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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第一章 旅立ち

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第三話 実力試験

 しばらくすると。


 カウンターの奥からエマが戻ってきた。


 その隣には、一人の長身の女性が立っている。


 肩口で切り揃えられた栗色の髪に、日に焼けた健康的な肌。


 鋭い眼差しと引き締まった立ち姿には、今なお現役の冒険者と言われても疑わないほどの風格があった。


「お待たせしました。こちらが試験官のミランダさんです。」


「よろしく。」


 短く、ぶっきらぼうな挨拶。


 その視線は、すでに二人を観察していた。


 赤髪の少女。


 明るく、どこか快活そうな印象を受ける。


 その隣には、この大陸では珍しい漆黒の髪をした少年。


 穏やかな顔立ちで、腰には一本の剣を帯びている。


 しかし、とても腕の立つ剣士には見えない。


(見た目じゃ分からないか。)


(実力を見せてもらおう。)


 ミランダは静かに踵を返した。


「ついてきな。」


「はい。」


 二人は頷き、ミランダの後を追った。


 その後ろからは、三人の中年冒険者もニヤニヤと笑いながらついてくる。


 案内されたのは、ギルドの裏手にある訓練場だった。


 朝露に濡れた広い敷地。


 木剣の打ち込みに使う丸太や、頑丈そうな石柱がいくつも並んでいる。


「さて。」


 ミランダは腰に手を当て、二人へ振り返った。


「新人のランク判定は単純さ。試験の結果によって、EランクかDランクから登録できる。」


 一本の丸太を指差す。


「あの丸太を折るか、切り倒せればEランク。」


 続いて、その隣にある石柱へ視線を向ける。


「そして、あの石柱を破壊できれば、新人最高位のDランクスタートだ。」


 石柱は、人の胴ほどの太さがある。


 訓練用に据えられた、頑丈な石柱だった。


「あんたたち、どっちを受ける?」


 カインとエリーは顔を見合わせた。


「どうする?」


 エリーが尋ねる。


 カインは石柱を見つめ、少し考えてから口を開いた。


「石柱。やってみてもいいですか?」


 ミランダが片眉を上げる。


「もちろん。」


 エリーもすぐに続いた。


「私も石柱でお願いします。」


「ほぉ。」


 ミランダは僅かに口元を緩める。


「二人ともDランク狙いか。いいね。」


 少し離れた場所では、三人の中年冒険者が面白そうにその様子を眺めている。


「いきなり石柱かよ。」


「身の程知らずだな。」


「まあ見てろって。すぐ現実が分かるさ。」


 エリーの眉がぴくりと動いた。


 ミランダはそんな三人を気にすることもなく、エリーを見る。


「お嬢さんは魔術師だね。」


「はい。」


「なら、ここから魔法を撃って。」


「分かりました。」


 エリーは石柱へ向き直った。


 右手をゆっくりと前へ向け、小さく息を吸う。


「すべての響きを我が手に。」


 その瞬間。


 空気が僅かに震え始めた。


 ミランダの表情が変わる。


「世界の息吹を塗り潰せ。」


 エリーの掌の前で、空気が震える。


 幾重にも重なった振動が、一点へと収束していく。


 三人の冒険者から笑みが消えた。


「《響閃(ソニック・レイ)》!!」


 次の瞬間。


 ――ドォォォォン!!


 収束した音の塊が、石柱へ叩きつけられた。


 凄まじい衝撃。


 石柱が、根元から吹き飛ぶ。


 ――ガシャァァァン!!


 吹き飛ばされた石柱が地面へ叩きつけられ、砕け散った。


「……。」


 三人の冒険者は、呆然とその光景を見つめていた。


「う……。」


「うそだろ……?」


 一人の口から、ようやくそれだけが漏れる。


 ミランダも吹き飛んだ石柱へ、じっと目を向けていた。


 やがて、エリーへ視線を戻す。


「……十分だ。」


「Dランク合格。」


「やった!」


 嬉しそうに笑ったエリーは、ふと三人の冒険者を見る。


 三人とも、まだ口を開けたまま吹き飛んだ石柱を見つめている。


「ふん!」


 エリーは満足そうに胸を張った。


「次。」


 ミランダはカインを見る。


「坊やの番だ。」


「はい。」


 カインが石柱へ向かって歩き出す。


 それを見て、三人の冒険者がようやく我に返った。


「つ、次はあの坊主か……。」


 三人の視線がカインへ集まる。


 一人が、その細い腕を見る。


「まさか。」


「あいつもじゃねぇだろうな……?」


「いや。」


 別の男が、自分へ言い聞かせるように首を振った。


「あんな細腕で剣を振るったところで、石柱なんか斬れるわけねぇ。」


「下手すりゃ、剣の方が刃こぼれするだけだ。」


「……だよな。」


 三人はどこか安心したように、小さく息を吐いた。


 カインはそんな会話にも気づかず、石柱の前へ立った。


 腰の剣へ静かに手を掛ける。


 そして、剣を抜いた。


 朝日を浴びた刀身が白く輝く。


 カインは目の前の石柱を見上げた。


(これを斬ればいいんだよな。)


 剣を両手で握り、ゆっくりと息を吸った。


 そして、腰を落とす。


 その時だった。


「……?」


 ミランダが僅かに目を細めた。


 カインの剣。


 その刀身に、何かが見えた気がした。


 ほんの僅か。


 よく目を凝らさなければ見落としてしまうほどの、蒼白い何か。


(……なんだ?)


 次の瞬間。


 カインが一歩踏み込んだ。


「はっ――!」


 腰を捻り、剣を横薙ぎに振り抜く。


 ――ガキンッ!!


 硬質な音が訓練場へ響いた。


 一瞬。


 静寂。


 三人の冒険者が石柱を見つめる。


「ほら見ろ。」


「やっぱり――」


 その時だった。


 ――ズ……。


 石柱の上部が僅かにずれた。


「……は?」


 そのまま。


 ゆっくりと。


 傾いていく。


 そして。


 ――ズズンッ!!


 石柱の上半分が地面へ落ちた。


 切断面は、驚くほど滑らかだった。


「……。」


 三人の冒険者は、落ちた石柱とカインの剣を交互に見つめる。


「……うそだろ?」


 別の男が、震える声を漏らした。


「なんで……剣で石柱が斬れるんだよ……?」


 誰も、その問いに答えられなかった。


 ミランダも、何も言わない。


 カインは落ちた石柱を見つめ、ゆっくりと剣を鞘へ納めた。


「これで大丈夫ですか?」


 ミランダは、すぐには答えられなかった。


 斬り落とされた石柱と、目の前の少年を見比べる。


(十四歳……だよな?)


 確かに、石柱は斬り倒されている。


 だが、それ以上にミランダの頭から離れないものがあった。


 あの瞬間。


 剣に見えた、蒼白い何か。


(見間違いか?)


 もう一度、カインの剣を見る。


 しかし、そこには何もない。


「ミランダさん?」


 カインが不思議そうに首を傾げる。


 ミランダは小さく息を吐いた。


「合格だ。」


「Dランク。」


 カインの顔がぱっと明るくなる。


「やった!」


 エリーも嬉しそうに駆け寄った。


「やったね、カイン!」


「うん!」


「ほらね! 私の弟なんだから!」


「……それ、関係ある?」


「あるの!」


 胸を張るエリーに、カインは思わず笑った。


 その様子を見ながら、ミランダは再び石柱へ目を向ける。


(それにしても……。)


 十四歳の少年が、剣の一撃で石柱を斬り倒した。


(……何なんだ、この子は。)


 当の本人は、ミランダのそんな疑問にも気づかない。


「これで俺たち、冒険者になれるんだよな?」


「そうだよ!」


 エリーが笑う。


 カインも、嬉しそうに笑った。


 こうして。


 二人は、冒険者としての第一歩を踏み出した。

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