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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第六章 学園

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第八十八話 師匠

 中庭が。


 一瞬、静まり返る。


「な、な、なにやってるのーー!!」


 最初に叫んだのはエリーだった。


 セシリアも顔を真っ赤にしながら声を上げる。


「か、か、カインさん! ふ、不潔です!」


 ルーシーも思わず立ち尽くした。


 その顔は、みるみる赤く染まっていく。


「わ、わ、わ……。」


「妾に! 何という破廉恥なものを見せるのじゃ!」


「カイン!」


 ルーシーが声を荒らげる。


 そんな中。


 シルフィだけが、きょとんと首を傾げていた。


「?」


「みんなどうしたの?」


 カインは周囲を見回した。


「えっ? 俺?」


 アリアは慌てて立ち上がる。


「ち、違うの!」


「これは……!」


 顔を真っ赤にしながら、必死に事情を説明した。


◇


「まぁ……。」


 エリーは小さく咳払いをした。


「そういう理由なら……仕方ないわね。」


 セシリアも胸へ手を当て、小さく息をつく。


「カインさんは、手が痛くてどうしようもなかった……そういうことですね。」


 どこか、自分へ言い聞かせるような口調だった。


 ルーシーも何度か頷く。


「ふむ。それならば仕方あるまい。」


「先輩とは、年下の者の面倒を見るものじゃからのう。」


 エリーとセシリアは顔を見合わせる。


(……。)


(さっきまで。)


(先輩って何?って聞いてましたよね。)


 その時だった。


 シルフィが不思議そうに首を傾げる。


「なーんだ。」


「みんな、カインとあーんしたいから怒ってるのかと思った。」


 一瞬。


 空気が止まる。


 エリー。


 セシリア。


 ルーシー。


 三人の顔が、一斉に真っ赤になった。


「「「ちがーーう!!」」」


◇


 ルーシーは小さく咳払いをする。


「コホン。」


「それはさておき。」


「せっかく足を運んだのじゃ。今のカインがいかほどのものか、妾が直接見てやろう。」


 カインは嬉しそうに頷く。


「ありがとうございます! ルーシー師匠!」


 ルーシーはカインの右手へ視線を向けた。


「まずは、その手をセシリアに癒してもらうがよい。」


「はい。」


 セシリアは。


 カインの右手へ。


 静かに治癒魔法を施した。


◇


 向かい合う二人。


 カインは静かに木剣を構える。


 ルーシーは自然体のまま立っていた。


「カインよ。」


「妾はオーラを使わぬ。」


「実戦と思い、妾を倒すつもりで参れ。」


「はい!」


 カインは地を蹴った。


 一気に間合いを詰める。


 鋭い踏み込みから、横薙ぎの一閃。


 しかし。


 ルーシーは上体をわずかに反らし、その一撃をかわした。


 すかさず突きを放つ。


 だが。


 ルーシーは半歩、身体をずらす。


 剣先が空を切った。


 さらに連撃を繰り出す。


 途中で、剣の速度を緩めた。


 相手の反応を誘い、次の一撃へつなげる。


 アリアとの修行で学んだ駆け引きだった。


 しかし。


 ルーシーは動じない。


 鋭く踏み込んだ一撃も、わずかな身のこなしでかわされた。


 その後も。


 カインの剣は、ルーシーに届かなかった。


 攻撃はしない。


 ただ。


 かわすだけ。


 それでも。


 届かない。


◇


 しばらくして。


「はぁ……。」


「はぁ……。」


 カインは肩で息をする。


 何度も剣を振るった腕が重い。


 木剣を杖代わりにしながら、その場へ膝をついた。


(……当たらない。)


 ルーシーは静かに歩み寄る。


「カインよ。」


 カインはゆっくり顔を上げた。


 ルーシーは口を開く。


「お主の剣は――」


 そこまで言って。


 言葉を飲み込む。


「……いや。」


「何でもない。」


 穏やかに微笑んだ。


「お主なら。」


「自ら辿り着けるであろう。」


 それだけだった。


「明日は編入試験じゃ。今日はここまでにするとよい。」


「……はい。」


◇


 夜。


 ベッドへ横になる。


 静かな部屋。


 カインは右手を天井へ掲げた。


 ゆっくりと見つめる。


(少しは……。)


(強くなったと思ってた。)


 アリアとの修行。


 緩急。


 フェイント。


 剣の駆け引き。


 確かに以前より成長していた。


 それでも。


 ルーシーには。


 一度も届かなかった。


 悔しかった。


 けれど。


 それ以上に、分からなかった。


 何が足りないのか。


 どうすれば、あの動きに追いつけるのか。


(ルーシー師匠は。)


(答えを言わなかった。)


 最後に。


 一つだけ言ってくれた。


『お主なら。』


『自ら辿り着けるであろう。』


(答えは……。)


(まだ分からない。)


 それでも。


(自分で。)


(見つけるしかない。)


 カインは静かに目を閉じた。

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