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七星を廻る物語  作者: 豆柴の旅々
第三章 死竜

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第二十五話 新たな旅立ち

 部屋には、アリアーナのほか、昨夜出会った二人の姿があった。


「来てくれたか。」


 穏やかな声をかけたのは、レオンハルトだった。


 その隣には、銀色の髪をした少女が静かに立っている。


「改めて紹介させてくれ。」


 レオンハルトは一礼した。


「俺はレオンハルト・アストリア。アルカディア神聖国で騎士を務めている。」


 続いて少女が一歩前へ出る。


「セシリア・アストリアです。修道院で神聖魔法の修行をしています。」


 柔らかな笑みとともに、小さく頭を下げた。


 カインとエリーも続いて名乗る。


「俺はカイン・ヴァーデンです。冒険者をしています。」


「私はエリー・ヴァーデンです。」


 その時だった。


「昨日は……本当にありがとうございます。」


 静かな声が響く。


 アリアーナだった。


「あなたがいなければ、もっと多くの人が傷ついていたと思います。」


 カインは慌てて首を振る。


「俺一人の力じゃありません。騎士団の皆さんや、エリーも一緒でしたから。」


 アリアーナは小さく微笑んだ。


「それでも、あなたが人を守ろうとしていたことは、ちゃんと伝わっています。」


 その言葉に、レオンハルトも静かに頷いた。


「それだけじゃない。」


 カインがレオンハルトを見る。


「お前は、俺があの兵士たちとは違うと気づいてくれた。」


 レオンハルトはわずかに表情を曇らせる。


「もし、俺があのまま街の奥まで進んでいたら……公国の兵士たちから、襲撃部隊の指揮官だと思われていたかもしれない。」


 カインが息を呑む。


「俺だけならまだしも、セシリアまで一緒だった。」


「俺たちが公国の兵士と剣を交えていたら、二つの国の争いにまで発展していた可能性もある。」


 部屋に静寂が落ちる。


 セシリアも、その意味を理解したのか表情を曇らせた。


 アリアーナが静かにカインを見る。


「そうならなかったのは、カインさんのおかげです。」


 カインは少し困ったように首を振った。


「俺は、そんなつもりで動いたわけじゃ……。」


「分かっています。」


 アリアーナは穏やかに微笑んだ。


「だからこそ、です。」


◇


 情報交換が一段落したところで、アリアーナが静かに口を開いた。


「カインさん、お願いがあります。」


「何でしょうか。」


「昨夜の襲撃で、まだ行方の分からない方が何人かいます。避難の途中ではぐれた方や、まだ戻っていない方もいるんです。」


「あなたの探知能力を、もう少しだけ貸していただけませんか。」


 カインはすぐに頷いた。


「もちろんです。今日一日は、全力でお手伝いします。」


 アリアーナは安堵したように微笑んだ。


「ありがとうございます。」


 カインは少しだけ言葉を続ける。


「ただ、明日は公国を離れることになりそうです。」


 レオンハルトが首を傾げた。


「公国を?」


「はい。北の遺跡でドラゴンが目撃されたらしくて、ギルドからその調査を頼まれています。」


 部屋が静まり返る。


 アリアーナの表情から、わずかに笑みが消えた。


「……ドラゴン。」


 一度、窓の外へ視線を向ける。


 昨夜の襲撃で傷ついた街。


 しばらく考えた後、アリアーナが顔を上げた。


「でしたら、私も同行していいですか?」


 カインは驚いた。


「え?」


「でも、公爵家のお嬢様が……。」


「だからこそです。」


 アリアーナは静かに答える。


「今、騎士団は街の警戒や復旧で手いっぱいです。簡単に動かすことはできません。」


「でも、もし本当にドラゴンがいるなら、この公国にとって大きな脅威になります。」


 湖のような青い瞳が、真っ直ぐカインを見る。


「領主の娘として、それを確かめずにいることはできません。」


 カインはなおも戸惑う。


「ですが……。」


 アリアーナは穏やかに微笑んだ。


「父上も母上も、私が決めたことには口を出しません。ですから、大丈夫です。」


 けれど、その笑顔はなぜか少しだけ寂しそうに見えた。


 二人のやり取りを黙って聞いていたレオンハルトは、わずかに目を細めた。


(……ドラゴンか。)


(もし本当に北の遺跡にいるのなら、その脅威がこの公国だけに留まるとは限らない。アルカディアへ向かう可能性もある。)


(昨夜の襲撃については、近衛兵たちに詳しい状況を伝え、本国へ報告させればいい。)


(ならば、俺も調査に同行すべきか……。)


 しばし考えた後、レオンハルトが静かに口を開いた。


「なら、俺たちも同行しよう。」


 カインが振り返る。


「レオンハルトさんたちも?」


「ああ。」


 レオンハルトはカインを見る。


「それに、昨日はお前のおかげで公国と剣を交えずに済んだ。少しくらい、借りを返させてくれ。」


 カインは少し驚いたようにレオンハルトを見る。


 やがて、小さく笑った。


「分かりました。」


 その言葉を聞いて、セシリアも顔を上げた。


「お兄様が行くなら、私も行きます。」


 一度だけ言葉を切る。


「それに……昨日、救えなかった人たちのためにも、何が起きたのか、この目で確かめたいです。」


 エリーは四人を見回し、小さく笑った。


「なんだか賑やかな旅になりそうだね。」


 張り詰めていた空気が、少しだけ和らぐ。


 その時、アリアーナが何かを思い出したように口を開いた。


「それと、一つお願いがあります。」


 全員の視線が集まる。


「ギルドには、私が同行することは伏せておいてほしいんです。」


 カインはすぐに頷いた。


「公爵令嬢が冒険者の依頼に同行していると知られたら、大騒ぎになりますね。」


「ええ。」


 アリアーナは微笑む。


「今回は、公爵令嬢ではなく、一人の剣士として同行したいんです。」


「分かりました。」


 カインは迷わず頷いた。


「それじゃあ、まずは行方不明の人たちを探しましょう。出発は明日ですね。」


 全員が静かに頷いた。


◇


 その日の午後。


 カインとエリーは、アリアーナたちとともに行方不明者の捜索を手伝った。


 《存在感知(レゾナンス)》を使い、崩れた建物や路地を一つずつ確認していく。


 やがて、崩れた家屋の奥から微かな気配を感じ取った。


「……あそこに、誰かいます。」


 カインの言葉を聞き、レオンハルトとアリアーナがすぐに動いた。


 瓦礫を取り除くと、その下から負傷した男性が見つかった。


「大丈夫ですか!?」


 セシリアが駆け寄り、神聖魔法で傷の手当てを始める。


 その様子を確認したカインは、再び周囲へ意識を集中させた。


 こうして一行は捜索を続け、夕暮れを迎える頃には、行方の分からなかった人々も次々と見つかっていた。


「それじゃあ、俺たちはギルドへ行ってきます。」


「ええ。」


 カインはアリアーナたちへ向き直った。


「明日はよろしくお願いします。」


「こちらこそ。」


 アリアーナは小さく微笑んだ。


 アリアーナたちと別れ、カインとエリーは冒険者ギルドへ向かった。


◇


 夕暮れ。


 ギルドの忙しさは、朝とほとんど変わっていなかった。


 受付で名前を告げると、ほどなくしてクランツが姿を現す。


「来たか。」


「はい。」


「約束どおり、依頼書を用意してある。」


 クランツから差し出された依頼書を、カインは受け取った。


 そこには、北の遺跡で目撃されたドラゴンの調査について記されている。


「改めて言っておく。目的はあくまで調査だ。」


 クランツは真剣な表情でカインを見る。


「ドラゴンが本当にいたとしても、戦う必要はない。確認できた時点で戻ってきてくれ。」


「分かりました。」


 カインは頷いた。


 クランツは今度はエリーを見る。


「君も、無茶はしないようにな。」


「はい。」


 エリーも笑顔で頷く。


 依頼書を受け取ったカインは、もう一度その内容へ目を落とした。


 北の遺跡で目撃されたというドラゴン。


 そこに本当に何がいるのか、まだ何も分からない。


 まずは、自分の目で確かめる。


 カインは依頼書を静かに畳んだ。


 出発は、明日。


 新たな仲間たちとの旅が、始まろうとしていた。

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