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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第四章 迷いの森

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第四十五話 一閃

 蒼白い光を纏ったカインが、一直線にヴァルガへ落ちていく。


 ヴァルガは大剣を両手で握り、大地を強く踏み締めた。


 迎え撃つ。


 その瞬間、エリーは唇を噛み締める。


「……っ!」


 ヴァルガを中心に広がる重力場が、その巨体を大地へ押さえつける。


 ヴァルガが大剣を振り上げる。


 だが、その動きがほんの僅かに鈍った。


 強大な重力が、大剣ごとその巨体を大地へ引きつけている。


 ほんの僅かな遅れ。


 だが、剣士にとってその一瞬は永遠にも等しかった。


 カインの剣が振り下ろされる。


 ガキィィィィンッ!!


 蒼白い剣と大剣が激突した。


 凄まじい衝撃が森を揺らし、火花が夜空へ弾け飛ぶ。


「ぐっ……!」


 ヴァルガの両足が、大地へ沈む。


 それでも、大剣は折れない。


 カインの剣も止まっていた。


 一瞬。


 二つの刃が、真正面から拮抗する。


 カインがさらに剣を押し込む。


「うおおおおおおっ!!」


 ――ズバァァァァッ!!


 蒼白い閃光が夜空を裂いた。


 ヴァルガの大剣が両断され、切断された刀身が月光を反射しながら宙を舞う。


 それでも、カインの剣は止まらない。


 大剣を断った蒼白い刃が、そのままヴァルガの右肩口へ走る。


 次の瞬間。


 大剣の柄を握ったまま、ヴァルガの右腕が宙を舞った。


「ぐっ……!」


 初めて、ヴァルガの口から苦痛の声が漏れた。


 ズドォォォンッ!!


 直後。


 カインの身体が大地へ叩きつけられた。


 地面が大きく陥没し、土煙が一気に舞い上がる。


「カイン!」


 エリーがすぐさま重力場を解除する。


 ヴァルガを押さえつけていた力が消え、周囲の空気が一気に軽くなった。


「ぐっ……!」


 強大な重力に加速された勢いは、着地した瞬間、そのままカイン自身へ返ってきた。


 腕が軋む。


 両脚が痺れ、力が入らない。


 肺から空気が一気に押し出され、全身を激痛が駆け巡った。


 それでも、剣だけは手放さなかった。


 膝をつきながら剣を地面へ突き立て、自らの身体を支える。


 一方、鮮血を流すヴァルガは数歩よろめいた。


 それでも踏み止まろうとする。


 しかし。


 力尽きるように片膝をついた。


 傷口から流れ落ちる血が、静かに大地を濡らしていく。


 その表情には、苦悶が浮かんでいた。


 それでも、ヴァルガはゆっくりと目を閉じた。


 小さく息を吐く。


「……終わったか。」


 その表情から、僅かに力が抜けた。


 少し離れた場所で、ゼフィロスは片膝をついたヴァルガを静かに見つめていた。


 ずっと感じていた違和感が、胸の奥に残っている。


 これほどの力を持つ男が、なぜ翌日の日没まで待った。


 あれだけの力があれば、もっと早く攻めることもできたはずだ。


 それなのに、今。


 敗れたヴァルガの表情に浮かんでいるものは、悔しさでも怒りでもない。


(……安堵している?)


 ゼフィロスの目が僅かに細くなる。


(まさか、最初から……。)


 そこまで考え、ゼフィロスは静かにヴァルガを見つめた。


◇


「カインさん!」


 セシリアが真っ先に駆け出した。


 エリーとシルフィも、その後に続く。


 カインの傍らへ辿り着くと、セシリアはすぐに膝をついた。


「すぐに治療を!」


 ロッドを握り、カインへ向ける。


「聖なる光よ。」


「我らを包みし慈悲となれ。」


「傷つきし者へ祝福を。」


「《聖癒光(ホーリー・グレイス)》」


 柔らかな聖光がカインの身体を包み込む。


 全身を襲っていた痛みが、少しずつ和らいでいく。


 エリーが、カインの顔を横から心配そうに覗き込む。


「大丈夫? 無茶しすぎだよ!」


「……ごめん。」


 シルフィも心配そうにカインの様子を窺う。


「平気?」


「うん。ありがとう。」


 そこへアリアも駆け寄ってきた。


「立てる?」


 その声には、普段の冷静さはなかった。


 アリアが手を差し伸べる。


 カインはその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。


「……何とか。」


 シルフィはほっと息を吐いた。


 そして、少し離れた場所にいる父へ視線を向ける。


 ゼフィロスと目が合った。


 言葉はない。


 ゼフィロスはただ、小さく頷く。


 シルフィも嬉しそうに頷き返した。


 だが、レオンだけは動かなかった。


 剣を下ろすことなく、周囲へ鋭い視線を巡らせている。


 戦いは終わった。


 誰もが、そう思える状況であっても。


 騎士としての本能が、警戒を解くことを許さなかった。


◇


 一方――。


 少し離れた大樹の枝。


 月明かりも届かぬ木陰に、一つの人影が立っていた。


 いつからそこにいたのか。


 それを知る者は、誰もいない。


 人影は何も言わず、ただ静かに眼下の戦いを見つめていた。


 ヴァルガ。


 そして。


 そのヴァルガを打ち破った少年。


 人影の視線が、カインへ向けられる。


 だが、その存在に気付く者は、誰一人としていなかった。

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