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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第六章 学園

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第八十五話 二人の告白

 アリアとカインが中庭で剣術の修行に励んでいる頃。


 屋敷の書斎では。


 エリーとセシリアが机を並べ、編入試験へ向けた勉強をしていた。


 静かな部屋。


 羊皮紙をめくる音だけが響く。


 しばらくして。


 セシリアがふと顔を上げた。


「カインさん、大丈夫ですかね?」


 エリーはくすりと笑う。


「カインのことだから、問題ないって!」


 セシリアも微笑む。


「そうですね。」


 気付けば。


 二人の話題は、いつもカインのことだった。


「エリーさん。」


「本当にカインさんのことを信じているのですね。」


「当たり前じゃない。」


 エリーは迷いなく答える。


「義弟のことだもの。信じて当然でしょ。」


「それに、カインならきっと大丈夫よ。」


「…………。」


 セシリアは、そんなエリーの横顔を見つめていた。


 爽やかな風がそっと吹き抜ける。


 窓辺のカーテンが、ふわりと揺れた。


「……エリーさん。」


「ん?」


「少し、聞いてもいいですか?」


「いいわよ?」


 セシリアは俯いた。


 何度か口を開こうとして、そのたびに言葉を飲み込む。


 やがて。


 小さく息を吸った。


「もし、カインさんが剣術大会で優勝したら……。」


「……誰に告白するのか、気になりませんか?」


「…………。」


 エリーの手が止まった。


「どうしたの? 急に。」


「いえ……。」


 セシリアは視線を羊皮紙へ落とした。


「クロエさんから、事情は聞いています。」


「カインさんが優勝したら、クロエさんに告白することも。」


「それが、本当の告白ではないことも。」


「…………。」


「分かっているんです。」


「でも……。」


 セシリアは胸元で両手を握る。


「私……。」


「告白されるのが、エリーさんでも、アリアさんでも。」


「ルーシー師匠でも、シルフィでも。」


「そんなに嫌じゃないんです。」


 少しだけ笑う。


「でも。」


「たとえ嘘でも、クロエさんだったら。」


「ちょっと嫌かなって……。」


「…………。」


 エリーは思わず笑った。


「……分かる。その気持ち。」


 セシリアも小さく微笑む。


 しかし。


 エリーはしばらくセシリアの横顔を見つめていた。


「セシリア。」


「はい?」


「もしかして、カインのこと好きなの?」


「えっ!?」


 セシリアの肩が跳ねた。


「そ、そんな!」


「私は……!」


「…………。」


 言葉が続かない。


 顔が、少しずつ赤くなっていく。


「…………。」


 エリーはそんなセシリアを見つめて、小さく笑った。


「分かりやすいわね。」


「…………っ!」


「で、でも!」


「エリーさんだって!」


「私?」


「はい!」


「エリーさんは、カインさんのことをどう思っているんですか?」


「…………。」


 今度は、エリーが黙る番だった。


 再び。


 静かな時間が流れる。


「私は……。」


 エリーは静かに微笑んだ。


「好きよ。」


「カインのこと、大好き。」


 セシリアは目を見開いた。


「でも。」


「私は。」


「カインが誰を選んでも。」


「誰も選ばなくても。」


「私がカインを想う気持ちだけは。」


「絶対に変わらないわ。」


「…………。」


 セシリアは、何も言えなかった。


 エリーの言葉には、少しの迷いもなかった。


 そして。


「……エリーさん。」


「ん?」


「私も。」


「カインさんのことを。」


「好きになってもいいですか?」


「…………。」


 エリーは一瞬だけ目を丸くした。


 そして、すぐに笑った。


「何言ってるのよ。」


「人を好きになるのに、誰かの許可なんているわけないじゃない。」


「それに、自分の気持ちに嘘をついちゃ駄目。」


「…………。」


 セシリアの瞳が揺れる。


「……はい。」


 エリーは少し笑った。


「でも、一つだけ間違ってるわ。」


「えっ?」


「好きになる、じゃなくて。」


 エリーはセシリアの顔を覗き込む。


「もう、好きになってるわよね?」


「…………。」


 セシリアの頬が、真っ赤に染まった。


「……はい。」


 小さな声。


 それでも、はっきりとした返事だった。


「ふふっ。」


 エリーは笑う。


「でも、私も負けないわ。」


「だから、恨みっこはなしね!」


「…………。」


 セシリアは少し驚いたように目を瞬かせる。


 そして。


「はい!」


 嬉しそうに笑った。


 二人は顔を見合わせた。


 そして。


 どちらからともなく笑い出す。


 窓から差し込む柔らかな陽射しが、二人を優しく包み込んでいた。


 ◇


 その夜。


 アルカディア教会自治領。


 とある教会の一室。


 窓のない部屋は、深い闇に包まれていた。


 机の上には、一本の蝋燭。


 その小さな炎だけが、室内を淡く照らしている。


 揺れる灯火の向こう。


 一人の老人が、椅子に腰掛けていた。


 ――教皇。


 その前には。


 一人の男が、膝をついていた。


「……それで。」


 教皇が静かに口を開く。


「騎士団は、何か掴んだのか?」


「いえ。」


 男は、頭を下げたまま答えた。


「エヴァンスを襲撃したアンデッド兵について、調査を続けておりますが、未だ出所は掴めておりません。」


「……そうか。」


「ただし。」


 男は、僅かに顔を上げる。


「教会の敷地から、神聖国の鎧を纏った者たちが出てくるのを、兵士が目撃したようです。」


「…………。」


 教皇は、何も言わなかった。


 蝋燭の炎が、静かに揺れる。


「それで?」


「騎士団は、教会の地下についても調査を進める方針です。」


「……地下か。」


 教皇は、しばらく黙り込んだ。


 やがて。


「誰が調べることになった?」


「私が。」


「……ほう。」


 教皇が、僅かに目を細める。


「それは好都合だな。」


「はい。」


 男は、静かに頭を下げた。


「グレン将軍から、直接命じられました。」


「……そうか。」


 教皇は、椅子の背に身体を預けた。


「では、引き続き調査を進めるふりをしておけ。」


「承知いたしました。」


「こちらから指示があるまでは、余計なことをするな。」


「……はっ。」


 再び、沈黙が訪れる。


 暗い室内で。


 蝋燭の炎だけが、ゆらゆらと揺れていた。


 やがて。


 教皇が、静かに口を開いた。


「頼んだぞ。」


「――ヴェルナー。」

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