第五十七話 七星の依頼
暖炉の薪が、小さく爆ぜた。
――パチッ。
揺らめく炎が応接室を柔らかな橙色に染める。
執事は静かに一礼すると、音もなく部屋を後にした。
扉が閉まり、室内には薪の燃える音だけが静かに響いていた。
ルシアは閉じた本を机へ置き、一同を見渡す。
「まずは、座るがよい。」
一同は勧められるままソファへ腰を下ろした。
ほどなくして温かな紅茶が運ばれてくる。
白い湯気が立ち昇り、心地よい香りが部屋へ広がった。
ルシアは静かにカップを手に取り、一口だけ口を付けると、ゆっくりと机へ戻した。
「さて、そなた達への依頼を話そう。」
カインも自然と背筋を伸ばす。
「お願いします。」
ルシアは小さく頷いた。
「依頼は一つ。」
ルシアは一度カインたちを見渡すと、静かに口を開いた。
「エルダーリッチ討伐じゃ。」
部屋の空気が静まり返る。
エリーが思わず息を呑んだ。
「エルダーリッチ……。」
セシリアも真剣な表情になる。
神聖国で学んできた彼女だからこそ、その名が意味するものを知っていた。
静かな沈黙。
やがて、アリアがゆっくりと口を開く。
「……ルシア様は、七星なのですよね?」
「うむ。」
ルシアは穏やかに頷く。
「じゃが、妾は契約により、この地を離れることができぬ。」
その声から、先ほどまでの柔らかさが消える。
アリアは何かを尋ねようとして、口を閉ざした。
それ以上踏み込んではならない。
そんな空気が、ルシアの周囲にあった。
ルシアは静かに紅茶を机へ戻す。
「もっとも、そなた達は竜を討ったのであろう。」
深紅の瞳が、一人ひとりを静かに見渡していく。
「じゃが、エルダーリッチは竜とは違う。まずは、お主らに何ができるのかを知っておきたい。」
一同の視線がルシアへ集まる。
「お主らの得意とする戦い方は何じゃ。」
最初にアリアが答えた。
「剣術です。精霊の力を借りて戦います。」
「うむ。」
ルシアが短く頷く。
続いてシルフィが口を開いた。
「私は精霊魔法!」
「うむ。」
エリーが少しだけ考えてから口を開く。
「私は風魔法と音魔法。それと……。」
ほんの僅かな間。
「重力魔法です。」
その瞬間、ルシアの深紅の瞳が僅かに細められた。
「……ほう。」
短い一言。
しかし、その反応は先ほどまでとは明らかに違っていた。
エリーは少し不思議そうに首を傾げる。
続いてセシリア。
「私は神聖魔法です。」
「なるほど。」
ルシアは静かに頷く。
最後に、その視線がカインへ向いた。
「お主は。」
カインは真っ直ぐ見つめ返す。
「俺は、オーラを使った剣術です。」
――パチッ。
暖炉の薪が、小さく爆ぜた。
誰も口を開かない。
静寂だけが部屋を満たしていた。
ルシアは何も言わず、ただ静かにカインを見つめ続けている。
その視線には、興味とも期待とも違う、どこか思案するような色が宿っていた。
数秒にも満たない沈黙。
それが妙に長く感じられる。
やがて、ルシアはゆっくりと頷いた。
「……ほう。」
その一言だけが、静かな応接室へ響いた。
それ以上は何も語らない。
ルシアは静かに立ち上がる。
白銀の髪がさらりと揺れた。
「刻限が迫っておる。昼食を済ませたら、中庭へ来るがよい。」
「中庭……ですか?」
「うむ。」
ルシアは僅かに口元を緩め、一同をゆっくりと見渡す。
「お主らの力。妾自身の目で、見せてもらおう。」
そう言い残し、ルシアは静かに部屋を後にした。
扉が閉まる。
暖炉の火だけが、変わらず静かに揺れていた。




