第八十三話 剣
翌日。
夕食を終えた頃。
リーナとリズが手際よく食器を下げていく。
カインは椅子に座ったまま、ふと思い出したように口を開いた。
「剣術大会って、そもそも優勝できるのかな?」
「強い人、いるんだよね?」
アリアは少し考える。
「騎士を目指している人も出場するから、かなり腕の立つ人もいるって聞いたことがあるよ。」
エリーは笑った。
「でも、カインなら楽勝でしょ!」
「オーラも使えるんだし!」
アリアは首を横に振る。
「確か、魔法は禁止だったはず。」
「純粋な剣術だけで腕を競う大会なの。」
「だから、オーラも使っちゃ駄目なんじゃないかな。」
「えっ。」
カインは目を丸くした。
「そうなの?」
その時だった。
「カインよ。」
ルーシーが静かに口を開く。
「はい。」
「今のお主では、優勝は難しかろう。」
食堂が静まり返る。
エリーは思わず身を乗り出した。
「なんでですか!」
「カインが勝てないなんて!」
ルーシーは静かにカインへ視線を向ける。
そして。
「剣術だけなら。」
「お主は二流以下じゃ。」
カインは言葉を失った。
しかし。
すぐに顔を上げる。
「……理由を。」
「教えてもらえますか?」
ルーシーは小さく息をついた。
「しょうがない。」
「よく聞くのじゃ。」
「はい。」
ルーシーは静かに語り始める。
「お主の剣は、正直すぎるのじゃ。」
「相手の動きを見て、最短で斬り込む。それ自体は悪くない。」
「じゃが、剣だけで相手を欺く術は、まだ十分に身につけておらぬ。」
ルーシーは静かに続けた。
「力と速さで押せる相手なら、それでも通用しよう。」
「しかし、同じ条件で剣を交えれば、次に何をするか容易く読まれるぞ。」
カインは言葉を返せなかった。
これまでの戦いが、頭をよぎる。
幾度となく強敵と剣を交えてきた。
だが。
その度に、オーラの力に助けられてきたのも事実だった。
もし、あの力がなかったら。
自分の剣は、どこまで通用したのだろう。
「じゃあ……。」
カインは思わず口を開いた。
しかし、その先の言葉は飲み込んだ。
ルーシーはそんなカインを見て、小さく首を横へ振る。
「あいにく、妾は剣を専門としておらぬ。」
「誰かに教わることじゃ。」
そう言うと。
それ以上は何も語らなかった。
◇
その夜。
カインは一人、バルコニーへ出ていた。
少し暖かな夜風が。
頬を優しく撫でていく。
見上げれば。
満天の星空が静かに広がっていた。
(……二流。)
その言葉が頭から離れない。
(でも。)
(ルーシー師匠の言う通りかもしれない。)
これまで。
オーラを使わずに戦うことなど。
ほとんど考えたことがなかった。
(剣だけで戦ったら……。)
(俺は、どれくらい強いんだろう。)
考えても。
答えは出ない。
ただ。
剣士として。
まだ自分に足りないものがある。
それだけは分かった。
その時だった。
「カイン。」
聞き慣れた声がした。
振り返る。
そこには。
アリアが立っていた。
「ルーシー師匠の言葉、気にしてる?」
「……うん。」
カインは苦笑する。
「でも、言われてみれば確かにそうかなって。」
アリアは静かに頷いた。
「そっか……。」
アリアはカインの隣へ並んだ。
二人の間を、柔らかな夜風が吹き抜ける。
しばらくの間、どちらも口を開かなかった。
やがて。
「ねえ、カイン。」
アリアが静かに顔を向ける。
「……?」
「私、剣術ならそれなりに自信あるよ。」
少しだけ照れたように微笑む。
「今まで、カインにはたくさん助けてもらったし。」
「だから、今度は私が……。」
そこで、一度言葉を止めた。
「私が剣術、教えてあげよっか?」




