ネガティブ・アスリート(2)
「……まったく、そんなに嫌だったんなら、引き受けなければ良かっただろ。」
昼休み、向かい合わせでカレーを食べている達也さんに励まされました。
僕は絶望のどん底です。クラスリレー。絶対上手くいかないです。
できる限り影を薄くしていたというのに、勝田さんからは逃れられず。
「本当に後悔してます。あの時引き受けた自分を殴りたいです。」
「そういや五組は良助も慎悟も出るって聞いたぞ。結構盛り上がりそうだな。」
「他人事すぎますよ達也さん。」
「ケッ、俺は声すらかけられなかったんだぞ!」
「察しました。」
カレーをやけ食いし始めた達也さん。
……冷静に考えると、僕がリレーに出るなんてあり得ないです。
基本的に運動能力の低い僕ですから、当然足の速さも、良くて人並みです。
リレーなんて、足の速い人間が、自らの能力を誇示するための競技で、
どう考えても僕では役目を果たせないです。
吐きそう。いま食べてるカレーうどん吸ったり出したりしそう。
「僕がリレーなんて……あ、一組はうのぽんと、神様や洋次君が出るって聞きました。」
「……ああ、そうか……」
急にカレーを食べる手が止まり、スピードを緩めてまた食べ始めた達也さん。
分かりやすいですね。僕にはその理由がよく分かります。
言うべきではないかもしれないとも思いましたが、あえて僕は口にしました。
「……洋次君、やっぱり元気ないですか……?」
「……そうだな。元気ないって事はないんだが……やっぱ、日曜にテルにフラれちまったのがかなり堪えたんだと思うぜ。」
僕はうのぽんの情報網を通じて、昨日ようやくその事実を知りました。
あんなにラブラブだった洋次君&テル君が、
前兆もなく、これほどまであっさり別れてしまうなんて……。
いや、もしかしたら必然だったのかもしれません。
去年僕はテル君と席が隣だった時期が長く、何度かお話ししましたが、
天使の様な微笑みの下に、不安や不満を隠していたように見えました。
それがもし溢れだしたとするならば、別れたとしても不思議ではありません。
「あの二人でも別れちまうなんてな……やっぱ恋ってのは難しいもんだな。」
カレーを食べる口を動かしながら、どこか遠くを見つめる達也さんが、
僕の思っていた事とほとんど同じような感想を述べてくれました。
恋が難しかったのか、それとも男同士だったから難しかったのか……。
きっと今後失恋を重ねる僕ですが、付き合えたとしても破局が待ってる……
あ、なんかすごい厳しい気持ちになってきました★
「どーしたの?二人とも、やけに真剣な顔してんじゃん。」
声に反応して横を向くと、日替わりランチを持ったうのぽんが立ってました。
そのままうのぽんは、僕らの隣の空いている席に腰掛けます。
真っ先に反応したのは達也さんでした。
「珍しいな剛司。一緒に飯食うのは去年以来だぞ。今日は他の奴と一緒じゃないのかよ?」
「まーね。いつも教室か食堂でのがみんとかと食べてんだけどね。」
「野上と?なんだ剛司お前、野上狙ってるのか?」
「そーいうわけじゃないじゃん。」
「確かにあいつ見た目は良いから分からんでもないが……」
「一言も好きって言ってないじゃん。すげー勝手な予想じゃね?」
うのぽんと達也さんがノーマルな感じに話し始めました。
途端に僕は空気になります。いつもの事です。
いや、いつもの事でした。過去形の方がふさわしいですね。
これが、去年の昼の日常でした。
同じクラスで仲の良かったうのぽんと達也さん。そこに僕が乱入する。
今は二人のクラスが離れたのもあって、滅多にこのメンバーで食べなくなって。
……そう思うと急に懐かしくなってきました。
一応毎朝達也さんと学校で、毎晩うのぽんと寮で、僕は会ってはいますが。
「ともあれ、剛司が一人で俺たちのところに来てくれるとはな……」
「あ、言ってなかったけど一人じゃないよ。」
「ハッ!誰だ!誰だ誰だ誰だ!神を呼んだのは誰かね!!」
後ろからやって来たのは神様でした。ミニサイズのうどんを持っています。
神様は自然と僕の隣の席に座りました。腕を組んでふんぞり返っています。
もはや誰も何も突っ込みません。相変わらず食の細い人です。
「ケッ、せっかく元同じクラスで楽しんでたところを邪魔しやがって……」
「別にそういう楽しみ方してなくね?」
「ハッ!来て早々邪険に扱わないでくれたまえ!」
不満を言う達也さん、それに同調しないうのぽん、勝手に傷つく神様。
ところで達也さんのその言い方だと、
同じクラスではなかった僕も等しく邪魔だって事ですね分かります★
「ハッ!ところで君たち、野上君の事を気にしていたようだが、彼女なら住田君の周りを嗅ぎまわっているようだ。腐女子は理解に苦しむ……」
「ああ、そういやそうなんだってな。最近俺たちの前でもあんまり隠さなくなって来てるぞ。」
野上さんが腐女子という事は、徐々に知れ渡り始めているようです。
ただし野上さんと同じクラスのうのぽんたちや、同じ部活の達也さんとは違い、
僕はあまり接点がなく、話した事がありません。
見た目は普通の子ですが、はた迷惑なほど腐女子をこじらせているらしく、
洋次君に付きまとっているみたいですね。
ところで住田洋次の名前が出る度に若干重い空気になるのは、
僕らがあのカップルの事をよく知っているからですよね。
えーと、明るくしないと……裸踊りでもすればいいでしょうか★
「少年諸君!みんな、元気かっぺー!!
物凄い勢いで明るい人が近づいてきました。
「元気」そのものを具現化した我らが寮長、後藤先輩です。
当然そのそばには、目つきの悪い巨人がしかめっ面をして立っていて、
こちらを見下ろしています。言わずもがな我らが「公平」菊池先輩です。
「後藤先輩、こんなところでどうしたんすかー?」
「よくぞ聞いてくれたっぺ!実は、三つ巴のリレーの寮生代表で出てくれる生徒を探してるんだっぺ!」
えーと、去年体育祭を経験している僕でも、
一回聞いただけでは何のことかよく分からなかったのですが、
うのぽんや達也さんと揃って目が点になっている僕らを見て、
菊池先輩がすかさず解説を挟んでくれました。
「……三つ巴リレーとは、バルガク三大組織『生徒会執行部』、『部長会』、それから『学生寮』のそれぞれ代表が争う体育祭の競技の事だ。」
「ハッ!なるほど。三年生は体育祭に登校義務がないため、わざわざ代表として出る生徒が集まらないという事ですね。」
「さっすが大樹、その通りだっぺ!でも大樹は執行部の代表けろ?って事で、もう剛司には出てもらおうと思ってるんだっぺ!」
「はあ。いいっすよー。」
うのぽん軽すぎ。よく分かりませんが状況は把握しました。
そして一瞬で影を消します。もうこれ以上リレーはこりごりです。
心なしか菊池先輩ににらまれている気がしますが気のせいでしょう★
「それでもまだ足りないっぺ。誰かほかに居ないけー?」
頭を抱えた後藤先輩。その肩を支える菊池先輩。
そして、その時良い提案をしたのは、寮生ではない達也さんでした。
「……直樹なんてどうだ?足も速いし、ちょうどいいんじゃないか?」




