ネガティブ・アスリート(5)
さて、体育祭が始まったとはいえ、
もちろん全ての競技に出るわけではないので、
しばらく出番があるまで直樹くんと二人、観戦することにしました。
達也さんはと言うと、早速競技に出るらしいのですが、
えーっと何ですかね、たしかリレーに出ない二年生が出る種目で……
種目:玉入れ
う、うーん……まあ大丈夫ですよね、多分。
僕が少し心配になっていると、隣の直樹くんに顔を覗き込まれました。
「どうした?」
「あ……なんか達也さん、ノーコンだったと思うので心配で。」
「あんなの目を閉じてても入るだろ。」
「それは直樹くんだけです。僕も無理です。」
「恒太野球部じゃなかったのか?」
「僕もノーコンです★」
僕らはどうでも良い話をペラペラとしていましたが、
そういえば僕らが待機しているこのテント、
混むかと思えば意外とガラガラで、あまりにぎわってません。
「競技に出ない皆さんはどこに行ったんでしょうね……」
「委員会の仕事と、応援団じゃないか?」
「ああ……道理で。目立つ人たちはそっちに行ってしまってるんですね。」
よく見ると体育祭運営本部にあたる、グラウンドの校舎側で、
にぎやかな集まりがあって、そこで応援団が旗を振っているようです。
こっちに残ってるのは暗いメンツってわけですね分かりました。
「ってよく考えたら、直樹くんも学級委員の仕事大丈夫ですか?」
「学級委員の主な仕事は、競技が始まる前にクラスをまとめる事だ。その時になったらちゃんと動くさ。」
「あ、なるほど……」
うん、やっぱり直樹くんしっかりしてますよね。
真剣な表情もイケメンですし、何もかも完璧なんですねこの人は。
そうこう言ってるうちに、玉入れが始まりました。
前髪の長めの中二病を探すと、すぐに達也さんが見つかりました★
意外と俊敏な達也さんは、すぐに自分の球を確保するのですが、
それを中央のカゴ目掛けて投げても、そもそも高さが届きません。
あの人どんだけ腕力ないんだろ。将来が心配になります。
達也さんは真面目なので、諦めはせず、
また次の球を探して、転がして、カゴの方へ投げるのですが、届かず。
時には妨害チームに球を奪われそうになって、必死で球を守って、
あれ、何か卑猥なことを言ってる気がしてきました。
「達也、下手だな。」
「直樹くん直球すぎます。球を投げるのが上手いだけに」
でも、悪戦苦闘している達也さんが微笑ましいな、なんて思っていると、
すぐに笛が鳴って、そこで競技終了。
一応この体育祭は紅白に別れて戦うことになっているのですが……
「状況から言って、白組がかなり優勢だよな。」
「そうですね……紅組にうのぽんや神様、正くんたち一組・二組・五組前半チームが居るとしても、僕ら三組の属する白組は最強オールスター四組と、渡様の率いる五組後半チームが居るんで……」
正直白組の優勝は火を見るより明らかなわけです。
と言ってるうちに玉入れの結果が出て、白組の勝ち。
リレーメンバー不在でも、やはりこっち側は強いですね。
うーん。うのぽんたちには悪いですけどねえ。
そして、達也さんが玉入れの競技から帰ってきました。
あまり活躍してはないですが、なぜかヘロヘロでぐったりしています。
「あ……達也さん、お疲れ様です……」
「達也投球下手だな。」
「うるせえコラ直樹、なんか言ったかよ!」
「下手だと言った。」
わーい直樹くん全然空気読めない。でも正直達也さんの下手さは否めない!
達也さんも色々と呆れながら、僕の方を見てきます。
「ま、下手なのは認めるがな……恒太もそう思うだろ?」
「いえ、前衛的で素晴らしいと思います。」
「それ褒めてるか?」
「よー!みんな元気かー!?」
僕ら三人が話している所に、すごい勢いで誰かが飛び込んできました。
そのインパクトでも分かったんですが、
直樹くんの幼なじみ、奥野正くんでした。何かお久しぶりです。
「なんだ正か。」
「なんだってなんだよー!まー直樹だから別にいいけどー。この体育祭は紅組が勝つからなー!」
「状況的に考えて二年は白組の勝ちだろ。他の学年はともかくな。」
「うわー直樹冷めてて超つまんねーなー。お前もっと本気でやれしー!」
「俺はいつだって本気だ。」
直樹くん&正くん。奇妙な凸凹コンビですね。
そしてもう一人。正くんと一緒に、ゆっくりと僕らに近づいてきました。
「玉入れは負けちゃった~。意外と入んないね~。」
去年一年間で見慣れた作り笑顔にポーカーフェイス。
達也さんの幼なじみにして、洋次くんの……元彼、テル君でした。
……何というか、今朝洋次くんがあれだけ落ち込んだ姿を見たのとは、
全く対照的に、テル君は見かけ上いつも通りの様子です。
「ああ、テルもリレー出ないのか。それで玉入れ出たんだろ?」
「そうだよ~。だって足遅いしね~。」
「……そうなんですか……足が遅いのにリレーに出る人間がここに居ます。」
「あ、落合出るんだね~。頑張ってね~。」
冗長なほどのんびりした口調で、テル君はふわりと笑顔を作ってみせました。
……やっぱり変わりませんね。
洋次くんとのイザコザ、多少はダメージを受けていてもおかしくないのに。
いや……うーん。とにかくテル君の気持ちは分かりません。
今それを指摘しても仕方ないですし、何も触れない事にします。
「しかし悪いなテル。この体育祭、俺たち白組が勝利の栄冠を……」
「いや達也さー、まだ分かんないかもよー!」
正くんが指した先はグラウンド。次の競技が始まろうとしていました。
種目:綱引き
各学年の女子全員による綱引き。
バルガクの希少な女子たちで、そんなに体型の差はなさそうです。
笛の音と共に、紅白綱を引き、力は均衡するかに思えましたが、
紅組の中に、ものすごい声量と力で、綱を引く女子が一人混じっていて、
結局その女子の力で、白組は徐々に引っ張られていき、紅組の勝利。
力強くガッツポーズを決めたその女子は……我らが綿華さんでした。
「あっはっはっはっ!その辺の女子に負けてたまるもんですかっ!」
「なー?まだ分かんないだろー!」
やはり綿華さんは敵に回したくない女子ナンバーワンですね……。
紅白の点数差はこれでほとんどなくなり、正くんは得意な顔をしています。
そして正くんは、直樹君にビシッと人差し指を向けました。
「それじゃ次はクラス対抗リレーで、お前を打ち負かしてやるしー!」




