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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第三章 死竜

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第三十二話 限界のその先へ

 ……ゴゴゴゴゴ。


 瓦礫の山が音を立てて崩れ落ちる。


 土煙の奥。


 青白い二つの瞳が、静かに燃えていた。


 次の瞬間。


 轟音とともに巨大な翼が広がる。


 朽ちた肉を纏い、青白い炎を宿した竜は、何事もなかったかのように再び立ち上がった。


「……嘘だろ。」


 カインの喉から、掠れた声が漏れる。


 カインへ駆け寄ろうとしていたエリーとセシリアも、その場で足を止めた。


 信じられないものを見るように、目の前の巨体を見上げる。


 その瞬間。


 ドラゴンゾンビの巨大な尾が、二人へ向かって薙ぎ払われた。


「《不壊の盾(アイギス)》!!」


 レオンの叫びが響く。


 二人の前へ、不可視の盾が展開される。


 直後。


 ――轟ッ!!


 巨大な尾が《不壊の盾》へ激突した。


 凄まじい衝撃が地下空間を揺るがす。


 一瞬。


 不可視の盾が尾撃を食い止める。


 だが――。


「なっ……!?」


 レオンの目が見開かれる。


 ――バキィィィン!!


 空間が砕けたような音とともに、《不壊の盾(アイギス)》が砕け散った。


「きゃあっ!」


 盾を砕いた尾が、エリーとセシリアを吹き飛ばす。


 ――ドゴォッ!!


 衝撃を受けた瞬間、二人の身体を包む淡い光が激しく揺らめいた。


 それでも衝撃を殺し切れず、二人の身体が宙へ投げ出される。


 なおも勢いを失わない尾が、そのままアリアへ迫る。


「くっ……!」


 アリアは咄嗟に剣を構える。


 ――ガキィィン!!


 剣と巨大な尾が激突する。


 アリアの身体を包む淡い光が激しく揺らめく。


 それでも受け止めきれず、その身体が大きく吹き飛ばされた。


 ――ドンッ!!


「セシリア!」


 レオンが地面を蹴る。


 吹き飛ばされたエリーとセシリアの後ろへ飛び込み、二人の身体を抱き留めた。


「ぐっ……!」


 三人はそのまま地面を転がる。


 やがて勢いが止まる。


 その時。


 ドラゴンゾンビはゆっくりと顎を開いた。


 腐り落ちた喉奥。


 赤黒い炎が渦を巻き始める。


 ブレス。


 次で終わる。


 エリーは倒れたまま、起き上がれない。


 セシリアの手から、ロッドが転がり落ちる。


 アリアは剣を地面へ突き立て、かろうじて身体を支えている。


 レオンは二人を庇うように膝をついている。


 誰も、次のブレスを止められない。


 残されたのは、カインただ一人だった。


 剣を握る手が震える。


(……間に合わない。)


 オーラには時間が必要だった。


 前の一撃も、仲間たちが命懸けで稼いでくれた時間があったからこそ放てた。


 だが、今は違う。


 ドラゴンゾンビの喉奥では、赤黒い炎が今にも放たれようとしている。


 もう、時間はない。


(俺がやらなきゃ。)


 幼い頃。


 祖父に何度も教えられた言葉。


『力とは、人を傷つけるためのものじゃない。』


『守るために振るえ。』


 カインは強く剣を握り締めた。


(守る。)


(みんなを。)


(絶対に。)


 その想いが、身体中を駆け巡る。


 目の前には、ドラゴンゾンビ。


 その喉奥へ、赤黒い炎が集まっていく。


 それ以外のものが、少しずつ意識から消えていく。


 音も。


 熱も。


 痛みさえも。


 ドラゴンゾンビの動きさえ、ひどく遅く感じる。


 ただ、目の前の一点だけを見つめる。


 そして――。


 ――カチリ。


 自分の中で、何かが外れた。


 《解枷(リベラ)》。


 ――ドクン!!


 心臓が大きく脈打つ。


「……っ!」


 熱い。


 身体が燃えるように熱い。


 なのに、頭は不思議なほど冴えていた。


 刹那。


 体内を巡るオーラが、一斉に右腕へ流れ込む。


 腕から柄へ。そして、剣へ。


 一瞬だった。


 先ほどまであれほど時間を必要としたオーラが、もう剣へ集まっている。


 蒼白い光が柄を包み込み、濁流のような勢いで刃へ流れ込む。


 止まらない。


 待たない。


 本来なら必要な集束の時間さえ、置き去りにして。


 蒼白い光が剣身から眩く迸り、遺跡の闇を切り裂くように揺らめく。


 ドラゴンゾンビが大きく顎を開く。


 赤黒い光が臨界へ達する。


 カインは静かに剣を構えた。


 その瞳から、迷いは消えていた。


「――守る。」


 大地を砕く勢いで踏み込む。


 その姿は、蒼い閃光となって駆け抜けた。

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