第1部:ショッピング、映画……そして思いがけない登場人物
ガラス扉がスライドして開いた。
中へ足を踏み入れると、冷たい空気が私たちを包み込んだ。
ショッピングモールはすでに活気に満ちていた――重なり合う声、響き渡る足音、磨き上げられた床や鮮やかなディスプレイに反射する光。
「……混んでるな」と私はつぶやいた。
「週末なんだから」と白崎は答えた。「何を期待してたの?」
「……平穏。静寂。普通の生活。」
私たちは二人で笑った。
…
さらに奥へと歩みを進めた。
両側には店が並んでいた――服、アクセサリー、色とりどりの光がきらめくあらゆるものが。
白崎の歩みが少し緩んだ。
彼女の視線は、あるディスプレイから別のディスプレイへと移っていった。
微かな変化。
だが、はっきりと感じられた。
「…入りたいんだろ?」と僕は言った。
「…ん?」
「…あの店」
彼女は僕の視線を追った。
すぐ目の前にあるアパレルショップ。
「…その…時間はあるし」と彼女は、何気ないふりをして言った。
「…入りたいんだろ」
「…そうかも」
「…行こう」
彼女の表情が和らいだ――ほんの少しだけ。
「…いいわ」
店内は、照明が温かみのある色をしていた。
柔らかかった。
服は整然と並べられ、鏡には静かな動きが映し出されていた。
彼女の目はラックからラックへと移り、指が布地を軽く撫で、気になるものがあるとそこで立ち止まった。
「……これ、かわいい……」
「……うーん……これも……」
彼女はトップスを手に取り、首を傾げ、そして元に戻してから次のものへと移った。
ためらいはなかった。
「完璧な落ち着き」などなかった。
ただ……好奇心。
軽やかで。
飾り気のない。
…
私は彼女の少し後ろに立っていた。
見守っていた。
気づかないうちに――
私は微笑んでいた。
「…ねえ」と私は言った。
彼女は少し振り返った。
「…何?」
「…これ、いいね」
「…ん?」
「…今の君」
彼女は瞬きをした。
「……どういう意味?」
「……学校にいる時みたいに、落ち着いていて冷静には見えないよ」
「……いつもあんな風じゃないわ」と彼女は即座に言った。
「……そうか……たぶん、たまにかな」
「……たまにだけ?」
「……わかった、そうね。たいていはそうかも」
私はくすりと笑った。
彼女は一瞬、私を見つめた――
そして表情を和らげた。
「……いいのよ」
「……ん?」
「……これはただ……私のもう一つの顔なの」
少しの間が空いた。
それから、少し声を潜めて――
「……あなたに見せるだけよ」
……
私の脳がフリーズした。
「…な、何…?」
…
顔に一気に熱が走った。
…
彼女は気づいた。
もちろん気づいている。
彼女の唇に、ほのかな笑みが浮かんだ。
「…あら」
「…何?」
「…赤くなってる」
「…そんなことないよ!」
「…あるよ」
「…ないよ」
「……赤くなってるよ。」
彼女はほんの少し身を寄せ、いたずらっぽく目を細めた。
「……自分が特別だと思ってるの?」
「……私……そんなこと……!!」
私はすぐに顔を背けた。
「……あなたが始めたんだ。」
「……私が?」
「……うん。」
「……じゃあ、どうするつもり?」
…
私は彼女の方を振り返った。
「……何もしない。」
「……何もしない?」
「……ただ、これを覚えておくだけ。」
「……何を?」
「……君もこういう風になるってこと。」
彼女は瞬きをした。
「……どういう風?」
「……優しくなる。」
「……私は優しくない。」
「……そうよ。」
「…そんなことない。」
「…あるよ。」
彼女は視線をそらした。
ほんの少しだけ。
「…今日はうざいね。」
「…あなたが始めたんだ。」
「…後悔してる。」
「…手遅れだよ。」
…
彼女はそっと息を吐いた――
それでも、かすかな笑みが残っていた。
彼女は別のラックの前で立ち止まった。
ドレスを二着手に取った。
私の方を向いた。
「……どっち?」
「……何?」
「……これか、これか?」
「……また私に聞いてるの?」
「……うん。」
「……こういうの、全然分からないよ。」
「…選んで。」
「…これは危ないよ。」
「…そんなことない。」
「…危ないよ。」
「…どっちか選んで。」
…
私は両方を見比べた。
それから彼女を見た。
そしてまた両方を見た。
「…白い方。」
「……なんで?」
「……ただ……君に似合うから。」
一瞬の沈黙。
彼女は一瞬、私の顔をじっと見つめた――
本気かどうか確かめるかのように。
そして頷いた。
「……ここで待ってて。」
「……待って――何?」
彼女はすでに試着室の方へ歩いていっていた。
一分後――
カーテンがスライドして開いた。
「……高橋くん。」
「…うん――」
私は振り返った。
そして、固まった。
…
彼女が歩み出た。
白いドレスを着て。
シンプル。
軽やか。
ちょうどいい具合に体に馴染んでいた――柔らかな生地、すっきりとしたライン、彼女が少し動くたびに微かに揺れる。
髪は自然に肩にかかっていた。
その姿全体が――
…
「…どう?」
…
「…あ、うん…」
声は思ったよりゆっくりと出た。
「…すごく…かわいいね。」
…
ほんの一瞬――
彼女は固まった。
そして――
「…!」
顔が赤くなった。
一瞬で。
彼女は振り返り――
カーテンを閉めた。
…
「…え?」
…
私はまばたきをした。
「…今、何があったんだ…?」
数秒後――
彼女はまた現れた。
今度は――
服が違っていた。
少し体にフィットしたトップス――
きちんとプリーツの入ったスカートと合わせている。
シンプルだ。
だが…
他の服よりも、彼女のシルエットをくっきりと際立たせていた。
派手ではない。
その服は、彼女の曲線を本当に引き立てていた…
…
一瞬、頭が真っ白になった。
「…あ、ああ…」
一瞬目をそらしてから、また彼女を見た。
「…それ…すごく似合ってるよ。」
「…ただ似合ってるだけ?」
「…いや、その…」
私は言葉を詰まらせた。
そして、無理やりきちんと口に出した。
「…あなたの体型をとてもよく見せてくれますし、とても似合っています。」
彼女の顔にほのかな赤みが広がった。
彼女は素早く顔を背けた。
「……そ、そんな風に言わなくても……」
「……ただ、正直に言っただけだよ!」
「……高橋くん……」彼女は私を一瞥した。
「……え、うん?」
「……変態」彼女はからかうような声で囁いた。
「…違う!待って…僕はそんな…!」
彼女はまたカーテンの向こうへと姿を消した。
…
私はゆっくりと息を吐いた。
「…思ったよりずっと難しいな…」
それから彼女はいくつもの服を試着して――
どれもこれも、彼女にはすごく似合っていた…
カーテンがまた揺れた。
「…高橋くん。」
「…え、ええと…」
彼女が姿を現した――
元の服を着たまま。
少し落ち着いているようだった。
それでも、まだ私の目を見ようとはしない。
「…もう十分よ。」
「…10着くらい試着したよね。」
「…全部似合ってるって言ったじゃない。」
「…だって、似合ってたもの。」
彼女は一瞬、言葉を切った。
ほんの少しだけ。
それから私を見た。
「……じゃあ、次はあなたの番よ。」
「……え?」
私が反応する間もなく――
彼女は私の手首を掴んだ。
「……待って――!?」
「あなたが服を試着するのよ。」
「そんなこと――!」
「するわよ。」
「僕に服なんて必要ない――!」
「必要よ。」
「本当にいらないよ――!」
彼女は手を離さなかった。
当然だ。
彼女は私を店の中へ引きずり込み――
まっすぐメンズコーナーへと連れて行った。
「…白崎さん」
「…ん?」
「お金を持ってないんだ」
彼女は足を止めた。
「…ああ」
「…うん」
少しの間が空いた。
それから――
「……私が買ってあげる。」
「……えっ?!」
「……試着室」と、彼女は私を完全に無視して言った。
彼女はシャツを一枚選んだ。
それからもう一枚。
さらに一枚。
それらを私の腕に積み上げた。
「……行け。」
「……本気か。」
「……本気よ。」
……
私はため息をついた。
「……わかったよ……」
1分後――
「……高橋くん?」
「……うん……」
私は試着室から出てきた。
最初の服を着て。
…
彼女は私を見た。
しっかりと。
ただ一瞥しただけではない。
彼女の視線は――
ゆっくりと――
すべてを捉えていった。
…
「…よく似合ってるわ」と彼女は言った。
「…それだけ?」
「…違うわ」
彼女は一歩近づいた。
「…これだと、肩幅が広く見えるわ」
「…それっていいこと?」
「…うん。」
少しの間が空いた。
それから――
彼女は少し視線をそらした。
「…あと…思ったよりスリムじゃないね。」
「…それってどういう意味…?」
「…悪い意味じゃないよ。」
「…悪い意味に聞こえたけど。」
「…つまり、君の体格は…悪くないってこと。」
…
「…しっかりしてる?」
「…うん。」
彼女の顔にほのかな赤みが差した。
ほんの一瞬だけ。
「…似合ってるわ。」
「次。」
「…もう?」
「…そう。」
「……厳しいですね」
「……行け」
それは続いた。
一着また一着と。
そのたびに――
私が姿を現すと――
そのたびに――
彼女は見つめた。
注意深く。
真剣に。
…
「……こっちの方がいいわ」
「……どうして?」
「……シルエットがすっきりしているから」
「…プロみたいですね。」
彼女が選んだ服をすべて試着した後――
彼女はすでにレジの方を向いていた。
「…白崎さん――!」
「文句は後で言って。」
「今言ってるのよ――!」
彼女は服をカウンターに置いた。
レジ係がスキャンを始めた。
ピッ。
ピッ。
ピッ。
「…こんなこと、承諾なんてしてないわよ—!」
「したよ。」
「いつ—?!」
「店に入った時さ。」
「承諾ってそういうものじゃないわ—!」
彼女はスマホを取り出した。
支払い完了。
終わり。
あっけなかった。
…
私はそこに立ち尽くした。
打ちのめされた。
「…そんなことしなくてよかったのに…」
「したかったから。」
「…いらないって言ったのに。」
「わかってる。」
「…じゃあ、なんで――」
彼女は袋を手に取った。
私の方を向いた。
「……あなたに似合うと思ったから。」
僕は彼女を一瞥した。
そして――
「……ありがとう。」
彼女は微笑んだ。
「……どういたしまして。」
……
僕たちは店を出た。
再びショッピングモールの通路へ。
騒音が以前より大きく感じられた。
でもなぜか――
僕の心は静かだった。
……
白崎が突然立ち止まった。
「……待って」
「……ん?」
彼女はスクリーンの一つを見上げた。
上映時間表だ。
彼女の目が丸くなった。
「……高橋くん」
「……うん?」
「……私たちの映画、何時からだったっけ?」
「……えっと……」
私は見上げた。
……
「……まさか」
…
「…待って――待って――」
…
「…くそっ――!!」
…
「…もう始まってる――!!」
「…何?!」
…
二人は一瞬、固まった。
そして――
「…走れ――!!」
「走れ――!!」
私たちは飛び出した。
人混みの中をまっすぐ。
人をかわし、角を曲がり――
「…なんで時間を確認しなかったの――?!」
「買い物してたのはあなただろ――!!」
「全部いい感じだって言ってたのはあなただろ――!!」
「そういうことじゃない――!!」
…
エスカレーターを駆け上がった――
段を飛ばして――
滑りそうになりながら――
「……気をつけて――!!」
「気をつけてるよ――!!」
……
映画館の入り口が見えてきた。
明かり。
ポスター。
もう中に入っていく人たち。
……
「……遅刻だ――!!」
「…… 「これを見逃すわけにはいかない——!!」
…
私たちは前へ押し進んだ——
息が少し荒くなりながら——
そしてようやく入り口にたどり着いた。
…
「…間に合った——」
「…ギリギリで——」
…
私たちは顔を見合わせた。
そして——
二人とも笑った。
息を切らして。
興奮して。
…
入り口を通り抜け—
チケットを確認され—
ホールの中は少しずつ暗くなっていった。
「…どの列—?!」と私は素早く見回しながら言った。
「…後ろ—!一番後ろの列—!」と白崎は答えると、すでに動き出していた。
「…やっぱり後ろだ—!!」
私たちは階段を駆け上がった――
一段――
二段――
三段――
すでに席に着いている人々がいて、暗がりの空間にはささやき声が満ちていた。
「…あそこだ――!」
「…見える――!」
一番奥。
デラックス席。
少し高くなっている。
スクリーン全体が完璧に見える。
…
「…まさか最高の席をゲットしちゃったな…」と私は呟いた。
白崎は一度周囲を見回し――それから私の方を振り返った。
「…そうね…」
少しの間が空いた。
そして――
「…ところで…」
「…ん?」
「…このチケット、一体どこで手に入れたの?」
…
「…ああ。」
…
「……そうか。」
彼女は期待を込めて私を見つめた。
「……ところで、ありがとう」と彼女はそっと言った。「……ここへ連れてきてくれて。」
……
「……感謝すべきは僕じゃないよ。」
「……ん?」
「……リクに感謝して。」
「……リクくん?」
「……ああ。彼がこのチケットを持っていたんだ。」
「…じゃあ、なぜ彼は来なかったの?」
「…来られなかったんだ。祖父母が遊びに来てるって…だから、僕にチケットをくれたんだ。」
…
彼女はまばたきをした。
「…マジで?」
「…うん。」
少しの間が空いた。
それから――
私たちは二人とも一瞬、スクリーンの方を見た――
そしてまたこちらへ――
そして、まったく同時に――
「……リク、あなたは天使だわ」
「……リクくん、君は天使だよ」
…
私たちは固まった。
…
「……君もそう言った――?」
「……君もそう言った――?」
…
一瞬の沈黙――
それから――
二人は静かに笑った。
映画館で音を立てないようにしながら。
…
私たちは席に滑り込んだ――
ほぼ同時に。
私は背もたれに寄りかかり――
息を吐いた。
「…ふぅ…ギリギリだった…」
「…マジで…」彼女は息を整えながら言った。
…
一瞬――
私たちはただそこに座っていた。
息を吐く。
走ったせいで、まだ少し鼓動が速い。
…
すると――
照明がさらに暗くなった。
スクリーンが明るくなった。
「…始まるわ…」と彼女はささやいた。
「…うん…」
…
私たちの間に、静かな高揚感が漂った。
騒がしいわけでもなく。
混沌としているわけでもなく。
ただ――
純粋な期待感だけ。
…
オープニングシーンが始まった。
スクリーンに炎が揺らめく。
音楽が高まっていく。
…
「…まさか…」私は囁いた。
「…これ、もうヤバい感じ…」彼女も囁き返した。
…
私たちは二人とも、わずかに身を乗り出した。
無意識に。
視線はスクリーンに釘付けだ。
…
そして、その瞬間――
他のすべてが消え去った。
人混み。
騒音。
システムさえも。
…
今この瞬間――
そこにはただ――
映画があった。
そして、私たちが――
それを一緒に観ているという事実。
最後のシーンがフェードアウトした。
音楽が静かになった。
そして――
真っ暗な画面。
…
誰も動かなかった。
すぐには。
…
私はまばたきをした。
ゆっくりと。
「…あれは……」
「…うん……」白崎の声は、いつもより静かだった。
…
私は目をこすった。
「…まさか、あんな展開になるとは……」
「…私も…」
彼女は少しうつむいた。
「…リヴェンの過去の話…」
「…そうね…」
…
悪役。
リヴェン・エルサー。
彼が経験したすべて。
彼があの姿になった理由――
…
「…あれは不公平だった」と私は呟いた。
「…不公平?」
「…そう。あれを聞いて、どうやって彼を憎めっていうんだ?」
…
彼女は小さく息を吐いた。
「…わかってる……」
「…彼が言った時――」私は言葉を切り、声を潜めた。「…『ただ、誰かにいてほしかっただけなんだ』って……」
「…やめて――」彼女は口を少し覆いながら囁いた。「…もう二度と口にしないで……」
…
「…また泣いてるよ」
「…泣いてないわ!」彼女は小声で言い返した。「…ただ目が…」
「…ああ、そうか」
「…あなたも泣いてたじゃない」
「…それは違う」
「…何が違うの?」
「…私は物語を感情的に分析してたの」
「……君、目を拭っていたね」
「……それも分析の一部なんだ」
…
彼女は小さく笑った。
まだ少し震えている。
…
「…でも、本当に……」彼女は画面に視線を戻しながら言った。「…彼の過去を描いたあの手法……」
「…対比だね」と私が付け加えた。「…幸せだった頃と……あの……との」
「…それに、あの時の音楽も……」
「…ああ……ピアノの……」
「…あれ、すごく良かったわ…」
…
私たちは一瞬、黙り込んだ。
…
「…ねえ…」彼女は静かに言った。「…彼、悪役になりたかったわけじゃなかったのよ。」
「…そうだな…」
「…ただ…そうなってしまっただけ。」
…
私はゆっくりと頷いた。
「…時には、それだけで十分なんだ。」
…
彼女は私を一瞥した。
ほんの一瞬だけ。
何か言いたそうだったけれど――
結局、言わなかった。
…
「…それに――」私は急に話題を変えようと付け加えた。「…戦闘シーンはヤバかったよ。」
「…マジかよ――その通り――!」
彼女の活気がたちまち戻ってきた。
「…あの炎の剣のシーン――?!」
「…冗談でしょ—?!」私は大声で囁いた。「…あのアニメーション—?!」
「…カメラワーク—!」
「…サウンドデザイン—!」
「…彼が振り返って—!」
「…そしてカイエンによるあの最後の攻撃—!!」
私たちは二人とも言葉を止めた—
声が大きくなりすぎていることに気づいたのだ。
…
「…落ち着かないと」と彼女はささやいた。
「…ああ…」
…
少しの間が空いた。
そして――
私たちは二人とも微笑んだ。
同時に。
…
「…あれは見る価値があった」と彼女は言った。
「…100%そうだ」
「…もう一度見たいな」
「…同感」
…
彼女はゆっくりと立ち上がった。
「…行こうか?」
「…うん。」
…
私たちは一緒に劇場を出た。
廊下の明かりが、今となってはより明るく感じられた。
今見たばかりのあの光景の後では、
あまりにも普通すぎるほどに――
…
「…リヴェン…」 歩きながら、彼女はまたそっと言った。
「…うん…」
…
「……やっぱり、彼のこと、気の毒に思うよ」
「……私も」
……
静かな沈黙。
……
「……ねえ」と私が言った。
「……ん?」
「……もし君が悪役になっちゃったら……」
「……何?」
「……私が止めるから」
…
彼女はまばたきをした。
そして――
小さな笑みを浮かべた。
「…そうしてね。」
…
そうして――
重苦しさは和らいだ。
だが、完全には消えなかった。
…
あの物語の、ある部分が――
まだ残っていたからだ。
私たちの間に。
静かに。
ぐぅ……
…
小さな音。
だが、十分に聞こえるほど。
…
私は振り返った。
白崎は固まっていた。
顔が一瞬で赤くなった。
彼女は私の目線を避け――
横を向いた。
…
「…今のは――?」
「…い、いいえ――!」
「…お腹が裏切ったんだね」
「…そんなことない――!」
…
私は小さく笑った。
「…お腹空いてる?」
彼女は一瞬ためらった。
そして――
「…うん…」
「…すごく…」
…
「…僕も」と私は言った。
「…よかった」
…
少しの間が空いた。
そして――
私はフードコートの方へ頷いた。
「…何か食べに行こうか。」
彼女の表情がすぐに明るくなった。
「…うん。」
私たちはフードコートに向かって歩き始めた。
騒音が再び大きくなっていく――
人の声、食器の音、行き交う人々――
日常の世界がゆっくりと戻ってくる。
…
「…実はお腹がペコペコなの…」と彼女は言った。
「…僕も。」
「…何を食べようか?」
「…今なら何でもいいよ――」
――ちらりと。
…
私は凍りついた。
…
「…高橋くん?」彼女は私を見た。
だが、私は彼女を見ていなかった。
スクリーン。
目の前。
冷たい。
青。
間違いようがない。
[ システムアップデート
新規キャラクターを検知
メインストーリールートへの干渉
キャラクターの役割 — ??? ]
……
心臓の鼓動が乱れた。
……
……何……?
画面がわずかに乱れた。
何かを読み込もうと必死になっているかのようだった。
……
私は小声でつぶやいた。
視線は相変わらず画面に釘付けだ。
「……一体全体、どういうことなんだ???」
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