↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第四章 迷いの森

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/117

第四十四話 賭け

 夜風が森を吹き抜ける。


 激しい戦いとは裏腹に、迷いの森は静かなままだった。


 木々の若葉が風に揺れ、月明かりを受けて淡く輝いている。


 遠くから、微かな虫の音が聞こえていた。


◇


 カインはゆっくりと剣を構えた。


 肩で息をしている。腕は痺れ、足は重い。


 それでも、視線だけは決してヴァルガから逸らさなかった。


「アリア!」


「時間を稼いで!」


 アリアは一瞬だけカインを見ると、すぐに頷いた。


「分かったわ!」


 白銀の剣を構え、ヴァルガへ向き直る。


「吹き荒れろ、拒絶の刃。」


「我が領域に近づく者を、灰塵に化せ。」


「《幻風華(ミストラル・インパルス)》!!」


 風がアリアの剣と身体を包み込む。


 次の瞬間、アリアの姿が掻き消えた。


 ヴァルガの右側へ回り込み、白銀の剣を振るう。


 ギィンッ!!


 大剣が斬撃を弾く。


 だが、その時にはアリアはもうそこにはいない。


 風を纏い、ヴァルガの背後へ回り込む。


「はぁっ!」


 再び剣を振るう。


 ヴァルガが身体を捻り、大剣で受け止めた。


 ギィィンッ!!


 火花が夜の森に散る。


 アリアは打ち合わない。


 剣が触れた瞬間には地面を蹴り、再び距離を取る。


 右へ、左へ、時には背後へ。


 風を纏ったアリアが、ヴァルガの周囲を高速で駆け抜ける。


 ヴァルガの大剣がアリアを追う。


 だが、捉えられない。


 その刃が届くより早く、アリアは間合いの外へ抜けていた。


◇


 その間、カインは剣を両手で握り、意識を集中していた。


 全身を巡るオーラを、少しずつ剣へと集めていく。


 蒼白い光が腕を伝い、刀身へ流れ込む。


 ――ギィンッ!!


 再び剣戟が響く。


 カインは目を閉じたまま、意識を剣へ集中させる。


(焦るな。まだだ。)


 アリアが作ってくれた時間を、無駄にはできない。


 ギィィンッ!!


 もう一度、甲高い音が森へ響き渡った。


 やがて、蒼白い光が刀身全体を包み込む。


「……よし。」


 カインが目を開き、顔を上げた。


 ヴァルガの大剣を躱したアリアが、大きく後方へ跳ぶ。


 二人の視線が重なる。


 それだけで十分だった。


 アリアが一気にヴァルガから離れる。


 カインはエリーへ小さく頷いた。


 それが、合図だった。


「空間よ、歪め。」


「理の軌道を捻じ曲げ、大地の枷となれ。」


「《重力鎖(グラビティ・バインド)》!!」


 エリーが両手を掲げる。


 紫色の魔法陣が、ヴァルガを中心に大地へ広がった。


 瞬間、空気が沈む。


 ズンッ――!!


 大地が軋んだ。


 周囲に転がっていた小石が地面へ押しつけられ、柔らかな土へめり込んでいく。


 木々の枝が、地面へ引かれるように大きくしなる。


 その中心で、ヴァルガは立っていた。


 ――ミシッ。


 ヴァルガの足元が僅かに沈む。


「……っ!」


 エリーが息を呑む。


 普通の人間ならば、立っていることすらできないほどの重力。


 にもかかわらず、ヴァルガは僅かに腰を落としただけだった。


 大剣を握る腕も、その眼差しも、何一つ揺らいでいない。


 カインはその光景を見据える。


 あの中へ入れば、自分も重力に捕まる。


 だからこそ。


 上から入る。


 カインは地面を蹴り、一直線にヴァルガへ向かって駆ける。


「シルフィード!」


 ほぼ同時に、シルフィの声が響いた。


 風が集まり、シルフィードがカインの近くへ現れる。


『風よ。』


 短い詠唱が始まる。


 ヴァルガが大剣を構え、迫るカインを真正面から迎え撃つ。


 距離が一気に縮まる。


 ヴァルガの大剣が動く。


 その間合いへ入るよりも早く、カインは地面を強く蹴った。


 跳ぶ。


 その瞬間、シルフィードがカインへ両手を向ける。


『吹き抜けろ。』


『《突風(ガスト)》』


 ドンッ!!


 突風が、跳び上がったカインを下から押し上げた。


「――っ!」


 身体が一気に加速する。


 高く、さらに高く。


 木々の梢を越え、月明かりの差す夜空へ、カインの身体が一気に舞い上がった。


 ヴァルガが顔を上げる。


 その視線の先には、月を背に蒼白い光を纏った少年がいた。


 刀身へ集められたオーラが、眩い光を放つ。


 やがて上昇が止まり、カインの身体が一瞬だけ夜空に静止した。


 そして――落ちる。


 眼下に広がる重力場へ。


「ぐっ……!」


 重力に捕らえられた瞬間、カインの身体が凄まじい勢いで加速した。


 風を切り裂く音が耳元で鳴り響き、ヴァルガとの距離が瞬く間に縮まっていく。


 ヴァルガが大剣を両手で握り、大地を強く踏み締める。


 迫るカインへ向け、大剣を一気に振り上げた。


 カインも両手で剣を握り締める。


 オーラ。


 落下の勢い。


 そして。


 エリーが生み出した強大な重力。


 そのすべてを。


 ただ一撃へ。


 カインは迫る大剣を見据え、蒼白い光を纏った剣を振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。