ネガティブ・アスリート(3)
「おー、直樹か。あいつ、足も速いのけ?」
後藤先輩は驚いたような目で僕ら四人を見つめてきます。
定期テストの優秀者が掲示される関係で、
上級生にも、直樹くんの圧倒的一位は知れ渡っているようです。
何なら僕も推薦しようと思っていたのですが、菊池先輩が難しい顔をしてます。
「……あいつは寮でいつも一人か、お前らが構っているくらいではないか?あまり協調性のある男だとは見受けられないが……」
「ハッ!確かに奴は、個人競技では抜群でしょうけどなあ。」
うーん。神様が直樹くんに対抗しているのは分かりますが、
そこまであからさまに直樹くんの負の部分を強調しなくても……。
「いや、あいつ素直で良い奴だぞ。クラスリレーも協力してくれるし、何でも出来るからさ。味方にしておいて損はないと思うが?」
何の気なしに、直樹くんをすぐにかばったのは達也さんでした。
僕もその意見に同調しようと口を開きかけると、
後藤先輩が深く何度もうなずいて先に言いました。
「それなら問題なしだっぺ!じゃ、誘ってみるっぺ!」
「あ、あの……直樹くんなら、食堂のどこかにはいると思いますので……」
僕はこれくらいしか役に立てません★
後藤先輩は喜んでいますが、まだ菊池先輩はしかめっ面で、
そして僕を真っ直ぐに見て尋ねました。
「……落合。お前も織田直樹は良い奴だと思うか?」
「え……あ、はい……まあ……仲良くさせてもらってます。」
「……なら良い。行くぞ俊平。」
「ま、待ってけろ!」
僕が答えただけで、意外にもあっさり菊池先輩は直樹くんを認め、
後藤先輩と二人、食堂の中を見渡しながら歩いていきました。
「ハッ!君たち二人は織田直樹をえらく気に入っているようだな。」
直樹くんの才能をやっかむ神様が、また難癖をつけてきましたが、
達也さんはそれをものともせずに答えます。
「当然だろ。友達なんだから。」
「ハッ!いつの日も友情は美しいという事だな……」
そう言い切ると、ようやく神様も、落ち着いて食べ始めました。
神様食べる量少なすぎ。あとうのぽん食べ方汚い。
○ ○ ○ ○ ○ ○
走っています。僕はひたすら走っています。
追い抜かれて、ヘロヘロになりながら、次の地点で待つ直樹くんのところへ、
ハア、このリレーのバトンを繋ぐために……。
「な、直樹くん……!!」
「おつかれ。」
ハア、バトンを手渡すと、ハア、直樹くんは、ハア、ものすごい速度で、
ハア、ハア、前の人を追い抜いて、ハア、ちょっと水飲んで良いですか?
あと暑いです。身体から湯気が出ている気がします。
バトンはそれから一切無駄のない動きでアンカーの勝田さんに渡り、
そのまま僕ら三組チームは、四組チームに勝ってしまいました。
四組チームも、「春風」桜塚紅や、次期部長たちの集まる、
オールスターの最強チームを揃えていたはずなのですが、
自分たちが負けた事に唖然として開いた口がふさがらない様子です。
ひとまず、僕はもう少し水分を補給してから、
直樹くんのところへ向かってみました。
「織田、すげーな!マジで足速いよな!お前のおかげで逆転したぞ。」
「そうか?」
既に勝田さんが、息を切らしながら直樹くんに話しかけていて、
かなり話し掛けづらかったのですが、ここは頑張りました。
「お、おつかれさまです……すみません、僕の鈍足をカバーしてもらって。」
「別に問題ない。リレーはそういうもんだろ?」
「あ、はい……そうですね。本番もよろしくお願いします……」
直樹くんのイケメンスマイル、最近は直視できるようになってきましたが、
キラキラ輝く汗とセットだとちょっとキツいです。
豚の汗と違って良いにおいがする気がします。あ、嗅いでませんよ!
「頭もよくて顔もよくて、ついでにスポーツ万能ってか。嫌な奴……」
……リレーに出ないクラスメイトが、グラウンドに腰掛けて、
僕らにギリギリ聞こえるような声で、何やら話しています。
「そうだよな。でも、性格はそんな良くないだろ。ぶっきらぼうだし。」
「ほんとそれ。いつもツンツンしてて、王様気取りかっての。」
気にも留めない直樹くんとは違って、さすがの僕もムッとしました。
でも、クラスの隅にいる僕のような奴が言っても、何の効果もないし、
直樹くんが現状、「奇跡の子」の事を大っぴらにしていないので、
クラスの多数派はこのような意見であふれているのです。
こういう時に立ち上がれたら、かっこいいんですが……
「何だよお前ら?自分は苦労せずに、頑張ってる奴をけなして楽しいか?」
陰口を言う彼らにハッキリと言い切ったのは、他でもない達也さんでした。
そのまま達也さんは、反論も聞かずにこっちに向かって歩いてきます。
「よう直樹、恒太。お疲れさん。まったく、俺には程遠い世界だぜ……」
「そんなこと無いだろ。達也も走ってみたら意外といけるはずだ。」
「いやいや、マジでシャレにならないからやめてくれ……」
達也さんは、直樹くんをかばった事には一言も触れず、
二人して楽しそうに会話を続けています。
……やっぱり、達也さんは凄い人です。
スポーツは出来なくても、僕はこの人が一番かっこいいと思います。
「ん?恒太、ボーッとしてどうした?」
「え、あ……リレーで疲れて、豚になる寸前でした。」
「ははっ、お前もお疲れさん。」
僕の肩をポンと叩いて、ニッと笑顔を見せる達也さん。
何ですかこれ最高のご褒美です。走って良かったです。
「騎馬戦の練習始めるぞー。メンバーで集まって、騎馬を組んでくれー。」
体育の浅田先生の号令で、リレーを見物していた生徒も含めて、
全員慌ただしく動き始めました。全員参加の騎馬戦です。
騎馬戦。……あ、しまった。メンバー決まってなかった★
ボーッとしている直樹くんはともかく、達也さんも慌て始めました。
「クッ、忘れてたぜあと一人!誰か余ってそうなぼっちな奴はいないか……」
「達也さん失礼すぎですよ。しかし困りましたね……」
「お前ら三人、メンバーが足りてないのか?」
そんな僕らに近づいてきたのは、特別特待生の一人かつ、
剣道部主将にして高校王者、去年脇坂君と「二大巨塔」として恐れられた、
六道斬太郎さんです。とっても怖い人です★
「俺を仲間に加えてくれ。」




