ネガティブ・アスリート(7)
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「ハア、ハア……くっそ……」
リレーの最下位に終わってしまった一組のアンカー住田洋次は、
三組の胴上げを目の当たりにして、肩で息をしながら身を屈めていた。
同じクラスであり、トップバッターを務めた宇野剛司が彼に近づく。
「お疲れさん。俺たちなりに頑張れたんじゃね?」
「……ハア、ハア……」
「……『奇跡』には勝てねーよ。」
「ハア、え?」
「なんでもねーじゃん。」
そうは言いながらも、宇野は何やら思う所があるような表情で、
住田洋次と共に、三組の集まりを冷めた目線で見つめていた――。
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「自身の行動には十分気を付けてくださいね。」
グラウンドを後にし、自分のクラスのテントに戻ろうとした織田直樹を、
マスクの男、葛西紳一郎が小声で呼び止めた。
その小声に動きを止めた織田は、葛西の方を振り返る。
「俺は自分の能力を遺憾なく発揮しただけだ。」
「それが問題だと言っているんです。手加減というものを覚えて下さい。」
「アピールにはなったろ?」
「好意的なアピールとは限りません。無闇に能力をひけらかすと不要な敵を招きます。我々『奇跡の子』は妬まれやすいのですから。」
「その妬みに気づける感情が俺には無い。お前と違ってな、イチロー。」
「だからこそ私の助言を聞けと言うのです。いずれ分かる時が来ます。」
時間にして一瞬のうちに、二人の「奇跡の子」はコンタクトを取り、
そして何事も無かったかのように、元のクラスへと戻って行った。
様々な意図が絡み合い、「奇跡」は地の底で蠢く――。
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二年生クラス対抗リレーが終わるとすぐ昼休憩です。
三組のテントはクラス優勝の喜びもあって、
リレー選手たちの疲れを、ほとんどの生徒がねぎらってくれました。
僕は陰に紛れてそーっとテントの中に戻ったのですが、
達也さんが周りの生徒同様に立って僕を迎えてくれました。
「お疲れさん。抜かれはしたが、そこそこ速かったな。」
「……あ……いえ……でもやっぱり迷惑をかけちゃって……」
直樹くんが取り戻してくれて、クラスは優勝したので良かったですが、
僕としては分かっていた事ではありますが、やっぱり迷惑をかけてしまって、
一緒に喜んでいいものか戸惑いがあります。
そんな僕に、達也さんが優しく微笑んでくれました。
「関係ないだろ。他に誰もやりたがらなかった事をやったってだけで、誇っても良いことだと思うぜ?俺はな。」
「達也さん……」
達也さんはうつむきがちな僕の前に立ち、
何を思ったのか、突然僕の身体を自分の身体で受け止めました。
……弱々しい体つきでも、何やら人のぬくもりを感じます。
あれ……いま、僕抱きしめられてる……?
「お前、なかなかカッコよかったぞ。」
「……あ……ありがとうございます……」
「何で達也と恒太、抱き合ってるんだ?」
急に背後から直樹くんの声が聞こえて来て、僕らは慌てて離れました。
直樹くんキョトンとしてます。あー心臓飛びでるかと思った。
「あ、えーと背中にゴミがついてて、取ってもらってました!」
「普通に背中向ければ良くないか?」
「あ、そうなんですけどね……アハハ、ちょっと……アハハ!」
慌ててごまかしました。心なしか達也さんも慌てています。
そ、それにしても……何で達也さん、僕にハグなんか……
「ま、まあねぎらいってやつだな、直樹お前もお疲れさん。」
達也さんは僕にしたのと同じように、直樹くんにハグしました。
なるほど、ねぎらいって事ですか……それはそれで嬉しいですね。
よくよく考えるとここまで身体的接触があったの初めてなんですけど。
あれ、夢?これ夢なの?上手くいきすぎてない?死んじゃなわない?大丈夫?
「こ、恒太お前も赤くなってんじゃねえよ!」
「え!?すみません!いやえーと高熱があるのかもしれませんね!そういえばフラフラしてきました!」
「それは普通に保健室行けよ。」
……ともかく、ちょっと落ち着いて、僕らも昼ご飯を食べる事にしました。
腹が減っては戦は出来ぬ!ってヤツですね。お腹ペコペコです。
達也さんがお弁当のウインナーを食べながら、直樹くんを褒めます。
「しかし直樹はマジですごいな。ぐんぐんスポーツ系の奴らを追い抜いて、しかもあれでケロッとしてるなんてな。」
「俺としては特別な事をしたという気は無い。ただ、自分の能力を発揮しただけに過ぎない。」
「ケッ、さすが『奇跡の子』だぜ……まあ、そうだとしても、クラスの為に自分の能力が出せるだけでも、人としては十分なんじゃないか?」
「え?」
「いや、別に『奇跡の子』だから人の為に何かできるってわけじゃないだろ?それは直樹の人柄が為せるわざなんじゃないかと俺は思うんだよな……」
珍しく達也さんの言葉に、直樹くんは戸惑っているようでした。
それはそうです。恐らく直樹くんは才能を評価されることはあれど、
このように人柄を褒められる事はあまりなかったのでしょう。
『奇跡』だから出来て当たり前、そんな世界に居た方なのですから……。
僕が感心していると、急に達也さんがこっちを見て慌て始めました。
「別に恒太が何もしてないって言ってるわけじゃないからな!」
「え……あ、別にそんな風に思ってないですよ。普通に同感でした。」
「お前もお前なりにすごいと思うよ。人のやりたくない事を押し付けられて、嫌な顔せずにやり通せるってのは、逃げっぱなしの俺とは違うぜ。まったく。」
僕は嫌な顔ずっとしてたと思いまあす★
冗談はさておき、そういう部分を褒めてもらえるのは嬉しいです。
でも……何やら自嘲気味な達也さんにも、僕は言ってあげたい事があります。
「……達也さんはすごいです。僕は達也さんを尊敬してます。」
「何がだよ?同情なんていらないぜ。」
「思ってることをそうやってきちんと表現できる、それも一つの能力だと思います。僕は達也さんに勇気づけられてます……」
ふと達也さんの顔を見ると、何やらほんのり赤くなった気がします。
そして、照れくさいのか、急に慌て始めました。
「いや、うん、まあ……ありがとよ。お前良い奴だよな。」
「え、いえそんな……あ、ありがとうございます。」
な、何やら神妙な空気になってきたところで、
のんびりと弁当を食べていた直樹くんが、イケメンスマイルで言いました。
「どうでも良いけどお前ら食わないのか?」
「い、言われなくても食べるわ!」
「頂きまーす!直樹くんちょっと黙ってて。」




