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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第二章 知らなくたって、いいんだよ
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オベディエント(5)

伊邪那岐(いざなぎ)学院。

それは、幼稚園・小学校・中学校・高校・大学一体型教育を行う、

現代日本の誇る史上最高の教育機関である。


学力にこだわらず、それぞれの個性の尊重を教育理念として掲げ、

様々な選抜方法で選ばれた各部門の『天才』たちの集うその場所で、

――「渡 透」たちは育った。


一学年たった六十人の選りすぐりの中でも、

とびきり強く異彩を放っていたのが、渡や佐久馬、六道らであった。


「……渡会長、校外に向けた取り組みですが……」

「ああ、僕がやっておく。構わないよ」

「あ、ありがとうございます!」

「さっすが渡会長、誰も渡には頭が上がらないねー!」


渡は中学校の天才を束ねる生徒会長であり、

彼が秀でていた能力とは、まさにその人心掌握術であった。

すでに国の機関は、彼に注目しており、

「渡 透」はやがて国を背負って立つ人物であると疑わなかった。



そんなある日。

他ならぬ伊邪那岐学院を開校した人物であり、

積極的に生徒と関わってきた保持(ほもち)学院長が病気で急死した。


葬式には在学生、卒業生を始め多くの優秀な若者が集まる。

それは日本の優れた若者を導いてきた人間の死に他ならなかった。


学院長を失った伊邪那岐学院は、まるで舵を失った船の様であった。

彼に頼り切っていた学院側の対応は、生徒たちの反発を招き、

さらに理事長派と教頭派で学院は真っ二つに割れた。



「……ったく、教頭の迷走ぶりも良い所だろ。今後のイザナギがどうしていくかについて、執行部が考えろ、なんてさ」

「ちょっと、口を慎みなさいよ!」

「はー、保持校長だったら、こんな時どうすんのかな……」


「現中三や小六のイザナギ離れは避けられない。内部進学をするのが当たり前では無くなってしまうね」


混乱に巻き込まれる中学執行部を、落ち着いてまとめようとする渡。

そんな渡自身も、自分がどの高校に進学するかを決めきれずにいた。




「……氷紀、君はどうする?」


自宅に帰る道の途中、渡は少し後ろを歩く佐久馬に話しかけた。

彼がそういった決定について尋ねることは稀であったから、

佐久馬は驚いたが、その驚きを表情に表すことなく答えた。


「全て、透様の決定に委ねます。……とはいえ、移る学校が他にあれば、の話にはなりますが」

「そうだね。保持校長不在とはいえ、イザナギはイザナギだ。イザナギを上回る学校など、この世には無いだろうよ」


言い切った渡は、少しずつ気持ちを固めていた。

やはりイザナギに残り、高校に内部進学する道しかない、と。



しかし、佐久馬を通じて、渡のもとにある男から連絡が届いた。

渡の実家の豪邸で、住みこみで執事として働いていた佐久馬が、

珍しく慌てた様子で渡の寝室をノックする。


「……珍しいね、氷紀。どうした?」

「BL学園という地方の学校長から連絡がありました。……名前は、『保持迎太郎』となっています」

「……まさか」

「はい。イザナギの学校長のご子息でいらっしゃる様です。メールの内容を読み上げます」


――前略、渡透君。父の死によって、動揺させてしまってすまない。

君や君の周りの生徒たちの面倒を見て欲しいと、父から頼まれていたんだ。

どうやら長くない事を、その時には分かっていたらしい。

直接会って話をしたいが、私も学校を離れられない。

もし君がいま迷っているなら、私の高校、BL学園に来てくれないか?


「…………」

「前もって調べた所、BL学園は現在開校八年の新設校ですが、学園祭などの行事では地方一の盛り上がりを見せ、イザナギの様に色んな種類の生徒が在籍し、かなり活気のある注目校のようです。確実に、保持校長の遺志を継ぐ学校になり得ると思われます」

「……他校は他校だ。興味はあるが、それでもイザナギを出るつもりはない」

「それでは、お返事はいかがなさいましょうか?」

「『気持ちだけ、受け取っておきます』と書いてくれ」

「かしこまりました」


佐久馬がそれ以上詮索することなく、部屋の戸を閉めると、

ゆったりとしたデスクチェアに腰掛けた渡は、ぼんやりと外を眺めた。

……保持校長の遺志、という言葉を思い浮かべながら――。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



「先日の校長の死には驚かされたわい。彼の死は、日本の教育界を大きく揺り動かす事になるだろう……」

「花園理事長。心中お察し申し上げます」


学校の応接室で、渡の前に腰掛けていたのは、

国の教育機関の一員でもあり、学園理事長も務めていた、花園嚠嶄。

後に、ある大きなプロジェクトで有名になる男であった。

希望を失っていない彼は、何か思い決断を下したような表情で、

新たなイザナギ高校の一員となる予定の渡に、こう告げた。


「イザナギも変わらねばならん。新校長が決まるまでは、私が指揮を執り、新たなイザナギに向けた改革へ取り組んでいこうと思う」

「……理事長自ら、ですか?」

「そうだが、実際には違う。……入りたまえ」


応接室の戸を開けたのは、長髪で顔の表情のほとんど見えない、

恐らく、中学校高学年から高校、同い年くらいの男だった。

彼は既にイザナギの制服を着て、黙って理事長の隣に近づいていく。

理事長は誇らしげに、胸を張って言った。


「紹介しよう。私の進めているプロジェクトのたった一人の成功例である、『奇跡の子』プロトタイプ、イチローだ」

「こんにちは」


機械的なお辞儀を伴って、機械音声のような、透明度の高い声だった。

渡透は、まず目の前に立っている男が人間なのか、ロボットなのか分からず、

その見えない表情と、何かしら威圧感を与える雰囲気に、圧倒されていた。


「……彼はあらゆる事を完璧にこなす。人間でありながら人間では無い存在。そんな彼こそ、イザナギをより良い方向へと導くじゃろう」

「…………」


「戸惑っているかもしれんが、渡君。君の足りない部分もきっとイチローが補ってくれるはず。彼と力を合わせて、学園を導いてくれ」


花園理事長の微笑みが、渡に重く突き刺さる。

その瞬間彼は予測してしまった。――後に起こる悲劇を。



それからのイザナギは……イザナギでは、無くなった。

様々な才能を持つ生徒たちも、『奇跡』には敵わない。

輝いていた多くの生徒が、自信を失い、イザナギを後にする――

そしてそれは、渡も例外では無かった。


「イチロー」の脅威を目の当たりにした渡は、BL学園への招待状を受け取り、

実家を、イザナギを――離れる決意をしたのだった。


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