声で――
「……おやすみ、高橋くん」
私は一瞬、彼女を見つめた。
それから、少し微笑んだ。
「……うん」
「……おやすみ、白崎さん」
少しの間が流れた。
「……学校でね」
彼女は小さくうなずいた。
ゆっくりと――
僕たちの手が緩んだ。
急にではなく。
ただ……名残惜しそうに。
そして、ついに離れた。
僕はドアを開けた。
外へ一歩踏み出した。
ドアを閉める前に――
一度だけ振り返った。
白崎さんはまだそこに立っていた。
静かに見守っていた。
僕は微笑んだ。
彼女は何も言わなかった。
でも、目をそらすこともなかった。
彼女も僕に微笑み返してくれた。
背後でドアが静かに閉まった。
そして、夜の空気はさっきより少し温かく感じられた。
ドアを開けた時――
「……ただいま。」
母はすぐに顔を上げた。
「……また遅かったわね」
その声はすでに鋭かった。
私は頬を掻いた。
「……うん、ごめん。白崎さんの家にいたんだ」
沈黙。
怒りは一瞬で消えた。
「……え?」
母の表情が変わった。
もう怒ってはいない。
ただ……驚いている。
「…葵ちゃん?」
私が答える前に――
「えっ?! 白崎お姉ちゃん?!」
妹の光が、ソファの後ろから飛び出してきた。
彼女の目は輝いていた。
「…待って、待って、待って――あの子の家にいたの?!」
私はため息をついた。
「…そういうことじゃないよ。」
でも、もう手遅れだった。
母が少し身を乗り出した。
「……じゃあ、そこで一体何をしてたの?」
すぐにひかりも口を挟んだ。
「……一緒にご飯食べたの?!」
「……勉強したの?!」
「……二人きりだったの?!」
「……何かあったの?!」
私は目をそらした。
「……ただ話してただけだよ。」
それがかえって事態を悪化させた。
「…ただ話しただけ?!」
ひかりは、まるで重大ニュースを発見したかのような顔をしていた。
母はため息をついたが、今は少し笑みを浮かべていた。
私は軽くうなずいた。
「…うん。」
二人は質問を浴びせ続けた。
からかいながら。
笑いながら。
どういうわけか…
私はイライラしなかった。
恥ずかしくもなかった。
ただ…心が軽かった。
まるで、気づかないうちに胸から何か重いものが取り除かれたかのように。
夕食後、私は自分の部屋へ行った。
ドアを閉めた。
そして、しばらくベッドに座っていた。
突然、目の前にかすかな光が現れた。
[通知]
[キャラクター役の昇格:背景キャラクター #25]
「…何だよ、これ?!」私は驚いて呆気にとられた。
ああ、そうだった…
すっかり忘れていた……
このシステムが、僕の人生に存在していることを。
僕はそれを一瞬見つめた。
そして、小さくため息をついた。
「……このシステムって、一体何なんだ……」
答えは返ってこない。
いつものことだ。
僕はゆっくりと背もたれにもたれかかった。
天井を見つめながら。
「……一生、理解できないだろうな」
手を上げた。
一瞬、動きを止めた。
そして――
インターフェースを閉じた。
光は消えた。
初めて……
通知を気にする必要を感じなかった。
横を向いた。
毛布を少し引き寄せた。
そして目を閉じた。
通知はない。
システムについての考えもない。
プレッシャーもない。
恐怖もない。
ただ静寂があるだけ。
ただ安らぎがあるだけ。
私を気にかけてくれる人たちがいることを知っていた。
私を愛してくれる人たちが。
私の存在を知っている人たちが。
決して私を見捨てない人たちが。
ママ、パパ、ヒカリ、リク、アイ……
そして白崎さん……
突然、幸せが溢れ出した……
そしてなぜか……
久しぶりに……
私は眠りについた。
安らかに。
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