ネガティブ・アスリート(6)
種目:二年生クラス対抗リレー
とうとうやって来てしまいました。二年生クラス対抗リレー。
応援団や委員会に出ていたリレーメンバー達が戻って来て、
イケメンリーダー勝田さんを中心に、僕ら三組は士気を高めています。
「練習では四組に勝てたが、本番はどうなるか分からない。今日は気を引き締めて、三組が一位でゴールしような!」
勝田さんのさわやかスマイル。対照的に僕は非常に憂鬱です。
はあ。本当になんで僕がリレーメンバーなんでしょうか。
陸上部、サッカー部、バスケ部に野球部。
他のクラスを見渡しても、みんな運動神経が良さそうなメンツです。
あ、僕は野球部にカウントしないでください★
「多少の遅れは俺がカバーする。気にせずやれるだけやって来い。」
不安な僕の肩を支えながら、直樹くんがイケメンスマイル。
こういう時の「奇跡の子」は本当頼りになります。惚れそう。
アンカー以外はグラウンド一周、アンカーが二周で全部で十人走ります。
リレーメンバーは一人ずつ女子を選抜するルールで、
一組隠岐さん、二組綿華さん、五組城崎さんなど速そうな女子が選ばれてます。
……とかなんとか言ってるうちに、僕らはグラウンドに移動し始めます。
三年はクラス対抗リレーがないので、事実上最高学年のリレーであり、
テント側や残りの応援団の盛り上がりも最高潮に達しています。
マジで帰りたい。本当に体調悪くなってきた。
僕は八番目の走者なんで、しばらく緊張感は続きますが、
この盛り上がりの中、走り出す第一走者のプレッシャーは計り知れません。
三組は陸上部の明津さんという方にその大役を担ってもらうわけですが、
各クラスから選ばれたメンバーは、よく知った方たちばかりでした。
「適度にやってやろーじゃん。」
「絶対負けねーしー!」
「トップバッター、頑張るね!」
「あー意外と緊張するかも。」
一組うのぽん、二組正くん、四組「春風」桜塚紅、五組慎悟くんでした。
……揃ってみると濃いメンツです。
五人が並び終えると、すぐに係がピストルを構えます。
そして、よーいどんの合図とともに、若干正くんがフライング気味で、
少し遅れるような形で残りの四人が一気に走り出しました。
ものすごい声援が飛んで来る中、ほぼ横並びだった彼らの中から、
僕らの明津さんを差し置いて、俊足で有名な「春風」桜塚紅が一番前に出ます。
「ハッ!宇野君負けるでないぞ!!」
一組の次の走者は神様で、うのぽんへ声援を送りますが、遠くて届きません。
しかし、適当そうな彼でしたが、意外にも真剣な表情で桜塚さんを追ってます。
リレーの一周なんてあっという間で、もう桜塚がトップで戻って来ました。
「よろしく!」
「任せときいや!」
四組のバトンを引き継いだのは勝村軍団団長の鷲水さん。
続いて一組のうのぽんが神様にバトンを繋ぎます。
「頼んだじゃん!」
「ハッ!承った。」
珍しく息切れした様子で、足を動かしながら迫って来るうのぽんに、
僕は他クラスではありますが、何となく声を掛けてみました。
「お、お疲れ様です……うのぽんがそんなになるなんて……」
「ハア、迷惑かけたら悪いじゃん。ってか神様遅くね?」
うのぽんの目線の先には先ほどバトンを渡した神様。あれ、走るのおっそ。
さっきの自信ありげな表情は何だったのかと思う程でした。
神様は後続の三組の次の陸上部メンバーに抜かれていきました。
ちょうどその時、現時点で最下位の五組の慎悟くんが一周走り終えました。
「はあ、良助頼んだ!」
「任せろ。」
五組の次のバトンはみんな大好き★脇坂くんに渡りました。
水泳部で有名な彼ですが、その長い脚でぐんぐん他のクラスに迫り、
すぐ二組を追い抜き、一組の神様、うちの陸上部を追い越して、
最強四組の鷲水さんにも迫る勢いで、一位に後ろからプレッシャーを掛けます。
観衆の声援と歓声はどんどん高まっていきます。わーいものすごい帰りたい。
ここから中盤は、序盤程のデッドヒートはなく、ほとんど差のない状態で、
最強四組がトップの座を危なげなく守り続け、五組がそれに次ぎ、
我らが三組は三位。七番走者の六道斬太郎さんが威圧感と共に向かって来ます。
いよいよ八番の僕の出番です。あの人からバトン受け取るの怖すぎ。
鬼の形相のような顔をしながら、六道さんがこちらまで戻って来ました。
「頼んだ。」
「あ、はい……が、がんばりゅ!」
噛んでしまいましたが、とりあえず無事バトンは受け取りました。
とにかく死に物狂いで走ります。足を前へ前へと繰り出します。
自分の番になると無我夢中です。周りの声援なんてほとんど聞こえず……
「綿華さん!!あいっしてるぜー!!!!」
「うっさいわ!!」
後ろから物凄い爆音の愛の告白が聞こえてきました。
綿華さんラブで有名な工藤くんが、その綿華さんにバトンを渡した様です。
ま、僕はそんなことを気にしてる余裕なんてなく、一生懸命走っています。
ふと息を切らして横を向くと、いつの間にか綿華さんが居ました。
「あらオチくん。ばいばーい!」
一瞬で抜かれました★みんなごめんなさい死にます。
綿華さんには追い抜かれたものの、ひとまず最下位に落ちることはなく、
なんとか最下位の一組を後目に、一周走り切りました。
「はあ、すいません、僕……」
「良いから休んでろ。」
何とか差し出したバトンをスムーズに受け取った直樹くんは、
あれ、オリンピック級?って思う程の目にも止まらぬ速さで、
まず二組を追い抜き、五組、野球部の俊足で有名な横田さんを抜き去り、
さらに四組の元ヤンサッカー部、秋山さんの後ろにまで迫りました。
「ぐ……!?早すぎ、だろォ!」
「悪いが手は抜かない。」
直樹くんは表情一つ変えず、必死な秋山さんをサラッと追い抜き、
三組の逆転劇に会場は大盛り上がりでした!
しかし何人かの生徒は唖然として言葉も出ません。
息を切らす僕の隣で水を差し出したうのぽんも、
珍しく冷や汗をかいてその俊足を見つめています。
一位で帰ってきた直樹くんのバトンは、サッカー部主将、勝田さんへ。
すぐ後ろに、二位で抜かれたばかりの四組の翔ちゃんこと花園翔希さん、
さらに三位、渡透率いる五組の陸上部エース、志藤王悟さんが続きました。
もちろん、全員スタミナは有り余ってるスポーツ系エリート!
しかし、直樹くんが付けた大差を、どう頑張っても取り返せるレベルではなく、
翔ちゃんの猛追を振り切って、勝田さんはそのまま最後までトップを守り続け、
三組の大歓声と共に、ゴールテープに巻かれていきました。
「ハア、よし、よっしゃあああ!!」
「おめでと、うおっ!?」
勝田さんのもとへ集まっていくリレーメンバー、他クラスメイトが、
少し遠巻きでそれを見ていた直樹くんを、無理矢理巻き込んで、
大きな輪になって勝田さんの胴上げを始めました。
あ、僕は当然輪の外です。今日も良い天気です★




