第八十一話 学園へ
侯爵邸での夕食を終え。
別邸へ戻る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
夜空には星々が瞬き。
昼間の賑わいが嘘のように、街は静けさに包まれている。
居間には暖かな灯りがともり。
皆は思い思いに寛いでいた。
テーブルには、リーナが淹れたばかりの紅茶が並んでいる。
「カイン様。」
「どうぞ。」
「あ、ありがとう。リーナさん。」
カインがカップを受け取る。
「…………。」
リーナは一瞬、目を丸くした。
そして。
ほんの少しだけ嬉しそうに微笑む。
「……正解です。」
「ん?」
「いえ、何でもございません。」
リーナは何事もなかったように一礼した。
カインは不思議そうに首を傾げる。
エリーは紅茶を一口飲むと、カインへ視線を向けた。
「で、カイン。依頼、どうするの?」
カインは少し考えた。
「うーん。」
「クロエ様、困ってるみたいだったし。」
「学園にも興味があるから、受けてもいいかなって思ってる。」
エリーは小さくため息をつく。
「本当に、お人好しなんだから。」
そう言いながらも、どこか嬉しそうだった。
カインは苦笑する。
「エリーはどうする?」
「あなたが行くなら。」
「私も行くに決まってるでしょ!」
胸を張る。
「義姉として。」
「邪な視線から弟を守る義務があるもの!」
「邪な視線って?」
エリーはふいっと顔を逸らした。
「あなたは知らなくていいの。」
そしてアリアへ顔を向ける。
「そういえば、アリア。」
「あなたって、学園には通ってないの?」
「え?」
「だって、クロエ様が『また来るんでしょう』って聞いてたから。」
「ああ……。」
アリアは少し困ったように微笑んだ。
「入学はしてるんだけど。」
「公爵家の用事もあったし。」
「それに、周りの目も少し気になって……。」
「そうだったんだ。」
エリーはそれ以上、尋ねなかった。
「でも。」
アリアは皆を見渡した。
「みんなと一緒なら、今度はちゃんと通ってみたいな。」
「そっか!」
エリーも嬉しそうに笑う。
「じゃあ、一緒に通えるといいね!」
「うん!」
「ところで。」
エリーが首を傾げる。
「もし、途中からでも入れるなら。」
「試験って、どんなことをするの?」
アリアは少し考えた。
「たしか、読み書きと算術。」
「それと、希望する人は実技もあったと思う。」
「でも、途中から入る場合は分からないわ。」
そう言って、ちらりとリーナへ視線を向ける。
リーナは静かに一礼した。
「では、明日にでも学園へ確認しておきます。」
「ありがとう。」
カインはほっとしたように微笑んだ。
「でも、そもそも受かるのかな?」
アリアはカインへ顔を向ける。
「カイン。」
「読み書きと算術は大丈夫なの?」
「うん。」
「じいちゃんが。」
「生きるために必要なことだからって教えてくれたんだ。」
アリアは安心したように微笑む。
「そっか。それなら安心だね。」
その時だった。
「ふむ。」
ルーシーが満足そうに頷く。
「それなら、妾も問題ないのう。」
「「「えっ!?」」」
居間が静まり返る。
エリーが目を丸くした。
「もしかして、ルーシー師匠も受けるんですか?」
「当然じゃ!」
ルーシーは胸を張る。
「学園とは、学舎なのであろう?」
「この国の学舎が、どれほどのものか。」
「妾が直接、この目で見極めてくれようぞ!!」
(楽しみじゃ!!)
――静寂。
カインは目を瞬かせた。
どうやら、ルーシーも本気らしい。
そんな中。
シルフィが元気よく手を挙げた。
「みんな行くなら、私もいくー!」
「シルフィも?」
「うん!」
「みんなと一緒に勉強するんでしょ? 楽しそう!」
満面の笑みを浮かべるシルフィに、カインも思わず笑みをこぼした。
エリーはセシリアへ視線を向ける。
「セシリアは?」
セシリアは少し俯いた。
「皆さんが行かれるのでしたら……。」
「私も、ご一緒したいです。」
「そっか!」
「セシリアも一緒なら、心強いわね!」
「はい。」
セシリアは嬉しそうに微笑んだ。
「学園……。」
小さく呟いたセシリアの笑顔が、ほんの一瞬だけ陰った。
まるで、何かを思い出したかのように。
エリーはセシリアを見つめる。
以前から、気になっていたことがあった。
けれど、今までは聞けなかった。
今なら。
仲間だからこそ聞ける気がした。
「セシリア。」
「一つ聞いてもいい?」
セシリアは静かに頷く。
「……はい。」
「どうして修道院へ行ったの?」




