あぶない!保健室(8)
「昨日はお疲れ様でした。綿華さんは、頼りになりますね……」
「いえいえ、それほどでも……」
保健室を掃除する中島先生に、昨日の内科検診の手伝いを感謝される。
ま、保健委員長として当然の仕事をやっただけなのに、
感謝されるっていうのは気分が良いわね。それなりに大変だったけど。
「あ、それから……こちらが内科検診に参加していない生徒のリストです。二年生は、綿華さんの方から今日の再検診について声を掛けてもらえませんか?」
「良いですよ。やっておきますね!」
中島先生は暗い感じだけど、きちんと仕事ができる先生で、
正直、小泉先生の時よりもあたしの仕事は減った気がするわ。
ま、小泉先生はちょっぴり頼りないからこそ、支えがいがあったもんよ!
ところで、内科検診未受診者のリストを見渡したんだけど、
二年生には工藤昴の名前があったわ。
確かに内科検診の時、あいつこそ筋肉自慢とかしてきそうな感じなのに、
昼前に見掛けて以来、姿を見せなかったわね。
……まさか工藤が居るなんて、正直面倒くさいわ。
「では、よろしくお願いします。」
中島先生は微笑んで、ペコリと頭を下げた。真面目な人ねー。
ところで安達先生はどこ行ったのかしら。
……うん、やめるわ。あの人には首を突っ込まない方が良いわね。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「綿華さん、こんちはっす!」
保健室を出た所で、すぐに工藤に声を掛けられたわ。
思わずため息をついちゃったけど、探す手間が省けたと思う事にするわ。
「工藤あんた、何で昨日居なかったの?今日再検診だから、さっさと受けて帰りなさいよ。」
「えー……面倒っちいっす!」
「そういう問題じゃないのよ。昼休憩に必ず受けなさいね、良いわね?」
「……こ、これってもしかして、シミュレーションNo.13、押してダメなら引いてみろ、いつもはうっとうしがる綿華さんが、ちょっと休んだ俺を気にかけてくれるっていう」
「違うわ。じゃ、頼んだわよ。」
あたしはさっさと北校舎の教室へ向かう。
早く逃げないと……と思ったが、珍しく工藤が追ってこない。
振り返ってみると、彼はじっと保健室を見つめて動かなかった。
……何なのかしら?変な感じね。
前もちょっと思ったけど、工藤ってどことなく変なのよね。
もちろん馬鹿で頭がおかしいっていうのは分かってるわよ?
でもそれを除いても、何かある気がするのよねー。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「昨日は大変だったね~。お疲れさま~。」
お昼時、テル君と顔をつき合わせるとすぐそう言われたわ。
全然感情がこもってないのはともかく、労ってくれただけでも良しとするわ。
「見たくも無い裸見せられて、大変だったわよ。ほんと。」
「そうなんだ~。」
そういえばテル君は、ばっちり服を着て通過していった。
ま、この子が裸見せびらかすタイプだったら驚きよね。
……昨日と言えば、鈴木美沙子とすーみんがまたイチャイチャしてたけど、
それをあえてテル君に伝える必要はないわよね。
気の毒だとは思いながらも、黙っておくことにするわ。
テル君も、もう鈴木美沙子のことは割り切れてるのかしら?
「どーもー!あれ、工藤知らないかー?」
勢いよくあたし達の輪に飛び込んできたのはおくっちだった。
今日は一段と食べるのが速いわね。
昨日は長髪軽音部に不似合いな、細マッチョな身体を披露してくれたわ。
「工藤?知らないわよ。何で?」
「いやー、どうせ綿華のとこに居るかなーと思ってさー。」
「そんなイメージまっぴらごめんだわ。で、何か用なの?」
「あー面倒くせーなー。昨日の国語演習に休んだから、プリント預かってんだけどさー。渡し忘れちゃってよー。捨てて良いかなー?」
良いわけないわよ。本当軽音の事以外は不真面目なんだから。
……工藤のバカにプリントを渡したところで意味があるとは思えないけど、
そういえば今は彼、保健室に内科検診に言ってるんじゃないかしら?
朝の様子も気になったし、ついでに見に行こうかしら。
「それ、あたしが届けるわよ。多分工藤、保健室に居ると思うから。」
「よろしくー!じゃ、テル君はやく部室行こうかー!」
「待って~。まだ食べ終わってないから~。」
「早くしてくれよー!」
……のんびり屋のテル君と、せっかちなおくっち。中々いいコンビね。
あたしはプリントを預かって、彼らを放置して保健室へ向かった。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「おっ、綿華か。また俺に会いに来たのか?困った子猫ちゃんだ。」
保健室の前で、安達先生と鉢合わせ。面倒な事になったわ。
この人は身長も高くて、かなり距離を詰めてくるし、圧迫感あるのよね。
正直この人とは話すのも嫌よ。もう工藤のプリントもどうでも良くなったわ。
「……どうも。あたしは別件で保健室に用があるんで。」
「おっと……思春期の男子の裸を見てやるなよ?裸が見たいなら、俺ので我慢」
「結構です。それでは。」
あたしは安達先生の横を通り抜けて、保健室へ向かおうとする。
さっさと工藤にプリントを渡して、教室に戻るとしましょう。
するとその時、保健室の方から甲高い聞きなれた声が聞こえてきた。
『やめろ!やめろよ!俺に触るんじゃねえ!』
……工藤、よね?
なんか妙に慌てたような、焦っているような声だったわ。
あたしは少し早歩きになったが、そんなあたしの横を、
安達先生は走って通り過ぎ、あたしより先に保健室の戸を開けた。
続いてあたしも中を覗いてみると、工藤、それから中島先生が、
なんか二人でバタバタと争っている。
中島先生が工藤の袖を掴むが、工藤はそれを必死で放そうとしていて、
彼らの前に座って待っている医者が、呆れた顔をしている。
「どうしたんですか工藤くん!服を脱がない事には内科検診が」
「うるせえ!俺に触るな!やめろお!!」
……何をためらう事があるのかしら?
バルガクの男子たちはいとも簡単に脱いで、暑苦しいくらいだったのに。
工藤は頑なに、シャツを脱ごうとはしない。
……そんな様子を見ていた安達先生が、いつもと違う声色で尋ねた。
「……工藤。もしかしてお前、女か?」




