第九十三話 友達
歴史の講義を受けるため、カイン、ルーシー、シルフィの三人は講堂へ足を運んだ。
重厚な木製の扉を開くと、そこには階段状に広がる大講堂があった。
高い天井の下には幾重にも長机が並び、朝の陽射しが大きな窓から差し込んで、木の机を柔らかく照らしている。
すでに多くの学生が席についていた。
貴族や平民だけでなく、エルフや獣人の姿もある。身分も種族も違う学生たちが、思い思いに談笑していた。
「すごい……。」
カインは思わず辺りを見回した。
「広ーい!」
シルフィも目を輝かせる。
ルーシーは静かに講堂を見渡した。
「ほう。面白いのう。」
三人は空いている席へ腰を下ろした。
すると、隣の席から可愛らしい声が聞こえる。
「ねぇ、初めて見る顔だね?」
振り向くと、栗色の髪を肩まで伸ばした少女が、にこりと微笑んでいた。
人懐っこい大きな栗色の瞳。どこか上品で柔らかな雰囲気を纏っている。
「私はソフィア。あなたは?」
「俺はカインです。」
ソフィアはくすりと笑った。
「そんなに畏まらなくていいよ。私、貴族じゃないから。」
「分かった。じゃあ、よろしくね。」
そして、ルーシーとシルフィへ目を向ける。
「そっちのお二人は?」
「私はシルフィ! よろしくね!」
「妾はルシアじゃ。ルーシーと呼ぶがよい。」
ソフィアは笑顔で頷いた。
「よろしくね。シルフィさん、ルーシーさん。」
そして再びカインを見る。
「カインたちは、いつから学園にいるの?」
「実は今日からなんだ。」
「そうなんだ! 他にはどんな講義を取ってるの?」
「星学、算術、剣術かな。」
「ほんと! 星学と算術も一緒!」
ソフィアは嬉しそうに身を乗り出した。
「実は私も今年入学したばかりで、まだ友達がいないの。」
「良かったら、友達になってくれる?」
「もちろん!」
カインは笑顔で頷く。
「うん! いいよー!」
シルフィも元気よく答えた。
「うむ。構わぬぞ。」
ルーシーも静かに頷く。
ソフィアの表情がぱっと明るくなった。
◇
午前の講義を終えると、多くの学生が一斉に席を立った。
廊下には賑やかな話し声が響き、食堂へ向かう学生たちの流れができていた。
カインたちも、その流れへ加わる。
◇
食堂は昼食を楽しむ学生たちでごった返していた。
食欲を誘う香りと賑やかな笑い声が広がり、木製の長机には多くの学生が肩を並べている。
カインは辺りを見回した。
すると。
「カイン! こっち! こっち!」
遠くからエリーが大きく手を振る。
カインたちはその席へ歩み寄った。
「アリア先輩。お待たせ。」
(……アリア先輩?)
ソフィアは思わず足を止めた。
カインが声を掛けた先では、気品を感じさせる少女が穏やかに微笑んでいた。
(……この方。)
(絶対、貴族だ。)
アリアはいつも通り優しく微笑む。
「カイン。そちらの方は?」
ソフィアは慌てて姿勢を正した。
「は、初めまして! 私はソフィア・ローゼンタールと申します。ローゼンタール商会の長女でございます。」
アリアは柔らかく微笑む。
「私はアリアーナ・エヴァンス。よろしくね。」
(えっ?)
(まさか……。)
(公爵家のアリアーナ様?)
(カインは、アリア先輩って呼んでるの?)
ソフィアの頭の中が真っ白になった。
その後、皆も簡単な挨拶を交わした。
そして、アリアはルーシーへ微笑みかける。
「ルーシー師匠。こちらへどうぞ。」
「うむ。苦しゅうない。」
ルーシーは当然のように席へ腰掛けた。
その光景を見つめながら、ソフィアは固まったまま動けない。
(わ、私……。)
(声を掛ける人……。)
(間違えたかも……。)




