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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第五章 七星 ルシア・ノクティス

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第六十二話 修行

 カインの頬を、大粒の汗が伝う。


 もう何時間経っただろうか。


 気付けば日はすっかり傾き、中庭にも薄暗い影が落ち始めていた。


 カインは両手を胸の前へ掲げ、意識を集中する。


 全身を巡るオーラの流れを感じ取りながら、それをゆっくりと両手へ導いていく。


 右手と左手へ、均等に。


 やがて淡い光が両手を包み、その状態を維持する。


「……っ。」


 額から汗が滴り落ちる。


 あと少し。


 そう思った瞬間。


 ふっ――。


 両手に集まっていたオーラが、霧のように散った。


「……まただ。」


 カインは小さく息を吐く。


 集めることはできる。しかし、少しでも集中が途切れれば、瞬く間に霧散してしまう。


 もう一度、目を閉じる。


 体内を巡るオーラへ意識を向け、ゆっくりと両手へ流していく。


 今度こそ。


 淡い光が、再び両手を包み始める。


 しかし――。


 ふっ。


 また消えた。


「……難しい。」


 少し離れた場所から見ていたルーシーが、静かに立ち上がった。


「カインよ。」


「はい。」


 ルーシーが歩み寄る。


「手を出してみよ。」


「はい。」


 カインは両手を差し出した。


 ルーシーはその両手を包むように、そっと自らの手を重ねる。


「目を閉じよ。」


「はい。」


 カインは静かに目を閉じる。


「無理に集めようとするでない。」


「え?」


「オーラは初めから、お主の身体を巡っておる。」


 重ねた手から伝わる感触へ、カインは意識を向ける。


「流れを止めるのではない。感じ取れ。」


「はい。」


「その流れの先を、ここへ向けるのじゃ。」


 カインは全身を巡るオーラへ意識を集中する。


 集めるのではない。


 流れを感じる。


 身体を巡るオーラの行き先を、少しずつ両手へ向けていく。


 右手へ。


 左手へ。


 ゆっくりと。


 淡い光が、再び両手を包み始める。


「そうじゃ。そのままじゃ。」


 ルーシーは重ねた手を離さないまま、カインの両手に集まるオーラを見つめていた。


「力むでない。流れを感じ続けよ。」


「はい。」


 しばらくして、淡い光が安定する。


 今度は。


 消えない。


「……できた。」


 カインが嬉しそうに呟いた。


「うむ。その感覚を――」


 そこで、ルーシーの言葉が止まった。


 自分の手。


 その下にある、カインの手。


「……。」


 ようやく今の状況に気付いたらしい。


 白い頬が、みるみる桜色へ染まっていく。


 やがて、耳まで真っ赤になった。


「ルーシー師匠?」


「……はっ。」


 ルーシーが勢いよく手を離す。


「ええい!」


「いつまで妾の手を取っておる!」


「えぇーーーっ!?」


 カインは目を丸くした。


「いや、でも……。」


「ええい、ええい!」


「細かいことは気にするでない!」


 顔を真っ赤にしたまま、ぷいと横を向く。


「と、とにかくじゃ!」


 ルーシーは小さく咳払いをすると、カインへ向き直った。


「今できた程度で満足するでないぞ。」


「はい。」


「考えずとも、身体のどこをオーラが流れておるか分かるようになれ。」


「歩いておる時も。食事の時も。」


「四六時中、オーラの流れを意識せよ!」


「はい!」


 カインは反射的に姿勢を正した。


 そして少し考える。


「四六時中って……。」


「寝てる時もですか?」


「そうじゃ!!」


「えぇーーーっ!?」


 中庭にカインの声が響き渡る。


 その時。


「ルーシーお嬢様。」


 二人が振り返る。


 執事が静かに一礼した。


「そろそろお食事のお時間かと。」


 ルーシーは空を見上げた。


 いつの間にか日は沈み、澄んだ夜空には星が瞬き始めている。


「そうか。」


「もうこんな時間か。」


 ルーシーはカインへ視線を戻す。


「カインよ。」


「はい。」


「続きは後じゃ。」


「はい!」


 ルーシーは踵を返す。


 カインもその後を追い、二人は屋敷へと戻っていった。

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