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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第二章 知らなくたって、いいんだよ
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想い人の背中が(6)


 朝。月曜の朝。テルと達也は朝練だから、俺一人で登校。白米をかけこんで、学校の準備をして、ゆっくり家を出た。いつもよりちょっと遅れて出たのは、ずっと考え事をしていたからだろうか。

 テルに別れを告げられた夜が明けて、俺の頭は冴えていた。とにかくテルと話さない事には始まらない。あいつもあいつで暴走してるから、あえて距離を置くのも良いかもしれない。その辺は、テルに会いに行ってみて、その時の感覚に任せるとしよう。

 きっと上手くいく。俺には自信があった。思い出しただけでも、楽しかった記憶、助けてやった記憶、身体を重ねた記憶、それぞれ、鮮明に浮かび上がってくる。テルもきっと思い出す。俺たちが別れるなんてありえない。


 通学路を真っ直ぐに進んでいると、見覚えのある姿がのんびり歩いているのが目についた。正直この通りを使う人間は限られている。俺はペースを速めて、前を歩く男の肩を叩いた。


「おっす良助!」

「洋次か。今日は一人か」


 会うなり、冷めた目を向けてくる良助。長きに渡る因縁が、あのライブハウスの一件で解決したとはいえ、そんなにすぐには俺たちの関係は変わらない。良助は相変わらず、俺にある種の苦手意識を持っているようだったが、とりあえず訊かれた事には答えようと思う。


「ああ、テルも達也も朝練でな」

「そうか」

「お前こそ、珍しく早いんじゃないか?」

「まあな。校門のところで慎悟と待ち合わせしてる」

「へえ、あんなちょっとの距離でも一緒に歩きたいのか? 仲良いな!」


 俺のコメントは良助の癪に障ったようで、良助は放っておいてくれ、という目で俺に訴えかけてきたが、すぐに前を向き直った。大方、何を言っても無駄だと思ったのだろう。その辺、俺の事をよく分かってる奴だ。


「仲良かったとしても、お前とテル程じゃないだろ」


 良助のコメントに、俺は多少考えさせられた。どうやら、事あるごとにテルはすぐ良助に相談していたが、さすがに今回の件はまだ伝えていないらしい。よくよく考えれば一年の時はともかく、今はクラスも環境も違う。そこまで相談もしてないって事か。

 何と答えるか迷ったが、「そうだな」と笑って言った後、特に何も言及されなかったので、そのまま黙っておくことにした。


 校門まで近づいた時に、俺たちと反対側の駅や寮の方面から、たくさんの生徒に紛れて慎悟が歩いてきて、俺たちを見掛けた途端ちょっとジャンプして、急いで走って来た。


「おはよう良助! 洋次と一緒だったんだね」

「ああ。付いてきやがった」

「俺だって学校に向かってんだから仕方ないだろ!」


 俺と良助のいがみ合いを見て、慎悟は笑っていた。……変わったものだ。気が弱く、周囲に溶け込むのが苦手で、親の言いなりになっていた慎悟が、そんな素振りを一切見せず、ケラケラと笑っている。俺たちの関係を変えようと踏み出してきて、良助に本当の気持ちを訴えて…… 恐らく、バルガクに助けられている所もあるのだろう。この自由な校風は、良くも悪くも生徒を変える。


「そういやさ、テルとは順調なの?」


 久しぶりに話したからか、世間話のようなノリで慎悟に訊かれた。良助は下らない、という顔をしている。二人とも俺が「順調だ」と答える事が分かっているかのように。そうであったらここまで苦労せずにすんだものだが。まあ、俺たちの関係が変わってしまったのもバルガクのせいかもしれないな。



「昨日別れた!」


 あえて俺は笑って言う事にした。慎悟は勿論、良助までもが俺を見て唖然としていた。やはり相当な驚きを与える言葉だったらしい。二人とも、次の言葉が出てこない様だった。俺も昨日、テルに沈黙させられたのを思い出した。


「いやー、最近すれ違いが多いからな! 昨日デートの後に、テルにきっぱりと言われちまった」


「……そっか、悪いね、軽々しく訊いちゃって」

「きっぱりフラれた割には元気そうだな」


 俺を気遣った慎悟とは対照的に、良助はすぐ冷めた目に戻って俺にそう言った。そう訊かれなくとも告げるつもりだった言葉を、俺は続ける。


「けど、時間が解決してくれると思うんだよな。俺もテルも、本気で嫌い合ってるわけじゃないだろ? だからそんなに気にしてないぜ」


 そう言うと、気づけば目の前に下駄箱が来ていたので、俺は一旦二人と別れ、上履きに履き替えてから、また合流した。慎悟は言葉を懸命に選んでいるようだったが、良助はどこか別の所を見ながら口を開けた。


「自分勝手じゃなくて、上手くいくと良いけどな」

「良助、あんまりそういう言い方しない方が」

「何でだ。一応俺は応援してるだろ。」


「ま、そうだな。俺の悪い癖が出ないように気を付けるぜ。じゃあな!」


 二人には別れを告げて、俺は階段を駆け上がった。せっかく二人一緒に居るのをこれ以上邪魔するのも悪いと思ったし、それから…… これ以上、俺たちの問題に口を突っ込んでほしくなかったからだ。

 すぐに他人に助けを求める人間をどうかと思う。その中にテルも居るから、あまり大きい声では言えないが、なるべく自分で解決するようにしないと、人間としての成長が見られないと思う。俺は絶対にこの問題を、自分で解決して見せる。テルの事を一番良く分かってるのは俺なんだ。きっとやってみせる。

 とりあえず今は、朝練だからテルも居ないだろうし、素直に自分の教室に向かった。そういや今日は校門のところでお嬢を待たなかったから、後から来たお嬢が新しい付き人を探しているだろう。でも、俺にはどうでもよかった。お嬢にも、ちゃんと接し方を考えないと……ただそう思っていた。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



「……良助、どう思う?洋次らしいな、って僕は思ったけど。」


住田洋次と別れた二人は、ゆっくり階段を上がっている途中で、

やはり今の話を気にした石川慎悟が、先に口を開いた。


「あいつらはあいつらで勝手にやるだろ。」

「そうなんだけどさ……」

「俺はテルの成長を感じたけどな。」

「え、何で?」

「テルが言いたい事言ったから、別れる事になったんじゃないのか。」


脇坂良助は、自分がテルに伝えたアドバイスを思い出していたようだった。

そしてそのアドバイスの話を、脇坂は石川に伝える。

言いたい事を我慢するな、それをやっと実行に移せたか、

そう思った脇坂は少しばかり、満足そうな表情を浮かべていた。

しかし、石川は対照的に、憂鬱そうにつぶやいた。


「洋次が洋次なら、テルもテルだよね……」

「どうした。」

「いや、相変わらず自分の問題に、周りの人を巻き込んでるんだなって思うと、変わらないなって思うんだ。」

「確かにな。あいつは前からずっとそうだ。」

「逆に洋次は、全然人に相談しないんだろうしね……」

「そういう意味では、別れて当然かもな。」


洋次が楽観的にこの問題を捉えていたのに対して、

脇坂と石川、二人は非常に現実的だった。

クラスのドアを開ける前に、脇坂が遠くを見ながら言った。


「とりあえず、あいつらも変わらないと駄目ってことだな。」



  ○   ○   ○   ○   ○   ○


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