第六十三話 ルーシー師匠
食事を終えた一行は、暖炉の前へ場所を移していた。
暖かな炎が静かにはぜる。
窓の外では雪が舞い、ときおり風が窓を優しく揺らしていた。
執事が銀のティーセットを運び、一人ひとりの前へ静かに紅茶を注いでいく。
湯気とともに、穏やかな香りが部屋いっぱいへ広がった。
ルーシーはティーカップを手に取る。
一口含み、小さく息をついた。
「さて。」
「理には近付けたかの?」
最初に口を開いたのはエリーだった。
「まだ、答えは分かりません。」
「ただ。」
「重力魔法って、もっと力で押さえつける魔法だと思ってました。」
「でも。」
「理へ干渉する魔法って言われて、少し考え方が変わりました。」
「うむ。」
ルーシーは静かに頷く。
「考え始めたなら、それでよい。」
続いてアリアが口を開いた。
「精霊同士が干渉する理由は理解できました。」
「それをどう戦いへ活かすかは。」
「これから試してみようと思います。」
「うむ。」
「まずは、試してみることが大切じゃ。」
「はい。」
シルフィは元気よく答えた。
「私は!」
「風と水の精霊を呼び出すのが得意だから。」
「もっと精霊と仲良くなって、いろいろ試してみる!」
ルーシーは小さく微笑む。
「そうか。それも一つの方法かもしれぬな。」
「はい!」
最後にセシリアが静かに口を開く。
「神聖魔法は、傷を癒やすだけではない。」
「使うタイミングで、できることが変わる。そんな気がしました。」
「そうじゃな。神聖魔法で、何ができるのかよく考えるのじゃ。」
「分かりました。」
しばらく穏やかな時間が流れる。
暖炉の薪が、小さくはぜた。
エリーがふとカインを見る。
「そういえば、カインは?」
「俺?」
「うん。」
カインは少し笑った。
「ルーシー師匠から、オーラの流れを操る方法を教わってるよ。」
「「「ルーシー師匠?」」」
エリーとアリア、セシリアの声がぴたりと揃った。
シルフィだけは、不思議そうに三人を見ている。
暖炉の薪が、パチリと小さく音を立てる。
ルーシーの肩が、ぴくりと震えた。
白い頬が、ほんのり赤く染まる。
しかし。
コホン。
小さく咳払いを一つ。
「……当然じゃ。」
「妾が直接、オーラの理を授けておるからの。」
どこか誇らしげに胸を張る。
「なるほど!」
シルフィの表情がぱっと明るくなる。
「じゃあ! 私も!」
「ルーシー師匠って呼ぶ!」
…………。
部屋が静まり返った。
窓の外では、雪が静かに降り続いている。
暖炉の炎が、ゆらりと揺れた。
ルーシーは固まったまま動かない。
エリーは吹き出しそうになり、必死に口元を押さえている。
アリアはティーカップを口元へ運びながら肩を震わせた。
セシリアも小さく笑みを浮かべる。
しばらく沈黙が流れる。
やがて。
ルーシーはコホンと小さく咳払いをした。
「……うむ。」
「好きに呼ぶがよい。」
「はい!」
シルフィは満面の笑みで頷く。
「ありがとうございます! ルーシー師匠!」
ルーシーは照れ隠しをするように紅茶へ口をつける。
「……うむ。」
シルフィの笑顔につられるように、エリーも笑った。
アリアも穏やかに微笑む。
セシリアの表情も、自然とほころんでいた。
暖炉の火が、静かにはぜた。
窓の外では雪が静かに降り積もる。
屋敷には、穏やかな夜が流れていた。




