五年前の衝撃(5)
面倒な授業の描写は必要ないと思うから、
そのまま俺たちは放課後を迎えたことにする。
特に社会の授業なんか苦痛だが、そんなの知ったこっちゃないだろ?
というわけで授業をすべて終え、掃除時間に突入。
俺とコウタとナオキは、ちょうど担当が被って教室掃除だった。
ま、フリーダムな学校だから、掃除もそんなに真面目にはやってないが、
とりあえずナオキは群を抜いて真面目に床を磨いているようだった。
俺とコウタはと言うと、ほうきを片手に教室の壁にもたれかかっている。
「……石川君の件、上手くいきました?」
「思ってたよりはな。少なくとも俺はスッキリしたよ……別に何か解決したわけでもないが。」
「根深い問題だから、難しそうですよね……」
あごをほうきの柄にのせて、うーんとうなるコウタ。
俺は先生が見回りに来るたびに、手元のほうきを無造作に動かしてみせた。
「……シンゴとは寮でどれくらい接点があるんだ?」
「いや、神様が同じ部屋ってだけなので、たまに強引に夕飯に連れてくるんですけど、それ以外特に私的な接触は……」
「なんというか私的な接触って言葉、犯罪の匂いがするが。」
「え、いや、そんなつもりないです……はい……」
と冗談も織り交ぜつつ、コウタからは情報を得られそうにない事を確認する。
そもそも神様と綿華はどれくらい動いているんだ?
それを聞く前に、コウタが説明を入れてくれた。
「神様も部屋で、たまに前の学校の事とか聞いてるみたいですけど、ほとんど無視されちゃうみたいで……いくら神様&綿華さんのコンビでも、今回の情報収集はあまり上手くいってないようですね……」
むしろ俺には、自分から話してくれたものだがな……。
しかし、物の訊き方や探り方は、恐らくあの二人の方が何倍も上手だ。
俺より洞察力もある事だし、これ以上は任せておくことにする。
……多数の奴から聞き込みされるなんて、俺だったら嫌だからな。
「石川君の事について、うのぽんと予想してはみてるんですけど、いまいち進展がなくて……(何しろ情報を持ってるのが、達也さんには悪いですが恐怖の幼なじみたちですからね。残酷なテル君はまだマシで、幼なじみ問題に関しては目を光らせるあの二人、凶器の肉体・脇坂君と、狂気の精神・洋次君、僕はどの人にも聞けないしむしろ関わりたくないです★)」
「ん、コウタ何か言ったか?」
「何にも言ってないし思ってないですよ★とりあえず、何か力になれればとは思うんですが、難しいですよね……」
思い悩むコウタ。大して関係ないのに、迷惑をかけてる気がするぞ。
……ところでうのぽんか。ツヨシか。正直懐かしいな。
数学のクラスが一緒とはいえ、わざわざ席を立って話すほどではないしな。
色々考えてくれてるんだったら、情報交換会も良いかもしれない。
「……コウタ、土曜日空いてるか?」
「え、えっ?……えーっと……すいません部活です……」
「じゃあ日曜日は?」
「えっ……あ、空いてますけど……」
「なら久々に俺んちで勉強会やろうぜ。ゴールデンウィークはライブ入ってて忙しそうだから、早めに疑問を解決しておかないとな!」
情報交換会と銘打つのはやめておいた。なんか負担に思うだろうしな。
俺の言葉に嘘は無く、まあ久々に三人で話したいとも思うわけだ。
「い、良いですけど……達也さんもなんだかんだ真面目じゃないですか……」
「まあ、コウタが頑張ってクラス上がりたそうだし?せっかくだから俺も頑張って一緒に上がってやろうと思ってな。」
「……あ、ありがとうございます……でも達也さんなら余裕ですよ、多分。」
コウタが何か言ってる間に、床磨きのナオキがちょうど近づいて来て、
そういえばこいつ、超頭良いんだった、と妙案を思いついた。
「おいナオキ、俺んちで勉強会するけど来るか?」
「いや断る。休みの日には休みたい。」
返事早っ!ちょっとはシンキングタイムというか……まったく。
「ナオキは成績良いから、居ると助かる気がするんだよな……」
「あのタツヤさん?心の声出てますよ?利用する気満々じゃないですか。」
「いや、悪いが俺は人に勉強を教えられないんだ。どこが理解できないのかがさっぱり分からないからな。」
「……ケッ、ロボットめ。そんなんで社会貢献できると思うなよ。」
「あの、タツヤさん?ナオキ君に当たりすぎですよ?」
そのままナオキはまた雑巾がけをしながら消えていったので、
実はどうせ来るわけないと思っていたものだが、その予想も当たったことで、
これはツヨシを呼ぶしかないなという結論に改めて至ったのだった。
「よしコウタ、これからツヨシを誘いに一組に行こうぜ!」
「え、あの、僕ら掃除中」
「思い立ったが吉日だ。」
俺はコウタの手を強引に掴んで、教室をダッシュで飛び出した。
文化系の俺ではあるが、それはある種の爽快感を伴う走りだった。
……なんとなく、本当になんとなくなんだが、
俺、コウタ、ツヨシ、この三人なら、何事も上手くいく気がするんだよ。
「ようツヨシ!」
廊下に面した窓から手を伸ばして、ツヨシを後ろから叩いた。
少しも驚いた様子はなく、ほうきを片手に持ったツヨシが振り返る。
「タツヤじゃんハロハロー。……なんか手繋いでラブラブじゃね?」
俺は飛び出した勢いで、コウタの手をまだ掴んでいたようで、
コウタがやたら赤面してるのにも気がついた。慌てて手を放す。
「ち、ちげえよ、たまたま……」
「そうですようのぽん、何言ってんですか……」
「仲良しでいーんじゃね?で、何の用?」
ツヨシは独特で淡々としたスタイルを崩すことなく俺に聞き直す。
そういやこういう冷めた雰囲気の奴だった。そこが良いんだけどな。
「日曜日空いてるか?久しぶりに勉強会しようぜ。」
「日曜日?……うーん、午後なら良いんじゃね?」
「よし、決まりだな、忘れんなよ!」
それだけ言うと、俺は身を翻して三組へと戻った。
今度はコウタの手を掴まず、ついでにコウタは自分から後をついてきた。
ま、とりあえず勉強会兼情報交換会の日程が決まったわけだ――。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「……ねえうのぽん、あの二人怪しいよお!」
「あれ、のがみん居たんだ。意味不明じゃん。」
一人残された宇野剛司の横から、野上結衣が顔を出した。
彼女は目をキラキラさせて妄想に耽っている。
「いや、あの距離、絶対にデキてると見た!キャーハレンチ!もっとやって下さい!夏も近いわ、のがみん全裸待機!灼熱の男獄祭りが待ってるよお!」
「のがみんの気のせいじゃん。男の友情ってやつじゃね?」」
「ええー!でも、男の友情もそれはそれでおいしいかもお。」
「気楽でいいね。掃除戻った方が良いんじゃね?」
宇野は上手く野上の気を反らしつつ、自身の掃除を再開する。
あくまで自然に秘密を守り通す彼は、淡々と仕事をこなしていく――。




