あぶない!保健室(7)
うっすら付いた筋肉。程よく締まった体にがっちりした腕。
強そうな肩。ムキムキに仕上がった体。よく張った背中。
見渡す限り筋肉、筋肉、乳首、筋肉!
……あたしは今、たくさんの上半身裸の男に囲まれている。
何事かと思うでしょうね。あたしもここまで担当すると思ってなかったわ。
でも……これこそが、内科検診よ!
「ハッ!愚かな人間の馬鹿どもはすぐ裸になりたがる。」
「そうね。誰も早く脱げって言ってないのにね。」
男子は体育館、女子は保健室で内科検診を行うんだけど、
女子のために保健室前で待機しているあたしの前を、
体育館へ向かう男子たちが、羞恥心をどこかに置いて次々と裸で現れる。
ただの自己顕示欲の塊ね。ちろっと付いた筋肉を見せたいだけ。
あたしにとってはただの地獄よ。汚い男の身体なんて、何が楽しいのかしら。
「ハッ!神にも全く分からんな。」
「心読むのやめて。それに、神様は天国でしょ?」
「ハッ、はっ?……その辺の貧相な男どもの身体など、見るに値せんわ。」
「おっ、神様だ。学校で会うと変な感じするね。」
神様がそう言った瞬間に、あたし達の前を通ったのは、
人の良さそうな笑顔を浮かべる……えーっと、神様と同じ部屋の、
そう、石川慎悟君。たっちゃん達の最後の幼なじみね。
そしてもう一人、黙っているけどわっきーが居るわ。
二人とも運動部だから、例にもれず上半身を晒しているんだけど、
わっきーの裸は正直見事ね。水泳部で培った筋肉がすごい。
隣の神様が大人しくなったと思ったら、わっきーを凝視してるわ。
正直分かってたけどね。神様はど真ん中のゲイだから。
「綿華さんは保健委員長だっけ?手伝い大変だね。頑張れ!」
「ああ、ありがと。男子は体育館の方へ行ってね。」
あたしがヒラヒラと手を振ると、石川君もあたしに振り返した。
それから、隣のわっきーにはすごい睨みつけられたわ。
何でかしら?何もした覚えはないわよ。
ちょっと前に縛り付けて軟禁したくらいしか……覚えありすぎるわ。
そして、二人が去っていくと同時に、神様がよだれを垂らしながら、
こっそり二人の後を追いかけていったわ。
もうノーコメントよ。あれただのストーカーよ?工藤並みだわ。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「あ……綿華さんどうも……」
しばらく時間を置いてやって来たのはオチ君。服着てるわね。
それから後ろにはたっちゃんと、織田君も居るわ。
たっちゃんは正直予想通りの、一言でいえば貧相な身体だったけど、
織田君は程よくついた筋肉が目を引くわ。
噂によると「奇跡の子」なんだとか。あたしには縁が無いってもんよ。
「やっほやっほ!オチくんは上半身脱がないんだ。」
「えっ……僕の毒々しい肉体を世間にさらすなんて出来ません。それこそ犯罪です。わいせつ物陳列罪です。」
「え?上半身晒しただけではならないだろ?」
オチ君のいつものネガティブギャグに、まっすぐ突っ込んでくる織田君。
これは手が焼けるわね。オチ君も慌ててるわ。
「あ、その……今のはただのギャグと言いますか、あ、生きててすみません。」
「そうか。とりあえず行こうぜ。」
当然ながら笑いもせずに、真顔のイケメンのまま、織田君は歩き出した。
それからペコペコと頭を下げて、オチ君も困った顔をしてついて行く。
「綿華乙だな。まっ、せいぜい頑張ってくれよ。」
「たっちゃんに言われる筋合いないわ。」
「ケッ、とりあえず行ってくるとするか。」
斜に構えたたっちゃんが、ダサいポーズを取りながら二人の後を追う。
あの子はあの子らしくて良いわね。恐ろしいほど純粋だわ。
ところで女子はまだ?そろそろ待ちきれないわ。
普段より薄着の女子たちの透けたブラをこの目に焼き付けたいのよ!
○ ○ ○ ○ ○ ○
「あらん?どうして逆賊の女が、わたくしの大切な用のある、保健室の前に立ちふさがっているのかしら?」
やって来たのは豊満なバストの鈴木美沙子。
相変わらず派手な制服。下着もどうせ派手でしょうね。
残念、あたしは巨乳ちゃんには興味が無いの。グッバイ!
「会場こちらですどうぞー。」
「あら、係員でしたの……それはそれは失礼いたしましたわ。ご機嫌麗しう。」
鈴木はそのまま保健室の中へ消えていく。
一応見送ってからまた前を向き直ると、そこに二人の男女が立っていた。
「姐さん!ここで待機してるって事は……まさか姐さんも、男たちの上半身裸祭りを楽しんでいるという訳ねえ!ミラクルBLファンタジー❤」
「綿華さんハロハロー。これ、今保健室入ったら裸の女子見放題じゃね?」
姿よりも、声と口調で一瞬で分かったわ。
程よい胸が揉み応えありそうな、ど真ん中腐女子ののがみんと、
あたしの周りで唯一普通の男子高校生らしい適当男、うのぽんね。
「あたしはただの当番よ。のがみん誤解しないで。うのぽん逮捕。」
「なあんだ!でものがみん興奮しちゃう❤」
「なーんだ。ってかただの冗談じゃん。」
なんかこの二人、変なところで気が合ってて怖いわ。
ってか、うのぽんも上半身裸なわけだけど、結構筋肉ついてるわね。
さすが、バスケ部次期主将候補なだけあるわ。適当男に見合わない体よ。
そのままうのぽんは、手をヒラヒラ振って体育館へ向かっていったわ。
一方でのがみんは、なかなか保健室に入ってくれず、
裸でじゃれ合うモブ男子たちを見ては呼吸を荒くしてる。
「きゃああ!見て見て姐さん!あの男子たちはナニをこすりあって」
「やめなさい。この作品が終わるわ。早く行きなさい。」
あたしは強引にのがみんを保健室に押し込み、
そして入れ替わりにセクシーランジェリーを身に着けた鈴木美沙子が、
気品漂うポーズと共に、あたしを冷めた目で見ながら出て来た。
「あらん?係は大変ですのね。ずっと同じ場所に立っているなんて、醜いことですわ。」
「仕事だから仕方ないわよ。さっさと教室に戻ってくれないかしら?」
「あたくしを迎えに来る殿方がいらっしゃるの。ここで待たせてもらいますわ。」
面倒な事この上ないわね。そう思ってあたしは溜息をついたが、
意外とその迎えはすぐに到着し、気配を感じた鈴木が振り向いた。
「やっと来ましたわね。あたくしを三十秒も待たせるとは……」
「お嬢が勝手に待ってただけだろ!勝手に俺を利用すんなよな。」
そこに居たのはすーみん。勿論上半身裸で、陸上部らしいガッチリした体つき。
さっきから見慣れてるあたしは、興味もないし何とも思わなかったけど、
たくましい肉体に目が行った鈴木美沙子は、突然顔を赤らめた。
「あ、あらん、公衆の面前で、何たる格好……洋次、少しはわきまえなさい!」
「はあ?その辺の男子もみんな裸だし、別にいいだろ。」
「貴方ったら、ちっともあたくしの言う事を聞かないのね。もういいわ。」
鈴木美沙子は勝手に怒って歩いていく。すーみんは渋々それを追う。
……はーあ。なんか急激にフラグ立ち始めてない?この二人。




