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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第六章 学園

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第八十七話 先輩

 カインとアリアが剣術の修行を始めてから、七日。


 春も終わりに近づき。


 日差しは、少しずつ強さを増していた。


 身体を動かせば。


 うっすらと汗ばむ陽気だった。


 朝から。


 ――ガッ!


 ――カンッ!


 木剣が激しくぶつかり合う音が、中庭へ響いていた。


 先に動いたのはアリア。


 予備動作のない鋭い刺突。


 カインは身体を捻り、すんでのところでかわす。


 その勢いを利用し。


 身体を回転させて斬り払った。


 しかし。


 アリアはひらりと後方へ跳び、その一撃をかわした。


「うん。良くなってきてるね。」


 カインは息を整えながら笑う。


「うん。少しずつ、かわすだけじゃなく反撃もできるようになってきたから。」


 アリアは満足そうに頷く。


「でも、まだ緩急が甘いかな。」


「攻撃へ移る時の予備動作も、少し大きい。」


 ルーシーとは違う。


 理へ導く教え方ではない。


 一つひとつ。


 実戦の中で教えていく。


 それが、アリアなりの教え方だった。


 七日前は、反撃することすら難しかったカインが、今は自分の剣に応じている。


 その変化が、何より嬉しかった。


 そして。


 それでいいと、今は思えた。


「あと一ヶ月。この調子で頑張ろう。」


「はい!」


「アリア先輩!」


 アリアはぴくりと肩を震わせる。


「……先輩。」


(は、恥ずかしい。)


 自分から。


 そう呼ぶよう促した。


 それなのに。


 まだその言葉は。


 どこかむず痒い。


「……先輩?」


 カインが不思議そうに首を傾げる。


「ううん。何でもない。」


「じゃあ、続きしよっか。」


「はい!」


 再び木剣が交わる。


 突き。


 斬り払い。


 時には回し蹴りなどの体術も織り交ぜながら。


 二人の実戦形式の修行は続いた。


 ひときわ甲高い音が、中庭へ響く。


 アリアの木剣が、カインの木剣を鋭く弾いた。


「っ!」


 衝撃が、右手へ走る。


 握りきれなくなった木剣が、高く宙を舞った。


 くるくると回転し。


 芝生へ落ちる。


「この辺で休憩にする?」


「うん。」


◇


 二人は中庭の片隅に置かれたテーブルへ腰掛けた。


 昼食が並ぶ。


 話題は。


 自然と剣術のことばかりになる。


 料理を口へ運ぼうとした、その時だった。


「……いてて。」


 カインが小さく顔をしかめる。


「どうしたの?」


「さっき最後の斬り払いで、少し手を痛めたみたい。」


 アリアは右手へ視線を向ける。


 先ほど木剣を受けた箇所が、少し赤くなっていた。


「大丈夫? セシリアを呼ぼうか?」


「大丈夫。このくらいなら。」


 そう言って笑う。


 しかし。


 フォークを持つ右手は。


 少しぎこちない。


(右手……。)


(食べにくそう。)


 テーブルには。


 二人だけ。


 リーナとリズは、お茶の準備で席を外していた。


(……。)


(もしや。)


(この状況は……。)


 頬が。


 みるみる赤く染まる。


 アリアは小さく息を吸った。


 意を決したように顔を上げる。


「……カイン。」


「ん?」


 心臓がうるさい。


 言うだけ。


 言うだけなのに。


 唇が小さく震える。


「……あーん。」


「する?」


 カインは固まった。


「……えっ?」


 差し出される前から、アリアの顔が妙に近く感じられた。


 真正面から見つめられ、思わず視線を逸らす。


 頬が少しずつ熱くなっていく。


「い、いや。」


「それはさすがに……。」


 アリアは少し頬を膨らませる。


「何で? シルフィにはしてるのに?」


「あれは、妹みたいというか……。」


 アリアは少しだけ身を乗り出した。


「シルフィにできるなら。」


「私とも。」


「できるよね?」


 暖かな風が、二人の間をそっと吹き抜ける。


「それに私……。」


「先輩だよ!」


 カインは思わず聞き返す。


「……先輩?」


「そう!」


「先輩なら。」


「後輩のお世話をするのは当然なの!」


 フォークを持つ手は。


 少し震えていた。


「はい。」


「……あーん。」


 カインは差し出されたフォークを見つめる。


 そして。


 意を決した。


「……あ。」


「あーん。」


 その瞬間だった。


 屋敷の扉が開く。


「わぁ!」


 元気な声が中庭へ響く。


「カイン!」


 シルフィだった。


 その後ろには。


 ルーシー。


 エリー。


 セシリアの姿もある。


 シルフィは目を丸くした。


「あれ?」


「カイン。」


「アリアに。」


「あーんしてもらってるね!」


 二人は。


 ぴたりと固まった。

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