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ネガティブな僕と、中二病っぽい彼。  作者: ホワイト大河
第一章 変わること、変わらないこと
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五年前の衝撃(7)

みんな聞いてくれ。俺は今、薄暗闇、繁みの中にいる。

成り行きで、男子寮に侵入する事になっちまった。まったく。


「……お、おい……大丈夫なのか?」

「ハッ!多くの寮生は七時台に夕飯や風呂で移動が激しくなる。その中に紛れ込んでしまえば、君なら楽勝だ。」

「君ならって……」

「ハッ!あの綿華君が何度か侵入しているのだ。君なら目立たないから全く問題ないだろう。」

「……一言多いぜ。」


俺は「準備をする」と言ったコウタ&ツヨシが先に寮に戻った後で、

寮の塀をよじ登って、打ち合わせ済の上川もとい神様と合流した。

あらかじめ神様が開けてくれたベランダの窓から、中へ入り込む。

……泥棒になった気分だぜ、まったく。


「そういや、俺が本当にシンゴのとこまで来て良かったのかね?」

「ハッ!……神らには全く情報を出さない彼が、君には色々と喋っているらしいではないか。聞き方にさえ気を付ければ、問題なかろう。」

「……せいぜい気をつけますわ。」


俺は神様と二人、寮内の廊下を歩く。

他の寮生同様、ジャージを着て、あくまで自然に……自然に……。

おい、自然にって無理だろ!初めて入るんだぞ。キョロキョロするわ。


「ハッ!神の部屋は四階だ。三年生も居るエリアだが、この時期は新入生も多く、顔は分からないだろう。」

「なるほど……それに同じ二年生なら、状況を察して黙ってくれるだろうよ。で、コウタたちの言った『準備をする』って何なんだ?」

「ハッ!保険はかけておくに越した事はないのだよ……」


そう答えた神様は、苦々しく笑っていた――。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



 503号室


「そんな事があったけろ?!……ぐすっ、可哀想だっぺよー!!」

「それで、生き別れた兄に再会するために、黙って入ろうとしてるんすよ。俺は止めたんすけどね……でも、やっぱりかわいそーじゃん?」


宇野剛司のでっち上げたストーリーに、感動して泣き崩れる後藤俊平。

仮にも寮長の彼だが、熱のこもった両手で、宇野の両肩を掴む。


「そんなの特例だっぺ!感動の再会を、邪魔するわけにはいかねえけろ!」

「ご、後藤先輩……さっすが先輩じゃん!」

「もちろんだっぺ!俺は寮生である以前に、一人の男だっぺ!」

「よっ!大統領!チョロすぎじゃん」


熱く抱擁を求める後藤に見えないように、宇野はニヤリと笑うのだった。




 食堂


「……珍しいな。お前から話しかけてくるとは……」

「あ、いえ……し、進級以来、部屋が離れて、話す機会がなかったので……よ、良かったらお食事でもどうかと思いまして……」

「……構わんが、すごい汗だぞ?」

「あ、はい、あの、汗っかきなんです、あはは……」


寮の門番とも呼べる男、菊池博明を引き止めるのは、落合恒太。

三年になってもその凄みやオーラは全く衰えない菊池に、

非常に焦りながら、落合は何とか話題を探す。


「あの、新しいお部屋は後藤先輩と一緒だとお聞きしたのですが……」

「ああ。うるさくて敵わん。……去年の静寂が懐かしい。」

「あっはは、そうですね★……勘弁してください」




 408号室


「なあ透、自習室行くのか?」

「……君には関係の無い事だと思うが……織田直樹。」


同級生の中では、口うるさそうな渡透を止める役目を担うのは、

実は彼のルームメイトでもある、織田直樹だった。


「君は僕に全く干渉して来ないようだから、少し気に入っていたんだけどね。」

「いや、恒太に頼まれてな。達也が来るから、引き留めておくようにってさ。」

「……成程。ならば業務的な挨拶は必要ないよ。同級生の誰がどうしようと、僕は興味が無いからね。」


あっさりと理由を明かしてしまった織田に対して、渡は冷めた目を向ける。

ベッドに寝そべっている織田は、自分の読んでいた本に目を戻す。


「一応忠告しておくが、少しは勉強をした方が身のためだよ。本を読む事自体は反対しないが、特待生の僕でさえ勉強をするのだから……」

「ああ、気にしないでくれ。透は同級生に興味ないんだろ?」

「……それはもっともだな。勝手にするが良い。」


険悪な雰囲気を部屋に残して、渡は部屋を出て行った。

織田は学術書を凄い速さでめくっていく。「奇跡」はまだ、知られていない。



  ○   ○   ○   ○   ○   ○



「ハッ!……というわけなのだ。」

「……寮長に、なんとか先輩に、渡ねえ。厄介そうな連中だぜ。」

「ハッ!それを全部抑えてるから問題ない。……ところで着いたぞ。」


途中何人かすれ違ったが、怪しい目でこちらを見てくる奴は確かに居なかった。

そして405号室、神様の部屋の前に到着したというわけだ。

神様は迷うことなく、自分の部屋の扉を開ける。


「ハッ!……石川君、来客だ。」


机に座って参考書を開いていたシンゴが振り返って、

神様を見ると同時に、俺と視線がかち合った。


「……え……タツヤ?」

「よう……ここまで来ちまったぜ。」


神様の部屋は整然としていて、シンゴと二人で綺麗に使っているようだった。

この特殊な空間でシンゴと目を見合わせて、少し緊張する。

そんな状況を見かねてか、前に立つ神様が振り向いた。


「ハッ!……では、邪魔者の神はここで退場しておこうか。」

「え、おい?」

「ハッ!君一人の方が良かろう?聞かれたい話では無いだろうからな。」


神様はそのまま部屋を後にし、俺はシンゴと二人、部屋に残された。

するとシンゴが立ち上がって、恐らく神様のであろう豪華な椅子を引いた。


「……とにかく、座ったら?せっかく来たんだし……」

「そうだな。まったく、ここまで来るのは大変だったぜ……」

「世間話を……しに来たわけじゃないんだよね?」


シンゴはある程度、俺の行動の意図を見抜いているようだった。

それなら話は早い。……どう切り出そうか迷っていた所だ。


「シンゴ、俺が充分図々しいのは分かってる。でも……俺はまた幼なじみ全員で、笑って話がしたいんだよ。」


「……リョウスケとヨウジにも、感謝しないとね……タツヤが知らないって事は、あの二人が黙っててくれたって事だから……」

「そ、そうだな。話しにくかったら、俺は無理には……」

「いいや、ちゃんと過去と向き合うよ……

僕はそのために、バルガクに入ったんだ……」


シンゴは目を閉じて、薄暗い「五年前」へと、足を踏み入れていく……。


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