第2部:歩踏み込みすぎた
[タスク2]
[この授業の残り時間、白崎葵の隣に座る]
私は白崎をちらりと見た。
「あの、白崎さん……ここに座ってもいいですか?」
「……はい、いいですよ」
私は静かに彼女の隣の席に座った。
[タスク完了]
「高橋くん……そんなこと、わざわざ聞く必要ないよ。」
「…ん?」
「私たち、友達でしょ…友達に『隣に座ってもいい?』なんて許可を求めるのは変だよ」彼女は私に微笑みながら言った。「いつでも隣に座っていいよ」
「あ、あ…うん…」私は少し動揺した。
背後で椅子が引きずられる音がした。
リクが座った。
「後ろに座って様子を見て、何かあったら手伝うから……いい?」リクが私にささやいた。
「うん……ありがとう。」私もささやき返した。
[タスク]
[ヒロインと20秒間アイコンタクトを保つ]
「……冗談でしょ。」
私は固まった。
数ある中で――
これ?
背後から、リクがわずかに身を乗り出し、息遣いのような声で――
「……どうしたの?」
「……何でもない」と私は囁いた。「……ただ……黙ってて」
「……それは決して良い兆候じゃないな」
私はゆっくりと息を吸った。
そして彼女の方を向いた。
白崎はすぐに気づいた。
当然だ。
「……高橋くん?」
「…ああ。」
「…なんでそんなふうに私を見つめてるの?」
「…見つめてなんかいないよ。」
「…見つめてるよ。」
「…わかった…見つめてるよ。」
「…なんで?」
考えろ。考えろ。考えろ。
「…ゲームなんだ。」
「…ゲーム?」
「…ああ」と、私は少し言葉に詰まりながら言った。「…あの… ほら… 目をそらさずに相手の目を見つめ続けられる時間を競う、みたいな…」
彼女はまばたきをした。
「…それがゲーム?」
「…うん。」
「…聞いたことないな。」
「…ちょっと… マニアックなやつだから。」
「…それで、今それをやってるの?」
「…練習してるんだ。」
「…練習?」
「…うん…リクに勝てるように。」
背後から――
「…おい――俺、何したっていうんだ――」
「…黙って」と、私は小声で言った。
白崎は一瞬、私を見つめた。
そして――
小さく、理解したようなうなずき。
「…なるほど。」
「…分かった?」
「…うん。」
一瞬の沈黙。
そして――
彼女は姿勢を少し正した。
私の方へ完全に体を向けた。
そして、静かに言った――
「……それなら、私も参加するわ」
「……え?」
「……ゲームなんだから、私が挑戦しないのはフェアじゃないでしょ?」
「……待って――いや――そんなことしなくて――」
だが、彼女はすでに始めていた。
彼女はまっすぐ私の目を見つめた。
ためらいもなく。
ぎこちなさもなく。
ただ――
集中している。
そして――
彼女の唇に、小さく柔らかな笑みが浮かんだ。
「……始めましょう。」
……
やばい。
「……1……」
私は彼女と視線を合わせた。
金色。
彼女の瞳は――
あまりにも澄み切っていた。
明るすぎる。
あまりにも――
「…2…」
彼女は目をそらさなかった。
ほんの少しでも。
「…3…」
あの微笑み。
なぜあんな風に笑っているんだ?
「…4…」
彼女はこれを楽しんでいる。
本当に楽しんでいるんだ。
「…5…」
私は軽く喉を鳴らした。
「…6…」
集中しろ。
ただのアイコンタクトだ。
それだけだ。
「…7…」
なぜ、彼女が僕を透かして見ているような気がするんだ?
「…8…」
彼女の表情は変わらなかった。
相変わらず穏やかだ。
相変わらず揺るぎない。
「…9…」
もう持ちこたえられない。
「…10…」
半分だ。
あと10秒だけ。
あと――
10秒。
「…11…」
彼女の目が少し柔らかくなった。
「…12…」
「…高橋くん」と彼女は静かに言った。
「…何?」
「…集中力が切れてるわ」
「…そんなことない」
「…切れてるわ」
「…切れてない」
「…13…」
彼女が少し身を乗り出した。
ほんの少しだけ。
距離が縮まる。
「…14…」
待て。
なんで彼女が近づいてきたんだ?
こんな調子じゃ持たない…
「…15…」
「…始めたのはあなたよ」と彼女は囁いた。
「…後悔してる」
「…手遅れよ」
「…16…」
心臓が激しく高鳴った。
彼女の瞳が美しすぎて、耐えられない…
「…17…」
彼女の笑顔がほんの少し広がった。
もう無理だ…
あと2秒だけ。
「…18…」
この感覚は何だ…
「…19…」
「……もうすぐ負けるわよ」と彼女はささやいた。
「……そんなことない――」
「……20。」
私は崩れた。
即座に顔を背けた。
「……もうダメだ。」
[タスク完了]
私は鋭く息を吐き出した。
「……もういい。終わりだ。負けた。」
私の横から、かすかな音が漏れた。
「…プッ――」
彼女をちらりと見た。
白崎は口元を軽く手で覆っていた――
彼女は笑っていた。
「…私を笑ってるの?」と私は言った。
彼女は必死に平静を装おうとした。
「…い、いいえ…そんなことないわ…」
また小さな笑いが漏れた。
「…笑ってるよ。」
「……ちょっとだけ……」
「……ちょっとだけ?」
「……わかった……たぶん、ちょっと以上かも」
彼女はまだ微笑みを浮かべたまま、ゆっくりと手を下ろした。
「……あっという間に負けたね」
「……20秒は持ちこたえたよ」
「……かろうじてね」
「……それでも記録には入るよ」
「……パニックになったでしょ」
「……パニックなんてなってない」
「……命の危険がある状況から逃げ出すみたいに、文字通り『もうダメだ』って言ったじゃない」
「……命がけの状況だったんだ。」
「……え?」
彼女は少し首を傾げた。
その瞳には、今やからかうような光が宿っていた。
「……で、一体何がそんなに危険だったの?」
……
「……君だよ。」
……
彼女は瞬きをした。
ほんの一瞬だけ。
そして――
彼女の頬が、またかすかに赤らんだ。
「……高橋……」
「……いや、つまり――君の目が――」私は即座に言い直した。「……君の目は――えっと――強烈だ。」
「……じゃあ、今度は私の目を責めるの?」
「……そう。」
「……それは不公平よ。」
「……抗う余地なんてなかったんだ。」
彼女はまた柔らかく笑った。
「……言い訳ね。」
「…正当な言い訳だよ。」
「…そんなことないわ。」
少しの間が空いた。
すると、彼女は身を乗り出した。
また私をじっと見つめて。
「…もっと練習すれば」と彼女は静かに言った。「…次はもっと長く持つのよ。」
…
私は固まった。
「…白崎さん…」
彼女は小さくクスクスと笑った。
「からかってるだけよ」彼女は微笑んだ。「ねえ…今日は本当に変な感じね」
「…そうかな?」私はつぶやいた。
「…ええ」彼女は即座に答えた。「…すごく」
「…そんなに?」
「……うん」彼女は軽くうなずいた。「……変なこと言ってるわね……人をじっと見つめて……その上、相手の目を責めるなんて」
「……最後のやつは当たってたよ」
「……そんなことないわ」
「……当たってたよ」
「……当たってないわ」
「……当たってた――」
教室のドアが突然スライドして開いた。
バン。
「……よし、みんな、席に着きなさい」
先生が教室に入ってきて、本を机にドスンと置いた。
その瞬間――
空気が一変した。
話し声が途絶えた。
椅子が整えられた。
いつもの教室のざわめきが戻った。
白崎はすぐに背筋を伸ばし、いつものように完璧な姿勢を取り戻した。
彼女はペンを手に取った。
元通りだ。
まるで何もなかったかのように。
…
背後から――
「…レン」とリクが囁いた。
「…何?」
「…あれ、一体何だったんだ?」
「…知らないよ」
「…お前ら、かなり盛り上がってたじゃん」
「…そんなことない」
「…あったよ」
「…ないよ」
「…あったよ」
「……黙れ。」
「……言ってみろよ。」
「……後でな。」
「……待ってるからな。」
私はため息をつき、黒板を見た。
チャイムが鳴った。
チンッ――
一限目が終わった。
私は少し背もたれにもたれかかり、長い息を吐いた。
「……やっと……」
私は小声で呟いた――
「……よかった……」
背後から――
「……何?」リクがささやいた。
「……何でもない」私は静かに答えた。「……ただ……授業中に変なことが起きなかっただけ」
私は軽く伸びをした。
少なくとも、しばらくの間はシステムが干渉してこなかった……
珍しく――
平穏。
……
画面がちらついた。
[タスク4]
[ラブコメイベント検知]
[タイプ:不慮の転倒&保護]
[イベントまで残り時間:10秒]
[ターゲット:白崎葵]
[目的:転倒を防ぎ、ヒロインを無事に保護する]
「…もう、やめてよ」
「…今度は何?」とリクが囁いた。
「…何か悪いこと」
「…それじゃ分からないよ。」
「…とにかく――準備しておいて。」
「…何に?」
「…まだ分からない。」
「…高橋くん」と白崎は立ち上がりながら言った。
「…うん?」
「…トイレに行くわ。すぐ戻るから。」
10秒。
「…待って――」私は無意識に口にした。
「…ん?」
「…何でもない。」
「…?」
彼女は振り返り、歩き出した。
9…
私の視線は彼女の動きに釘付けになった。
どこ?
どこで起きるんだ――
8…
彼女は一番前の列を通り過ぎた。
普通だ。
7…
まだ普通だ。
6…
「…レン」とリクが囁いた。「…なんでそんな風にじっと見てるの?」
「…黙って」
5…
彼女は机の脇へと足を踏み出した。
4…
そこだ。
彼女の足が――
机の脚の端に、わずかに引っかかった。
3…
やばい。
2…
彼女の重心が前に傾いた。
手から本が滑り落ちる。
1—
「…白崎さん!」
僕は席から飛び上がった。
背後で椅子がきしむ音がした。
そしてその一瞬の間に――
彼女は前によろめいた。
完全にバランスを崩して。
目を丸くして。
「…あっ――!」
僕は無意識に動いた。
一歩――
二歩――
手を伸ばして――
捕まえた。
彼女が倒れる前に、腕を回して支えた。
彼女の体が前へ傾き――
まっすぐ、僕の方へ。
しっかりと受け止めた――
片腕で背中を支え、
もう片方の手で彼女の腕を掴んだ。
[タスク完了]
静寂。
一瞬――
すべてが止まった。
彼女は近かった。
近すぎる。
彼女の重みが私の体に伝わってくる。
彼女の手が、無意識に私のシャツを掴んでいる。
彼女の顔――
私の顔のすぐそば。
「……大丈夫?」私は少し息を切らして尋ねた。
「……私――」
彼女は瞬きをした。
状況を理解しようとしている。
そして――
気づいた。
彼女の顔は一瞬で真っ赤になった。
「…た、高橋くん…」
私たちの背後で――
「…ブローーーー!」リクが大声で囁いた。
近くにいる数人の生徒が振り返った。
ざわめきが始まった。
「…今、何があったの…?」
「…彼、彼女をキャッチしたの…?!」
「…あの男、ただ運がいいだけ?それともそんなにモテるのかよ?!…」
私はそれをすべて無視した。
「…気をつけて」と、私は静かに言った。「…転びそうだったよ」
「…私…」
彼女は下を向いた。
そしてまた私を見た。
まだ動揺している様子だった。
「…ありがとう…」
その時になって――
私は気づいた。
まだ彼女を抱きかかえていることに。
「…あ、しまった」
私はすぐに手を離した。
「…ごめん――」
「…い、いいえ…大丈夫です…」
彼女は体勢を立て直した。
まだ少し、私の目線を避けていた。
「…すごく素早かったですね」と、彼女は小さく言った。
「…ただ…たまたま気づいただけです」
「…あなた…反射神経が…かなりいいですね…」
「え、ええ…まあ、とにかく、大丈夫ですか?」
「…うん、大丈夫です…ありがとう、高橋くん」
「…えっと…どういたしまして…」
少しの間が空いた。
そして――
とても静かに――
「…あなたでよかった」
…
「…え?」
「…何でもない」
彼女は素早く視線をそらした。
「…じゃあ…もう行くね」
「…うん…」
彼女は立ち去った。
今度は――
もっと慎重に。
背後から――
リクが僕の肩をつかんで、少し引き戻した。
「…あれは何だったんだ?!」
「…悪いことが起きるって言っただろ」
「…悪いこと??あれはまるで映画のシーンみたいだったよ!」
「…僕は死ぬところだったんだ」
「…お前、彼女を捕まえたじゃないか!」
「…仕方なかったんだ!」
「…背中から手を回すあの仕草もしたし――」
「…そんなこと考えてなかったよ!――」
「…自然にやってたよ――」
「…黙って。」
画面が再びちらついた。
[タスク完了]
[好感度 +7]
「…7?」
「…何?」リクが尋ねた。
「…何でもない…」
…
私はドアの方を見た。
彼女が今、出て行った場所を。
…
「…このシステム…」
私は呟いた。
「…マジで狂ってる。」
続きが気になる方は、ぜひブックマークしていただけると励みになります!




