どーでもいーじゃん(9)
俺と恒太は、そのまま二人で風呂へ向かった。
その途中、風呂を済ませた慎悟と神様が向かってくるのが見えた。
「あ、話し終わった?」
「ハッ!丁度良いタイミングだったようだな。」
「おかげさまで……二人ともありがとうございました。」
まだ髪が濡れている慎悟と、いつも通りピシッとした神様に、
恒太がすれ違いざまにお礼を言うと、二人の視線は俺に向いた。
「ハッ!宇野君、何やらスッキリしているな。」
「色々解決したんだね!良かった。」
「そーかな?ま、色々悪かったじゃん。」
やはり俺は、自分で思っている以上に表情に出るらしい。
とにかく気を遣ってもらっていたのは事実だ。俺は素直に頭を下げた。
それから俺たちは、風呂へと急ぐ。またいつもの日常が始まる――。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「うのぽん元気になったみたいで良かった。いつもの飄々とした感じだったし。」
宇野らと別れて部屋に戻ってきた石川が、まずそう言った。
上川はふんと唸った後、彼なりの考えを述べる。
「ハッ!思うに、宇野君がいつも飄々として、適当に受け答えするのは、あまり自己を表出したくないという思いがあるからに違いない。もっと思った事を素直に口にできるようになれば良いと神は思うが、さすがに落合君にも、それまで変えさせるほどの力は無かったか。」
「そうかもしれないけど、うのぽんはあのままで良いよ。俺はあの適当な感じ、面白いから好きだし。」
石川の純粋な答えに、上川は少し呆れると共に、
まあ、「うのぽんらしさ」は残っていいか、と同調した。
そして、二人そろってまた一つ、とある懸念を口にした。
「ハッ!では残る問題は……」
「直樹だね……全然自分の事を話そうとしないし、つまんなそうだったし。」
「ハッ!しかし、感情が無いならもうどうしようもないのではないか?」
「うーん、そうかもしれないけどさ……」
○ ○ ○ ○ ○ ○
朝練に出てから教室に着いた俺を、早速慌ただしく野上が迎えた。
今日は一段とツインテールに気合が入っている。
「うのぽん、元気になったあ!?」
「元々元気……いや、元気になったよ。」
「ほんとお!?良かったあ、心配したんだよう!あ、それでねえ、テル君やっぱりいつも通りっていうかあ、何にも変わってないっていうかあ……」
挨拶程度に俺のことを軽く流して、すぐに通常モードに戻った野上を見て、
俺は苦笑した。野上は野上だな。
「ちょっとお、何がおかしいのお?のがみんはいつでも真剣よお!」
「はは、ごめんごめん。でも俺のこと軽く流しすぎじゃね?」
「ええ?そしたらのがみんが濃ゆうく絡んであげよっかあ?」
「そりゃ遠慮しとくわ。」
俺が断るとすぐ、野上は腐女子トークを再開しようとしたものの、
その前に、俺は一つやるべきことを思い出して、それを防いだ。
「そーいやのがみん、今日は昼、三組の奴らと食べるわ。」
「あ、はあい。落合君のとこ行くのお?」
「うーん、ま、そんなとこじゃん。」
「そしたらのがみんは神様と食べるねえ!」
「よろしくじゃん。」
野上が追究してこなかったため、何も言わなかったが、
もちろん、単に恒太とご飯が食べたいわけではない。
俺には一つだけ、清算しなければならないことが残っている。
野上の話を適当に流しつつ、俺は昼を待つことにした。
○ ○ ○ ○ ○ ○
「ハロハロー。達也、今日ご飯一緒して良い?」
四時間目、数学が終わった瞬間に、達也の席に向かった。
数学はちょうど達也も理系Aクラスだから、誘うのに都合は良かった。
「おう。珍しいな、剛司から俺を誘うなんてよ。」
「まーね。ちゃんと謝っときたくてさ。……ごめんね。」
「……おいおい、何がだよ?」
「体育祭の時、なんか変な感じにしちゃったじゃん。あの時色々悩んでてさ。」
「そういやそんな事もあったなあ……まったく、大して気にしてないぞ?」
「ならいーんだけど、一応じゃん。」
……とりあえず俺は、これで一つ目の目的は果たしたのだが、
もう一つの目的のために、達也と一緒に食堂へ向かった。
食堂に着くと、既に恒太が席を押さえた上で豚カツランチを前にしており、
俺と達也、そして後からやって来た織田直樹の三人は、
まず自分の分の食事を確保するためにカウンターへ並んだ。
三人の中では、俺の料理が一番に来て、真っ先に恒太のもとへ戻った。
「お待たせじゃん。恒太の見て、俺も豚カツランチにしたわ。」
「いえいえ……あ、共食いとか思わないで下さいね。」
「一ミリも思ってねーじゃん。」
恒太は自虐的に笑いつつ、まだ箸に手を付ける様子は無かった。
達也と織田が戻ってくるのを待つらしい。
混雑したカウンターを一目見て、もう一つの目的を果たすのには、
今がちょうど良いタイミングのような気がして、俺は口を開いた。
「そーいや、恒太に報告しよーと思うんだよね。」
「な、何をですか?」
「母親からの手紙、読んだよ。その内容のことじゃん。」
俺の言葉が伝わって、恒太は息を呑んだ。
その緊張がこっちまで伝わって来て、何となく可笑しかった。
「俺と姉ちゃんの事、ちゃんと面倒を見られない親でごめんね、ってさ。好きなだけ高校生活を楽しんで欲しいけど、たまには帰ってきてくれると嬉しいって。……これ、さすがに返事出した方が良さそーじゃね?」
「……よ、良かったですね。うのぽんのお母様も、気にしてるでしょうし、書いてあげた方が良いと思いますよ。」
「そーだね。……やっぱ恒太には感謝してるよ。相談しなかったら、今もまだ手紙を読んでなかったじゃん。変に気まずいままだったんじゃね?」
「いえ……ホッとしました。本当に良かったです。」
恒太は肩の力が抜けたらしく、ボーッとした表情で俺を見ていた。
その様子がまた面白くて、そしてこのやり取りが楽しかった。
話を終えたタイミングで、達也と織田が戻ってくる。
それから、他愛もない会話をしながら、俺たち四人はそれぞれ箸を進めた。
他愛のない世間話の真っ最中に、織田が思い出したように言った。
「昨日、宇野が俺に言い掛けた事って何だったんだ?」
……そういえば、昨日の夕飯の時に、織田といくらか話をした気がする。
その時何かを言い掛けたか、すぐには思い出せなかったものの、
そのうちあああれか、と思い出した。
全員の視線がこちらに向いていた。俺は憚りなく、伝えた。
「織田ってさー、本当は感情あるんじゃね?」




