第七十八話 クロエの依頼
「私に。」
「告白してください!!」
一同。
完全に固まる。
最初に口を開いたのはカインだった。
「こ……告白?」
エリー。
アリア。
セシリア。
「「「えぇぇぇぇーーーっ!!?」」」
シルフィは不思議そうに首を傾げる。
「ねぇ。」
「ルーシー師匠。」
「告白って何?」
ルーシーは静かに目を閉じた。
「シルフィよ。」
「真実は、自分で探し出すものじゃ。」
(……「こくはく」とは何じゃ?)
しばしの沈黙。
「こほん。」
エリーが小さく咳払いをした。
クロエは我に返り、慌ててカインの手を離す。
「ご、ごめんなさい!」
「私ったら、つい……。」
頬を赤らめながら頭を下げた。
そして、にこりと微笑む。
「皆様、夕食はまだですよね?」
「ちょうどこれから準備をさせますので、よろしければご一緒にいかがですか?」
「その前に、依頼についてもお話しさせてください。」
クロエに案内され、一行は応接室へ移動した。
夕食の準備が整うまでの間、紅茶と茶菓子が運ばれてくる。
窓の外は、すでに薄暗くなっていた。
暖かな灯りに照らされた応接室へ、紅茶の香りが広がっていく。
クロエは一息つくと、カインへ向き直った。
「実は、お願いしたいことがあるんです。」
「カインに、学園の剣術大会で優勝していただきたいのです。」
カインは首を傾げる。
「学園の剣術大会ですか?」
「ええ。」
クロエは頷く。
「でも、そもそも俺は学園の生徒じゃありませんよ?」
クロエはアリアを見る。
「アリア。」
「途中からでも入学できるのよね?」
「ええ。」
アリアは少し考える。
「たしか、途中から入る方法はあったはずよ。」
「詳しいことは、調べてみましょう。」
そう言って。
アリアはカインの隣で茶菓子を頬張るシルフィへ視線を向けた。
「でも……。」
「シルフィは、少し無理かな。」
「何で?」
シルフィがきょとんとする。
「だって、学園は十四歳からなのよ?」
「?」
「私、六十歳だよ。」
――沈黙。
「「「えぇぇぇぇーーーっ!!?」」」
カインも思わず目を見開いた。
「シルフィ、六十歳だったの!?」
「うん。」
シルフィは当たり前のように頷いた。
「言ってなかったっけ?」
「聞いてないよ!」
エリー。
(六十歳で……。)
アリア。
(この天然……。)
セシリア。
(すごいです……ハイエルフ。)
ルーシーは肩をすくめる。
「何を驚いておる。」
「ハイエルフにとっては、まだ幼子よ。」
カインは苦笑した。
「でも、どうして剣術大会で優勝なんですか?」
クロエは少し照れたように笑う。
「実は、優勝者には、大会の最後に、皆の前で意中の令嬢へ想いを告げる権利が与えられるんです。」
「皆の前で……。」
エリーが僅かに眉を寄せる。
「それは……断りづらいですね。」
セシリアも困ったように頷いた。
「そうなんです。」
クロエは小さく息を吐く。
「もちろん、相手にそれを受け入れる義務はありません。」
「でも、大勢の前となると……。」
「それがきっかけで結婚された方もいらっしゃいますし。」
「なるほど……。」
カインも納得したように頷いた。
そこで、クロエは少し困ったように微笑んだ。
「それで……。」
「実は、私の元婚約者候補の男性が、前年の優勝者でして。」
「元婚約者候補?」
カインが聞き返す。
「はい。」
「以前、少しだけそういうお話があったんです。」
クロエは困ったように笑う。
「結局、その話はなくなったんですけど……。」
「その方は、まだ諦めていないみたいで。」
「今年も優勝して、私に告白すると宣言しているんです。」
「……なるほど。」
カインはようやく事情を理解した。
皆の前で告白されるとなれば、確かに断りづらいだろう。
それにしても。
まさか、剣術大会への出場を頼まれるとは思っていなかった。
エリーはそんなカインを横目に、クロエへ視線を向けた。
「で。」
「それを阻止するために、カインなんですか?」
「はい!」
クロエは迷うことなく頷いた。
「……。」
エリーはじっとクロエを見る。
「クロエ様。」
「はい?」
「前にも似たようなこと、ありませんでした?」
「……。」
クロエはそっと視線を逸らした。
「カインなら優勝できそうですし。」
「話を逸らしましたね。」
「嘘でも構いません。」
「私を指名していただければ。」
エリーは額へ手を当てる。
「もう。」
「また虫除けじゃないですか。」
クロエは照れ笑いを浮かべた。
「えへへ……。」
シルフィは一人納得したように頷く。
「ふーん。」
「告白って、そういうことなんだ。」
ルーシーも満足そうに頷いた。
「そうじゃ。」
「自ら考え。」
「解釈し。」
「答えへ辿り着くのじゃ。」
シルフィは笑顔になった。
「なるほど!」
「要は、ぷろぽーずってことだね!」
「ね!」
「師匠!」
ルーシーは静かに頷く。
「……。」
「うむ。」
「そうじゃ。」
(……「ぷろぽーず」とは何じゃ?)




