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第1部 : 温かい手、高鳴る心臓

このパートは少し長めになっていますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです。ちょっと面白い展開がありますので、ぜひ最後までお楽しみください。

「……何か悩み事があったら……私に言って……」


彼女の言葉が頭の中で反響した。


……


なぜ?


なぜ彼女は、こんなに簡単に私を信用してくれるんだ?


なぜ、あんな風に私に話しかけてくるんだ?


まるで私が……大切な人であるかのように。


……


少し前を歩く彼女をちらりと見た。


相変わらず落ち着いている。


何もなかったかのように。


「……一体、何を隠しているの、白崎さん……?」


……


教室に着いた。


すべてが……また元通りになったように感じられた。


生徒たちの話し声。


椅子が動く音。


いつもの喧騒が空気を満たしている。


さっき起きたことすべてを忘れさせてくれそうだった。


ほとんど。


僕は彼女の隣の席に座った。


「……高橋くん……」彼女はそっと呼んだ。


「……ん?」


「……なんだか、静かだね……」


「……ただ、考えてただけ……」


「……何を?」


「……大したことじゃないよ」


彼女は一瞬、僕を見つめた――


もっと聞きたいような顔で。


でも、聞かなかった。


「…わかった…」代わりにそう言うと、彼女はノートの方へ視線を戻した。



しばらくの間――


何も起こらなかった。


私は「アフェクション」の通知を、あと2時間オフにしていた。


画面なし。


タスクなし。


邪魔なし。


ただ……


授業。


先生が教室に入ってきた。


授業が始まった。


黒板にチョークが擦れる音。


ページをめくる音。


平凡。


穏やか。


……


あまりにも穏やかすぎる。


……


もう……終わったのか?


……


一瞬――


そう信じそうになった。


もしかして……


ひょっとしたら……


システムが、僕を放っておくことにしたのかもしれない、と。



すると――


ちらりと光った。


視界の隅で。


目がピクッと動いた。


「…やっぱり…」


青い画面が広がった。


冷たい。


避けられない。


[タスク5:白崎と30秒間、肩を触れ合わせたままにする]



ゆっくりと顔を向けた。


彼女はすぐそこにいた。


私の隣に座っていた。


全く気づいていない。



「…冗談だろ…」


私は少し体を動かした。


ほんの数センチだけ。


不自然な動きじゃない。


ごく普通のことだ。



反応はない。


よし。


また体を動かした。


「…よし…もう少しだけ…」私は小声で呟いた。


もっと近く。


もっと近く――


そして――


私たちの肩が触れた。



すべてが凍りついた。


私の体は瞬時に硬直した。


これでいい。


これで接触した。


これで十分――だろう?


すると――


[タイマー開始:30秒]


「…!」


葵の手が、書きかけの途中で止まった。


鉛筆が止まった。


ゆっくりと――


とてもゆっくりと――


彼女は私の方へ顔を向けた。


一瞬、彼女の視線が私の目と合った――


そしてすぐにそらされた。


彼女の頬は……少し赤くなっていた。


「……た、高橋くん……」彼女は静かに言った。


「……え、うん?」


「……あなた……すごく近い……」


「…… 「あ、あ、わざとじゃ…その…えっと…」


まともな言葉さえ出てこなかった。


「…ご、ごめん…」


「…い、いいえ、ただ…」彼女は言葉を濁し、声のトーンをさらに低くした。「…あなたの肩が…」


「…触れてる…ああ…」


「…あ、うん…」



二人とも動かなかった。


ほんの少しでも。



「…どっ…か移動したほうがいい…?」 動けないと分かっていながらも、僕は尋ねた。


「…わ、分からない…」 彼女も明らかに迷っている様子で答えた。



沈黙。


重苦しい沈黙。


まるで、突然すべてに気づかされるような沈黙。


温もり。


距離。


というか――


距離のなさ。



10秒。


心臓が激しく鼓動していた。


なんでこんなに切ないんだ――



「…高橋くん…」彼女はまた口を開いた。今度はさらに小さな声で。


「…あ、ああ…?」


「…あなた…すごく硬いよ…」


「…どうすればいいか分からない…」



20秒。


彼女は鉛筆を握る力をほんの少し強めた。


まだ動かない。


まだ身を引かない。



「……これって……ちょっと恥ずかしい……」彼女はささやいた。


「……うん……」


「……じゃあ、なんで動かないの……」


「……私……動けない……」


「……」



25秒。



彼女の肩がわずかに動いた――


離れるわけではなく――


ただ…


位置を調整しているだけ。


まだ触れ合っている。



30秒。


[タスク完了]


私はすぐに身を引いた。


終わった。


「…あ、うん…」


彼女はそっと息を吐いた。


そして再びノートに目を落とした――


だが、耳はまだ少し赤かった。


「… 「変だったね」と彼女は言った。


「うん…俺、変だよね、ごめん…」


「私…あなたのその変なところが、好きかも…」と彼女は囁いた。


「えっと…何か言った?」


「ううん…何でもない…」


先生が黒板で何かを説明していた。


葵は私の隣で静かにノートを取っていた。


普通だ。


すべてが…普通だった。



その時――


画面がちらついた。


[課題6:白崎をファーストネームで呼ぶ]



私はまばたきをした。


「…それだけ…?」


これまでの全ての中で――


これが課題なのか?


ただの名前?



彼女をちらりと見た。


白崎葵。


すぐ隣に座っている。


相変わらず落ち着いている。



ただの名前だ。


なんでこれが課題なんだ……


……


私は少し背もたれに寄りかかった。


簡単だ……


彼女の方へ少し体を向けた。


「……シロ――」


私は言葉を止めた。


……


「……え?」


私の声は……


途切れてしまった。


……


私は眉をひそめた。


……あれは一体……


私は喉を鳴らした。


もう一度試した。


「…あ――」


何も出ない。


もう一度。


声が出ない。


何かが塞いでいるかのように。



…何が起きているんだ…


「…高橋くん?」彼女は少し戸惑った様子で私を見た。「…何か言おうとしてた?」


「…いや。」



「……そうだったんだ」


「……違うよ」


「……そうだったんだ」


「……俺……わかった、そうだったよ」


「……じゃあ……?」


……


「……何でもない」


彼女は少し首を傾げた。


「……また変なこと言ってる……」


「……わかってる……」


僕は視線をそらし、そしてまた彼女を見た。


言っちゃえ。


文字通り、彼女の名前だ。


名前なんて、今まで何度も言ったことがある。



私は息を吸った。


「…アオ――」



何も言えなかった。


まただ。


口が固まってしまった。


……


もう一度試みた。


静かに。


かろうじて聞こえるか聞こえないかくらいの声で。


「…アオイ…」



口をついて出た。


柔らかく。


まるで、言おうとしたわけじゃなかったかのように。



彼女は固まった。


ペンの動きが止まった。



「…高橋くん…?」彼女はゆっくりと言った。


「…うん…?」


「…今…私を…本名で…」


「…えっと…」


頭が真っ白になった。


「…その…うん…」



少しの間が空いた。



「…普段、そんなこと言わないのに……」と彼女は言った。


「…ああ…そうだね……」


「…なんだか…いつもと違う感じがして……」


「…どう違うの?」


彼女はためらった。


「…すごくいい感じに聞こえたから……」


「…え、何?」


そう言うと、彼女は少し目をそらした。


「……何でもない……」


でも、彼女の顔は少し赤くなっていた。


……


僕は少し背もたれに寄りかかった。


「……なんであんなに難しかったんだ……」


僕は小声でつぶやいた。


……


[タスク完了]


残りの授業は……驚くほど普通に過ぎていった。


スクリーンも。

タスクも。

突然の割り込みも。


ただ……授業だけ。


珍しく、5分おきに人生を台無しにしようとする何かが邪魔をすることもなく、先生の話をちゃんと聞けた。


葵は終始私の隣にいて、いつものように静かにノートを取っていた。

時折、また肩が触れそうになることがあったが、そのたびに二人ともすぐに背筋を伸ばし、何事もなかったかのように振る舞った。


それは……穏やかだった。


穏やかすぎるほどに。


だが、文句は言わなかった。



最後のチャイムが鳴った。


皆が鞄をまとめ始めると、椅子が床を擦る音が響いた。


「……やっとか……」私はそう呟き、軽く伸びをした。


課題もない。


大騒ぎもない。


今日という日を、なんとか乗り切れた。


それだけでも、一つの達成感があった。


本を鞄に入れ始めたその時――


「よお」


私は振り返った。


「……リク」


彼は私のところへ歩み寄り、自分のカバンを私の隣の机に置いた。


「…大丈夫?」と彼は小声で尋ねた。


「…『大丈夫』ってどういう意味?」


「…まだ生きてるなら、イエスってことでいいかな」


「…かろうじてね」


彼は少しニヤリと笑った。「…ああ、気づいてたよ。一日中、変な感じだったし」


「…思い出させないでよ…」


「…で? 俺が離れた後、どうなった?」彼は声を潜めて尋ねた。「…またシステムの件か?」


私は小さくため息をついた。


「…ああ。」


「…そりゃああるだろうな…」


「…タスクが二つ。」


「…今回は何をやらされたんだ?」


「…聞かないで。」


「…聞くぞ。」


「……知りたくないよ。」


「……絶対に知りたい。」


私は一瞬ためらった。


「……肩に触れること。」


「……何?」


「……やめて。」


「……いや、待って――肩に触れるってどういう意味――」


「……それから……彼女の名前で呼ぶこと……」


彼は固まった。


「…何だって?」


リクはただ僕をじっと見つめた。


「…本気じゃないだろうな…」


「…本気じゃなかったらいいんだけどな。」


彼はゆっくりと髪をかき上げた。


「…いや…いや、このシステムは狂ってるよ…」


「…言っただろ。」


「…おい…」彼は身を乗り出した。「…お前は最高難易度のラブコメを生きているんだぞ。」


「…これ、笑えないよ。」


「…ちょっと笑えるよ。」


「…笑えない。」


「…ああ、そうだな、笑えないな。」



彼はため息をついた。


「…まあいいや、実は君に話したいことがあって来たんだ。」


「…何?」


「…さっき、すっかり忘れてたんだけど…」


彼はバッグに手を入れて、何かを取り出した。


チケットが二枚。


「……昨日、これをもらったんだ」


私はまばたきをした。


「……チケット?」


「……ああ。無料のチケットが二枚」


彼はそれを私に手渡した。


私はそれを見つめた。


「……ちょっと待って……」


私は目を見開いた。


「……まさか……」


「……何?」


「…… これ?!」思わず声を荒げそうになったが、すぐに抑えた。「…まさか、それのチケット持ってるって言うの?!」


「…うん…?」


「…リク――これ、どれだけ手に入りにくいものか分かってる?!」信じられないという表情で彼を見た。「…この映画、どこも完売してるんだぞ!」


「…そんなに大ヒットなの?」


「…そんなに大ヒット?!『ブレイド・オブ・インフェルナ』よ!アニメは全5シーズンもあるの!5シーズンも!」私は完全に興奮して叫んだ。「…作画も、戦闘シーンも、ストーリーも、すべてが最高なの!」


「…君はロマンスしか好きじゃないと思ってたけど…」


「…何でも好きだってば、いい?!」私はすぐに彼の言葉を遮った。「…まあ、確かにロマンスの方が好きだけど、このアニメは最高なのよ。」


彼は一瞬、私をじっと見つめた。


そして、ニヤリと笑った。


「…君は本当に一味違うな…」


「…なんで今それを言うの?!」


「…行けないからさ」


「…え?」


「…明日、祖父母が街に来るんだ」彼は肩をすくめた。「…だからね…身動きが取れないんだ」


「……冗談でしょ……」


「……冗談だったらいいんだけどな」


私はもう一度チケットを見た。


それから彼の方へ視線を戻した。


「……それで……?」


「……だから、君にあげるよ」


……


「……リク……」


「……何?」


「……君は伝説だわ」


「……知ってるよ」


「…いや、マジで――ありがとう。」


「…ああ、そうね。」


私はそのチケットを、まるで宝物のように慎重にバッグにしまった。


「…本当に助かったよ。」


「…もうランチおごってもらってるし。」


「…あれは一度きりのことだよ。」


「…それでもカウントするわ。」


「…わかったよ…」



彼はバッグを手に取った。


「……とにかく……その……気をつけて、いい?」


「……何について?」


「……全部さ」彼は静かに言った。「……あのシステムの件……それに、白崎さんとの件も……」


……


「……うん……」


「……また変なことが起きたら、教えてくれ」


「……そうするよ」


彼はうなずいた。


「……よし」


彼は立ち去ろうとしたが、足を止めた。


「…それから、レン?」


「…うん?」


「…そのチケット、無駄にしないでよ」


「…そんなことするわけないだろ」


彼はニヤリと笑った。


「…よし。じゃあな」


「…うん…またね」


私は彼が去っていくのを見送った。


それからゆっくりと自分のカバンに目を落とした。


中にあるチケットに。



明日…


そう。


週末だ。


学校はない。


授業もない。


講義の途中でシステムがポップアップすることもない。



「…すごく楽しみだ…」私は呟き、顔に小さな笑みを浮かべた。


ついに――


普通のことができた。


ただ映画を見るだけ。


混乱もない。


変な課題もない。


カバンを肩にかけると、葵が近づいてきた。


「……高橋くん」


「……うん、白崎さん?」


「……帰ろう」


「……わかった」


私たちは一緒に教室を出て、いつもの放課後の人混みに溶け込んだ。


おしゃべりする生徒たち。

床を叩く靴の音。

窓からこぼれる夕日。


普通。


たまには……ただ普通でいい。



私たちは校門をくぐった。


空気が軽くなった気がした。


静かになった。


「……じゃあ……」彼女は私の少し手前で立ち止まり、言った。「……私はこっちへ行くわ。」


「……ああ……そうか……」


僕と同じ方向だ。


ただ……彼女の家の方が先に


僕の家は少し遠い。


だから、たいていタクシーで帰る。


「……じゃあね、高橋くん」


彼女は小さく手を振った。


「……うん……じゃあね」


彼女は振り返った。


歩き始めた。


……


そして――


画面がちらついた。


[タスク7:白崎さんと一緒に帰り道を進み、彼女の家に着くまで同行する]



「……冗談でしょ……」



彼女はすでに数歩先を行っていた。



「……くそっ……」


私は急いで彼女のところへ歩み寄った。


「白崎さん!」


彼女は振り返った。


「…ん?」


「…一緒に帰ります」


少しの間が空いた。


「…普段は急いで家に帰るんじゃないの?」と彼女は尋ねた。


「…そうだけど…でも…」私は気まずそうに頬を掻いた。「…たまには歩くのもいいんだよ。ほら…運動になるし」



彼女はまばたきをした。


そして、ほのかな笑みを浮かべた。


「…それって…意外と健康的ね」


「…たまにそうするようにしてるんだ…」


「…そう」



「…それで…いいかな?」と私は尋ねた。


「…うん」彼女は優しく頷いた。「…行こう」


私たちは並んで歩いた。


道は静かだった。


聞こえるのは、私たちの足音だけ。



その時――


画面がちらついた。


[タスク7 更新]


[条件追加:歩きながら白崎の手を握る]


[タイマー:20秒以内]


[ペナルティ:好感度 -500]



…何だと?!


…彼女の手を握れって?!


頭が真っ白になった。


20秒?



[タイマー:20]



…正気かよ?!


20。


歩き続けた。


かろうじて。


足取りがずれてしまいそうだった。



19。



いやいやいやいや——


またか——



18。


頭が完全に固まってしまった。



17.



ただ彼女の手を握ればいいだけだ。


単純なことだ。


単純なんかじゃない。



16.



彼女をちらりと見た。


彼女は普通に歩いているだけだった。


全く動じていない。



15.



一体どう始めればいいんだ?


ただ掴めばいいの??



14.



指がわずかにピクッと動いた。


動いて――


止まった。



できない。



13.


12.



減点500…


これ失敗したら終わりだ。



11.



「……高橋くん?」彼女は僕を見た。


「……え、えっと……」


「……また変な感じ……」


「……そうかな……?」


「……ちょっと……」


……


10.


……


集中しろ。


とにかくやれ。


……


9.


……


私の手がゆっくりと動いた。


もっと近くへ。



あと少し。



8.



今だ。



7.



やれ――



6.



指が躊躇した。


彼女の指のすぐ横。



できない――



5.


4.



もうダメだ。



3.



手を伸ばし始めた――


2.



そして――


何か温かいものが、突然私の手を包み込んだ。



頭が真っ白になった。



下を見た。



白崎。



彼女は私の手を握っていた。



「…え…?」



彼女を見た。


「…白崎さん?」


彼女は僕を見ていなかった。


でも、彼女の顔は――


真っ赤になっていた。



「…私――」


何か言おうとした。


何でもいいから。



でも――


「…ただ――!」彼女は突然、完全に動揺した様子で口走った。「…あなたの手を握りたかったの!」



私は固まった。


完全に。



「…な、何…?」



「あ、あの…!」彼女は慌てて目をそらした。「…ただ、手がちょっと冷たかったから、そうしようと思って…」


彼女は慌てて手を引き戻そうとした。


「ご、ごめんなさい、私…」



僕は握る力を強めた。



彼女は動きを止めた。


僕を見つめた。



「…大丈夫だよ…」僕は、彼女と同じくらい震える声で言った。「…僕…このままで歩いていいよ…」


僕は喉を鳴らした。


「…君の家に着くまで…」



少しの間が空いた。



「……でも、周りの人は私たちを……」


「私……えっと……友達だって手をつなぐことあるでしょ!」彼女は私の言葉を遮るように早口で言った。「……カップルだけがやるわけじゃない……よね?」



私はうなずいた。


「…う、うん…」


「…そうね…」



沈黙。



でも、二人とも手を離さなかった。



互いに手を握り合っていた。


温かい。


少し緊張している。



私たち二人――


そのことを、はっきりと自覚していた。



そして、まるで――


それが当たり前であるかのように――


振る舞っていた。



[タスク完了]



…このシステム、本当に狂ってる……



でも――


なぜか――



今回は、それほど気にならなかった。


私たちは歩き続けた。


手をつないで。


数秒間、二人とも何も言わなかった。



「…高橋くん…」彼女がそっと言った。


「…え、えっと…?」


「…あなたの手…大きいね…」



私はまばたきをした。


「…え?」


彼女は頬を少し赤らめ、私たちの手を見つめた。


「…触り心地が…違うの…」



「…どう違うの…?」と私は尋ねた。すでに顔が熱くなっているのを感じながら。


「…わからない…」と彼女は呟いた。「…ただ…私のより大きいだけ…」



「……ああ……」


僕も下を向いた。


彼女の手は、僕の手の中では小さく見えた。


繊細で。


……


「……白崎さん……手、柔らかい……」思わず口にしてしまった。


……


その言葉が口をついた瞬間――


僕は固まった。


……


「……あ、あの……」


……


彼女も固まった。


そして――


彼女の顔はさらに赤くなった。


「……た、高橋くん……」


……


「……ご、ごめん……」


「……い、いいえ、大丈夫……」彼女は慌てて言った。「……ただ――」


彼女は視線をそらした。


「……そんなこと言われるとは思わなかった……」


……


短い沈黙が続いた。


気まずい。


でも、居心地が悪いわけじゃない。



すると、彼女がまた口を開いた。


「…その言い方、まるで…女の子と手をつないだことなんて一度もないみたいに…」



「…いや、その…」僕は空いている手で頬を掻いた。「…母さんとは…あと、姉とも…」


僕は言葉を切った。


「……でも、これは……うーん……」


……


その言葉を最後まで言い切れなかった。


……


彼女は私を一瞥した。


そしてゆっくりと、私たちの手を少し持ち上げた。


「……ちょっと確かめてみよう……」彼女は静かに言った。


「……ん?」


彼女は私たちの手を目の前で持ち上げた。


見比べている。


……


「…ほら?」彼女は小さくクスクスと笑った。「…あなたの手、すごく大きいね……」


……


「…君のは小さいね……」


「…そんなこと言わないで……」彼女は少しふくれっ面をした。


「…そういう意味じゃ……」


彼女は優しく笑った。


「…わかってるよ……」


……


彼女の指がわずかに動いた。


位置を合わせるように。



思わず――


私の指も動いた。



指が互いに絡み合った。


自然に。



絡み合った。



二人とも固まった。



「…あ――」


「…う、うーん――」



二人は自分の手を見つめた。



今や完全に絡み合っていた。



沈黙。



「…これって…」私が口を開いた。


「…うん…」彼女はそっと言った。



二人とも手を離そうとはしなかった。



「…友達だって、こんなことするよ…」彼女は、まるで自分自身に言い聞かせるかのように呟いた。


「…あ、うん…」



でも――


これは「ただの友達」がする行為には思えなかった。



私たちは歩き続けた。


今はもっとゆっくり。


もっと意識しながら。



「…高橋くん…」


「…うん…?」


「…あなたの手、今、温かいよ…」



「…君の手も…」



彼女はほほえんだ。



そして、気づく間もなく――


私たちは立ち止まっていた。



私は顔を上げた。



彼女の家。



「…あ、そうか…」



もう着いていた。



でも――


私たちの手はまだ絡み合ったままだった。



二人とも、すぐには離さなかった。


私たちはそこに立っていた。


彼女の家のすぐ前で。


手はまだ絡み合ったままだった。



そして――


ほぼ同時に――


私たちは二人ともゆっくりと手を離した。



「…あ――」


「…うーん――」



沈黙。



「…着いたわ……」彼女はそっと言った。


「…うん……」



彼女はバッグの位置を少し直した。


まだ私をまっすぐ見ようとはしない。


「…じゃあ…入るね…」


「…うん…」



彼女は少し体を向けた。


ドアに向かって一歩踏み出した。



そして――


画面がちらついた。


[最終課題]



心臓が凍りついた。



[課題8:白崎にデートを申し込む]



「…え…?」


頭の中が真っ白になった。


デート??


一体全体どういうことだ!!!


これって課題じゃない――これは告白だ!!!



デートに誘えって?!


このシステム、頭おかしいのか?!



呼吸が乱れた。


これが最後のタスクだ…


もし失敗したら――



私は軽く拳を握りしめた。


やらなきゃ…


でも、一体どうすれば――


いきなり「デートして」なんて言えない――


それって文字通り――



彼女はドアに手を伸ばした。


「…じゃあね、高橋くん――」



待て。



何かがひらめいた。



チケットだ。



目が少し見開かれた。


そうだ――



「…白崎さん――!」


彼女は足を止めた。


振り返った。


「…ん?」



心臓がドクドクと鳴っていた。


大きく。


あまりにも大きく。



「…あ、あの…」


私は慌ててカバンをまさぐった。


「…これ、あるんだけど…」


それを取り出した。


チケットだ。



「…これ…」


ぎこちなくそれを掲げた。


「…映画の…チケットを…」



彼女は瞬きをした。


そして、少し身を乗り出した。


「…映画…?」



「…うん…」


私の声は完全に震えていた。


「…それ…えっと…あのアニメ…『ブレイド・オブ・インフェルナ』…」



ほんの一瞬――


彼女は固まった。



そして――


彼女の目が大きく見開かれた。


「…まさか…」



彼女の表情が一瞬で変わった。


「…待って、マジで?!」



彼女の突然の勢いに、僕は少しひるんだ。


「…う、うん…」



「…そのチケット?!」彼女はさらに近づいてきた。「…どこも売り切れなのに!」



「…知ってるよ…」



彼女の顔が輝いた。


すっかり。



「…高橋くん――これ、最高!」


彼女は微笑んだ。


明るく。


心から。


興奮して。



「……これ、すごく見たかったの……」彼女は息を切らしたように言った。「……新しいストーリー――作画――戦闘シーン――全部――!」


……


私は彼女を見つめた。


一瞬――


自分が何に緊張していたのかさえ忘れてしまった。


……


彼女は……本当に幸せそうだった……


……


そしてなぜか――


心臓の鼓動がさらに早くなった。


でも、それはパニックからじゃない。



別の何かから。



「…そ、それで…」僕は彼女のペースに合わせようと口を開いた。「…チケットが二枚あるんだけど…」



彼女はまた僕を見た。


まだ笑っている。


「…二枚?」



「…うん…」


僕は喉を鳴らした。


「…それで…もし明日…暇なら…」



言葉がもつれ始めた。


「…一緒に…えっと…行かない?」



沈黙。



すると――


「…はい! えーっ、マジで!?」



僕は固まった。


「…えっ――?」



「その、つまり――!」 彼女は慌てて口元を隠した。「…うん…行きたいな…」



彼女の頬は少し赤くなっていた。


でも、その瞳は――


まだ興奮で輝いていた。



「…本当?」


「…もちろん…」


彼女はまた微笑んだ。


今度は、もっと優しい笑顔だった。


「…ぜひ行きたいな。」


[タスク完了]



少しの間が空いた。


僕の脳みそがショートした。


「…うん…」


「…絶対楽しいよ!」彼女は再び興奮した様子で言った。「…予告編のあのシーン――炎の刃が出てくるやつ――!」


「…ああ、あれか?!」僕は即座に答えた。「…あれは凄かったよ――あのアニメーションのクオリティ、見た?!」


「…そう! それにサウンドトラックも――!」


「…まさに!」


「…でしょ?!」彼女は少し身を乗り出した。「…それにアニメーションもカクカクしてなかったし――すごく滑らかだった――!」


「…炎のエフェクト――!」私はすっかりその話に夢中になって言った。「…普通のアニメーションには見えなかったよ――まるで本物みたいだった!」


「…それにカメラワークも!」彼女は素早く付け加えた。「…戦いの最中、カメラが彼らをぐるぐる回り続けてたよね――!」


「…そうだ!あの360度ショット――!」私は思わず指をさした。「…あれ、アニメーションにするの、すごく難しいんだよ!」


彼女は激しく頷いた。


「…それに、斬り込む途中で刃の色が変わったところも――!」


「… 「あ、オレンジの炎が青に変わったところのこと?」と私は言った。


「…そう!!あのシーン、鳥肌が立ったわ!」


「…同感!」私は笑った。「…あのシーン、マジで5回くらいリピートしたよ!」


「…私はもっとリピートしたわ…」と彼女は誇らしげに言った。


「…ありえない。」


「…ありえるよ。」


「…それはズルい。」


「…ズルじゃないよ——愛の証さ。」


「…それにシーズン5のラストも——!」


「…あのクリフハンガー——!」



私たちは二人で笑った。


「…マジで待ちきれない…」と彼女は言った。声は少し柔らかくなっていたが、それでも興奮に満ちていた。「…映画館で見るのは、全然違う体験になるはず…」


「…うん…」私は頷いた。「…大画面…迫力のサウンド…あの戦いは、もっと強烈に迫ってくるはずだ…」


「…まさにね…」



彼女は微笑んだ。


そして、ほんの一瞬――


私たちはただの二人の普通の人間のように感じられた。


大好きなことについて語り合っている。



システムでもなく。


タスクでもなく。


ただ――


これ。





彼女は笑った。


「……まさか本当に観ることになるなんて、まだ信じられない……」


「……同感だ……」


……


場の空気がゆっくりと落ち着いていった。


……


「……じゃあ……明日ね」と彼女はそっと言った。


「……うん……明日……」


すると――


「……あ、待って……」と彼女は突然言った。


「……ん?」


彼女は一瞬ためらった。


それから――


「……お互い連絡先、持っていないよね……?」


……


私は固まった。


「……ああ……」


そうだった。


……


「……うん……持っていないね……」


……


また少しの間が空いた。


二人とも、また少し気まずくなった。


……


「……じゃあ……」彼女はバッグを少しもたつきながら言った。「……電話番号を教えてくれる……?」


……


「……え、ええ……もちろん……」


僕は少し慌ててスマホを取り出した。


落としそうになった。


「……ほら……」


ロックを解除して、彼女に手渡した。


……


彼女は慎重にそれを受け取った。


一瞬、指先が触れ合った。



彼女はすぐにスマホに目を落とし、何かを打ち始めた。


表情は真剣そのもの――


だが、頬はまだほんのり赤らんでいた。



「…はい…」彼女はそっとそう言うと、スマホを返してくれた。


「…時間できたらメールするね…」



「…うん…」


画面を見た。


新しい連絡先。


白崎葵



なぜか――


それだけで、胸が高鳴った。



「…じゃあ、時間とか…待ち合わせ場所とか決めようか…」と彼女は付け加えた。


「…うん…いいよ…」



「…一日中空いてる?」と彼女は尋ねた。


「…うん…たぶん…」


「…私も…」



彼女の顔に、ほのかな笑みが浮かんだ。


「…じゃあ、ちゃんと計画を立てようね…」


「…うん…」



また沈黙が訪れた。


でも今回は――


その沈黙が、以前より軽やかに感じられた。



「…今夜、メッセージするね」と彼女は言った。


「…わかった…」



彼女は少し後ずさった。


自分のドアの方へ。



「…じゃあ…」


「…うん…」



「…じゃあ、また明日。」



「…またね。」



彼女は微笑んだ。


優しく。


心から。



「…本当に楽しみだ。」



「…私も…」



彼女は振り返った。


ドアを開けた。


中へ入っていった。



ドアが閉まった。



私はしばらくその場に立ち尽くした。


手にはまだスマホを握ったまま。



再び連絡先を覗き込んだ。



「…明日…」私は呟いた。



そして、珍しくも――


システムのことは考えていなかった。



「……ああ、そうか……」私はスマホを見つめながらつぶやいた。「……さて、明日デートに行くってことを母と妹に説明しなきゃ……」私は言葉を詰まらせた。「……デートじゃない。絶対にデートじゃない。ただの映画だ。そう……ただの映画……」


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