どーでもいーじゃん(10)
俺の質問に、少なくとも恒太と達也は驚いたようで、
本気で言っているのか、という顔をしながら間に割って入って来た。
「あの、うのぽん?……直樹君のことは、ちゃんと説明してなかったかもしれませんが、さすがにそれは……」
「確か『奇跡の子』の唯一のデメリットが、感情を失うこと……だったよな?直樹?」
「ああ、そうだ。俺には感情が無い。」
織田はキッパリと言い切った。
確かに、彼に感情がないことを大前提として、
これまで付き合ってきた恒太や達也にはにわかに信じがたいかもしれない。
しかし、現にどんな質問にも即答する織田直樹が、
今の俺の質問に答えるまでに、十数秒も要したのである。
……これでも、何かあるとは思えないだろうか?
「お、みんなお揃いだな!」
そんなやり取りを気にも留めずに、椅子の間をかき分けて、
三組のエース、勝田拓哉が近づいてきた。
「勝田じゃん。ハロハロー。」
「よう宇野!クラス離れてあんまり見なくなったよな。」
「仕方ねーじゃん。」
「ところで昼休憩にサッカーやるんだけど、宇野と織田も来ないか?」
「あー、俺はまだ食べてるからいーじゃん。」
「ああ、行こう。」
食事をしながら断った俺に対して、いつの間にか食べ終えていた織田は、
勝田に呼ばれるなり、すぐに席を立って勝田に付いて行った。
「ケッ、勝田のヤロー、俺と恒太の運痴には声もかけねえってか。」
「あはは……僕らは存在がうんちですもんね。分かります。」
恒太と達也がヒネくれているのはいつもの事として、
こちらを振り返らず、真っ直ぐに進んでいく織田の後ろ姿を見て、
あいつを中心にひと悶着、今後何かが起きる気がしてならなかった。
自虐ネタの終わった恒太も同じように後ろ姿を見つめていた。
「体育祭から、直樹くんの注目度が上がって……これまでは何となく敬遠されていたのですが、勝田さんが興味を持って近づいてくれるおかげで、以前よりクラスの輪に入れるようになったみたいで……」
「良かったじゃん。」
「まったく。俺らぼっち組には用は無しって事かよ。」
「……寂しい気もしますけど、ああやって直樹君が何ら不自由なくクラスメイトに溶け込めるなら、それはそれで良い気もしますね……」
いつも通り適当に流す俺や達也はともかく、
恒太もまた、織田について、感じるものがあるらしかった。
○ ○ ○ ○ ○ ○
『そうか、渡君も苦戦しておるか……』
「はい。体育祭では織田直樹が率いるチームが全勝し、二年生どころか、学校全体でその存在感を高めつつあります。必要以上に注目を浴びるのは本意ではないと、私からも伝えてはいるのですが。」
『伝わらんだろうな。感情のない彼には、数多の者から向けられる敵意を敏感に察知する事は出来まい。』
「その通りでございます。」
主である花園嚠嶄に定例報告を行っていた葛西紳一郎は、
眼鏡の下の冷たい眼差しと、マスクの下の穏やかな微笑を、
いつもと同じ表情で携えて、受話器を手にしていた。
「お言葉ですが、渡透では、織田直樹に勝つのは難しいのではないでしょうか?そもそも、『奇跡の子』に勝てる常人が存在するのかも疑わしいものです。」
『……驕ってはならんぞイチロー。「奇跡の子」とはいえ「完璧」ではない。ただそれに近い存在であるというだけだ。いつかは敗北を知る時が来る。』
「……左様ですね。」
納得がいかない、そんな表情は微塵も見せないまま、
葛西紳一郎は淡々と報告を続ける。
「しかしながら、私はもう一人、逸材を見つけております。純粋にBL学園で育った、学年の人気者――『勝田拓哉』です。織田直樹と同じクラスですから、渡透より競う機会も多く、彼ならば勝てるやもしれません。」
『ほう……可能性は少しでも高い方が良い。その者に関するデータを至急送ってくれ。』
「かしこまりました。」
続いて葛西はその他の連絡事項を伝えていったが、
電話を切る直前になって、嚠嶄が先ほど感じた僅かな違和感をもとに、
一つ、葛西に忠告するのであった。
『良いか。聡明な君にあえて言うが、人生において、必ず敗北は必要なのだ。感情を自ら学習して獲得した程の君でさえ、いつかは負けるのだぞ。その時、また人間は大きく成長する事が出来るのだ……引き続き監視を頼む。』
「かしこまりました。」
電話は切られ、葛西は静かに受話器を置く。
それから息を吐き、誰も聞こえない程の速度と声量で、つぶやいた。
「花園嚠嶄……貴方の立派な考えは分かりますが、我ら奇跡の子が、その全てに従うわけではない。勝田拓哉は敵ではなく、味方として、奇跡の子を支える役に回ってもらう。
そう、我々奇跡の子は、負けるために生まれたのではないのだから――」
○ ○ ○ ○ ○ ○
就寝時間の迫る、寮の食堂にて。
薄暗い明かりの中で、中央の机に五人ほど、腰掛ける姿があった。
通常であれば、後藤と菊池がそれを戒めるはずなのだが、
今日はそういった様子は見受けられそうもなかった。
何故なら、その五人の中には、後藤と菊池が居るからであった。
「抜群のリーダーシップという点においては、『渡透』が飛びぬけているぞ。」
「彼も候補で良いと思うけど、如何せん彼は不器用だろ?何事にも器用で、顔の広い人間を僕は推すけどね。」
「現執行部メンバーはどうだ?いずれも有能さはお墨付きであると思うが。」
「おいおい菊池ィ。『三つ巴』の関係を忘れたのかよ?ま、後藤の居る前では、こんなこと言うべきじゃないのかもな。」
「なんだかんだ、みんな仲良くやってるっぺ!その辺は考えすぎず、インパクトのある人間を選ぶのがいいっぺ!」
揃っているメンバーは、全員最高学年の三年生であり、
寮生の中でも、かなり発言力の強い五人であるようだった。
これまでの発言をもとに、菊池がサラサラと何かを書きだしていく。
そのメモを覗きながら、サッカー部部長も兼ねる風間が口をはさむ。
「後藤みてェに、当たり障りのない奴の方が良いんじゃねえか?前寮長の青木先輩の流れを継ぐのは、間違いなく『勝田拓哉』だろ。……後藤も、執行部に立候補さえしなけりゃ満点だったのになあ?」
「そりゃ個人の自由だっぺ!……ってなわけで、そろそろ出揃ったっぺか?」
「そうだな。……ひとまず、五人揃ったぞ。『次期寮長』候補だ。」
菊池は書きだしたメモを、分かりやすく中央の机に置いた。
そこには二年生の名前が五人分、記してあった。
「渡 透」「上川 大樹」「勝田 拓哉」「宇野 剛司」「織田 直樹」
「では……『寮長会議』の準備を進めよう。」
作者のホワイト大河です。ご愛読ありがとうございます!
話に一区切りつきましたので、一か月ほど休載します。
次回の投稿は、4/1(金)を予定しています。
近況は活動報告でお知らせします。そちらもご参照ください。




