五年前の衝撃(6)
というわけで、日曜日勉強会。
午前は一人のんびり過ごした。どうせ午後は勉強するんだし良いだろ。
と母親には言い訳しつつ、昼飯のそうめんを食べた。
約束の13時。俺は部屋で少しそわそわしながら待っている。
予備の机も借りておいたし、準備は万端、
そう思った時にインターフォンが鳴ったので、俺は玄関へと降りる。
「……あ、どうも……」
「ようコウタ……あれ、一人か?」
「うのぽんのクソヤローが、部活の練習から帰った後のんびり準備しやがりまして、約束に遅れそうだったので一人で先に来ました。」
「ああ、いつもの事だな。ま、入れよ。」
ツヨシ、身だしなみに時間かける必要ないだろ。
他に意図が……まあいい、何とも言えない表情をしているコウタを招きつつ、
俺は先に階段を上がろうとすると、コウタが後ろでキョロキョロしていた。
「どうした?」
「あ、あの……タツヤさんのお母さんは……」
「ああ、さっきまで居たんだけどな。趣味がどうこう言って出ていった。」
「そうですか……じゃあ、お邪魔します……」
そういえばコウタのこういう感じ、久しぶりだよな。
前回の学年末試験では、変な勝負に巻き込まれたせいで、
優等生連中に色々と叩き込まれ、コウタたちとののんびり勉強会が出来ず、
なるほど、だからこいつがうちに来るのは久しぶりってわけか。
「コウタ、たまには何かゲームでもするか?」
何となく勉強会でしか家に来ないのも変だと思い、
部屋に着いた瞬間に聞いてみた。コウタが余計に挙動不審になった。
「え……えーっと、僕、あまりゲームやらなくて、超絶苦手なので、ひたすら迷惑をかけると思います……豚のヒヅメだとコントローラー持てないからあはは」
「中学の時とか何してたんだよ?」
「えっ!……ああ、そうですね……あの、外で遊んでました。あの、ほら野球とかやってました!」
「ケッ、とんだスポーツ少年だな……」
一瞬コウタがビクッとして、急に慌てたのは気になったが、
とりあえずゲームする気はあまり無さそうなので、
俺もやる気を出して机の上に勉強道具を並べた。
コウタが鞄から英語を出したので、とりあえず俺も英語をやる事にした。
「あの、タツヤさん仮定法分かります?僕、どうしても苦手で……やっぱり難しいですよね……」
「まったく、あんなの時制一個戻すだけだろ。」
「ほえ?」
「非現実の事を語る時は時制一個戻せばいいんだよ。英文法なんて日本語と少し違う決められたルールを覚えていくだけ……」
俺も自分で言っていて驚いた。自分の口が動いてると思えなかったのだ。
思えば、学年末テストの時、手段を選ばなかった神様は、
文系一位の城崎さんを味方に加え、俺に文系教科を教えるよう指示した。
スパルタで大変だったが、あれ以来、スムーズに理解できるようになって、
あんまり好きじゃなかった英語も、結構分かるようになってきたのだ。
ケッ……優等生は違うってわけだ。まったく。
「タツヤさん、学年末でほぼ全教科僕より出来てましたもんね……もうそろそろ僕は足手まといなのかもしれません……」
「いやいや、そんな事無いだろ。俺も教えながら、アウトプット出来るからよ。とりあえず一緒に頑張ろうじゃないか。」
唖然としているコウタを励ましつつ、苦手だと言う仮定法を教えていると、
またもやインターフォンが鳴り、俺は一人で玄関へ。30分遅刻だ。
「ハロハロー。ごっめんねー。」
「お前狙って二人にさせたのかよ?そういう裏工作はやめてくれ……」
ツヨシのウインクを見て、やっぱり裏工作かと納得し、
コウタ同様上へと案内した。俺の部屋でコウタは黙々と問題を解いていた。
「なんかコウタいつもより真面目じゃね?どしたの?」
「……失礼なこと言わないでください……ただ、僕も英語Bクラスに上がりたいので、ちょっと頑張ろうかな、って……」
「ああ、頑張ればいけるんじゃね?」
ツヨシは楽観的な様だが、そうはいってもバルガクは進学校。
そう簡単にはクラスを変えさせてはくれないと思うがな。
ところで、ツヨシが来たから……えーっと本題を忘れた。
何だっけか、英作文を見てもらおうとでも思ったんだったかな?
「お、ツヨシ、そういや英作文で不安な事があるんだが……」
「タツヤとコウタは英語Cだから、Bの俺とは先生違うじゃん。だから、そっちのクラスの教え方とかはよく分かんね。」
「……ケッ、さらっと嫌味言いやがって。」
……いや、本題はこれじゃない気がするな。
何だっけか……と悩んでいると、ツヨシがそんな俺を見て言った。
「なに悩んでんの?シンゴ君のこと?」
「……お、それだ。さすがツヨシ!」
「ああ、なんか神様が聞き出そうとしてるけどね、こっちに対しては完全にシャットアウトしてる感じだから、難しそーじゃん。」
俺のことをよく心得ているツヨシは、とりあえずそう一言述べて、
自分の勉強道具を出し始めた。どうやら数学をやるらしい。
俺は自分の勉強そっちのけで、ツヨシに聞き出しにかかる。
「神様はどこまで掴んでるんだ?神様と綿華が何とかするって言うから、俺はとりあえず待ってるんだが……」
「ふーん。逆にタツヤはどこまで知ってんの?共有しよーじゃん。」
ツヨシがそう言うので、俺はテルとの会話・表情から掴んだ情報や、
五組に直接乗り込んで、シンゴから聞き出したことを、
怒られるのを覚悟で、ありのままツヨシに話した。
ツヨシは数学の問題を解き進めながらも、ふんふんと聞いており、
コウタに至ってはいつの間にか手を止めて、真剣に話を聞いてくれていた。
「ってことは、タツヤって結構シンゴ君から信頼されてんじゃね?」
「……信頼か。確かにシンゴとはつかず離れずって感じで、すごく仲が良かったわけではないが、悪かったことは無いし、遊ぶ時はほとんど一緒に居たような気がするな。」
「ふーん。じゃ、どんどんシンゴ君から聞き出せばいいじゃん。」
「まあそうなんだが……シンゴだって話したいわけじゃないからよ……テルの時みたいに、嫌な気持ちにさせたら悪いからな。その辺は慎重に行こうと思ってるんだよな……まったく。」
そう言い終えた時、ほんの一瞬だが、
コウタもツヨシも少し驚いているように見えた。
……時間をおかずに、コウタが思わず口走る。
「……タツヤさん、やっぱり変わりましたよね……」
「え?いや……まあ綿華のアドバイスでよ。俺は突っ走って迷惑かけるから、気を付けねえとな、って思ってさ。」
「なるほどねー。でも、タツヤはタツヤらしくて良いんじゃね?」
ツヨシがシャーペンを動かす手を止めて、俺を見てきた。
……タツヤらしくって、どういう意味だよ。
「タツヤはうざったいほど友達思いなのがいーとこじゃん?」
「お、おう……一言余計だが。」
「シンゴ君の事が気になるなら、トロい神様なんか待ってないで、シンゴ君に聞いてみたらいーじゃん。多分テル君と違って、大丈夫じゃね?」
「ああ……でも、聞くとしたら昼しか時間ないから、いつも昼に押しかけてプライベートな事を聞きまくるのもいかがなものか……」
「じゃあ今晩、寮に侵入したら良いんじゃね?」




