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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
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五年前の衝撃(9)

「……それからは、すぐ引っ越しが決まって……二人と一度も口を利いてないから、どう思ってるかは、よく知らないんだけど……」


全てを明かしたシンゴは、前よりずっと小さく見えた。

まるで、シンゴの中で、時間があの時から動いていないかのようだった。

……そんな話、俺には初耳だったし……想像も、していなかった。


「言われてみれば……シンゴのクラス、変な雰囲気があったよな……今さらそれに気がついても、遅いけどよ。」


俺は少し考えて、言葉を振り絞った。

シンゴは首を横に振る。そして悲しそうにほほ笑んだ。


「タツヤに……いや、他の人になるべく知らさないようにして欲しいって思っていたのは僕だから……タツヤのせいじゃないよ……」

「…………」


「ねえ、タツヤは……どうしたら良かったと思う?」


その悲痛な問いかけが、俺の胸に突き刺さった。

思わず窓を見た。暗闇が、いっそう大きくなってきているようだった。

……俺の知らない闇が、世界には溢れているんだろう。

シンゴがポツリポツリと言葉を絞り出す。


「……クラスに乗り込んできたヨウジ、それを止めなかったリョウスケ……。二人とも、僕の事を考えてくれた結果だったんだけど……その時は、上手くいかなかったんだよね。」

「……ああ。」


「あの二人は何にも悪くないんだ。でも今、リョウスケとヨウジは仲が良くないみたいだし……二人のせいじゃないのに……」



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



「あ、ああのあのあの、菊池先輩、もう少しお話をお聞きしたく……」

「……そろそろ門限の八時だ。点呼を取らねばな。」


落合恒太は、点呼を取ろうと立ち上がった菊池博明を、必死で止める。

神様からの連絡が来ていないという事は、まだ長瀬達也が寮内に居て、

石川慎悟と語り合っているところであるという事なのだ。

今ここで、菊池博明を上の階に戻すわけにはいかなかった。


「しかし俊平はどうしたのか……いつもならそろそろ飛んでくるはずが、今日はまだ姿を見せんとは。」

「えーっと後藤先輩もお忙しいんじゃないですかね!それより菊池先輩、もう一杯飲みませんか(お茶を)」


後藤俊平は、宇野剛司が上手く止めている所だ。

何にせよ菊池をここから離してはいけないという思いで、

必死に止めようとしていた落合だったが、いよいよ菊池が怪しんだ。


「……珍しいな。そこまでして俺と話し合いたいのか?」

「あっ!……えーっとそうなんですう!参考になる話がたくさん……」

「何を隠している。」


菊池の目が凄みを増していく。落合の額から大量の汗が噴き出す。

幾度となく不機嫌な彼に睨まれた覚えのある落合の身体は、

その鋭い眼光に、抗う事は出来ない――。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



沈黙が続く。俯いて、辛い過去と戦っているシンゴと、

ただ自分の無力さを実感するしかない俺。時間は過ぎていく。

やがて、シンゴが聞こえるか聞こえないかギリギリの声量で言った。


「……リョウスケは……僕の事を憎んでるのかな……」


正直驚いた。しかし、冗談で言っているはずもなかった。

シンゴの身体は細かく震え、その答えを恐れているようだった。


「……何で?」

「リョウスケとヨウジには、迷惑をかけたし……顔を合わせづらいよ……」

「いや……どうだろうな。」


その時、俺は少し考えてしまった。

そんな大変な問題を抱えているシンゴに、気軽に答えるわけにはいかなくて、

当たり前の答えを、すぐに言えなかった。

だから、シンゴはすがる様に、俺の両肩を掴んだ。


「こんな奴と関わったばかりに、僕の担任だった人や、その他の担任や、……僕の母親に怒鳴られて……!僕の事を、憎んでるに決まってるじゃないか!今のリョウスケに、僕は見えてないんだ。居ない事にされてるんだよ!」


シンゴの左目から、ポロリと涙がこぼれ落ちて、

座り込んだ俺の脚の上に、染みを作った。

その言葉に、無我夢中になって、俺は言い返した。


「リョウスケが……あのリョウスケが、そんな事を思ってるわけないだろ!」

「……どうして分かるの?……そんなの、分かんないじゃないか!!」

「分かんねえよ!でも、俺の知ってるリョウスケなら、シンゴの事、そんな風に思うわけねえよ!」


シンゴの表情が固まった。俺はリョウスケを信じてる。

だからこそ、あいつがそんな風に思うなんて、考えられないんだ。

しかし、急にシンゴは吹き出すように、自嘲的に笑い始めた。


「……知らなかったくせに……」

「……え?」


「この事件のこと、何にも知らなかったくせに!それでどうして、リョウスケの事が分かるって言うんだ!!……タツヤの……タツヤの知ってるリョウスケなんて、もうどこにも居ないんだよ!!!!」



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



そんな破滅的な言い合いを、ドアの外で、じっと上川大樹は聞いていた。

もちろん、乱闘になるようなら、中に入って止めようと思ってはいたが、

その時、とても中に入れる空気ではない事を、彼はよく分かっていた。


激しい応酬を聞くのに夢中になっていたからこそ、

上川大樹は、すぐそばに菊池博明が立っている事に初めて気づき、

しかもその後ろには、滝のように汗をかいた落合恒太が立っていて、

事の次第を把握した上川が、何を釈明しようかと慌て始める。


しかしながら、菊池博明もドアの中の異様な空気をある程度察知して、

部屋のドアに目を向けたまま、何も言わなかった。



勢いよくドアが開き、息を切らした長瀬達也が部屋から出て来た。

彼もまた、汗をかいていた。その表情は、深刻だった。

思わず、上川が声を掛ける。


「……ハッ!……長瀬君、少し落ち着いて」


「俺は……俺は、何もできないのかよ!!!」


両手の拳は強く握られて、その悔しさが、廊下中に響き渡った。

今の長瀬には、何も見えていない。その目は、地の底を見つめていた。


彼より少し背の高い上川が、彼の背中を優しく叩く。

それから、菊池が一度ため息をついてから言った。


「……上川。送って行ってやれ。」

「……ハッ。承知しました。」


長瀬に肩を貸すような形で、上川はうなだれた彼を連れて歩き出し、

二人は廊下の端の、何も見えない闇へと消えていった――。


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