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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第三章 死竜

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第三十三話 決着

 蒼い閃光が、遺跡を駆け抜ける。


 目の前には、ドラゴンゾンビ。


 大きく開かれた顎。その腐り落ちた喉奥では、赤黒い炎が限界まで膨れ上がっている。


 もう、いつ放たれてもおかしくない。


 それでも、カインには見えていた。


 狙う場所は、ただ一つ。


 自ら刻んだ、首元の傷。


「うおおおおおっ!!」


 カインは一直線に飛び込む。


 蒼白い刃が閃く。


 ――ズバァァッ!!


 刃が、傷口へ食い込んだ。


 腐った肉が裂ける。


 鱗が砕ける。


 骨が軋む。


 そして、さらに深く首筋を斬り裂いた。


 それでも、ドラゴンゾンビは止まらない。


 大きく顎を開き、喉奥の赤黒い炎が今まさに放たれようとする。


 だが――。


 ――ボッ。


 裂けた首元から、一筋の炎が噴き出した。


 ――ボッ!


 ――ボボッ!!


 二つ。


 三つ。


 赤黒い炎が、次々と傷口から噴き出していく。


 裂けた首筋が、内側から大きく膨れ上がった。


 次の瞬間――。


 ――ドゴォォォォォォォォン!!


 爆ぜた。


 喉の内部で膨れ上がっていたブレスが、深く裂けた首筋から噴き出し、そのまま暴発した。


 灼熱の奔流が、裂けた首筋から轟音とともに噴き上がる。


 まるで火山が噴火したかのような爆炎が、地下空間を赤く染め上げた。


「グォォォォォォォォォォォォッ!!」


 ドラゴンゾンビの咆哮が、地下空間を震わせる。


 巨体が激しくのたうつ。


 暴走した炎が、その身体を内側から焼き尽くしていく。


 青白く燃えていた双眸が揺らぐ。


 そして。


 その光が、静かに消えた。


 巨体が大きく傾く。


 一歩。


 死竜の脚がよろめいた。


 そして――。


 ――ズズゥン……。


 地鳴りとともに、ドラゴンゾンビは崩れ落ちた。


 もう。


 二度と動くことはなかった。


◇


 静寂。


 先ほどまでの轟音が、嘘だったかのように消えていた。


 遺跡に響くのは、荒い息遣いだけ。


 カインは、剣を握ったまま静かに立っていた。


 蒼白い光を纏っていた刃も、ゆっくりと輝きを失っていく。


 全身から力が抜けていく。


 腕も。


 脚も。


 もう、思うようには動かない。


 それでも。


 最後まで、剣だけは離さなかった。


 やがて、カインの瞼がゆっくりと閉じる。


「カイン……?」


 エリーが小さく呟く。


 返事はない。


 その身体は、微動だにしなかった。


◇


 少し離れた場所。


 セシリアは、その姿を静かに見つめていた。


 剣を握ったまま、瞳を閉じて微動だにしない少年。


 その身体がすでに意識を失っていることに、セシリアは気付いていた。


 それでも。


 最後まで倒れなかった。


 仲間を守るために立ち続けたその姿が、幼い頃から何度も読んできた聖典の英雄たちと重なる。


(……なんて、強い人。)


 セシリアは胸元で、そっと手を握りしめた。


 そして、目の前の少年から目を離すことができなかった。


◇


 アリアもまた、静かにその背中を見つめていた。


 傷だらけの、小さな背中。


 自分たちが何度攻撃しても倒せなかった相手を前に、最後まで立っていた。


 強かったからではない。


 怖くなかったからでもない。


 それでも。


 前へ出たのだ。


(この人は……。)


 胸の奥が、小さく熱くなる。


 アリアは何も言わず、ただその背中を見つめていた。


◇


 その時だった。


 張り詰めていた糸が切れたように、カインの身体がゆっくりと前へ傾く。


「カイン!」


 エリーが駆け出し、倒れ込む身体へ両腕を伸ばす。


 寸前で抱き止めた。


 返事はない。


 それでも、確かな呼吸は感じられた。


 カインは剣を握ったまま。


 エリーの腕の中へ、静かにその身体を預けた。

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