第二十四話 新たな依頼
――翌朝。
エヴァンスの街には、まだ昨夜の戦いの痕跡が残っていた。
石畳には黒く焼け焦げた跡が刻まれ、崩れた建物の前では、兵士や冒険者たちが黙々と瓦礫を片付けている。
一夜にして日常を奪われた街。
それでも、人々は立ち止まってはいなかった。傷ついた街を取り戻すため、少しずつ前へ進み始めている。
そんな街を歩きながら、カインは隣のエリーを見る。
「昼過ぎまで時間もあるし、ギルドへ寄ってみてもいいかな。」
「うん。昨日のこともあるし、様子を見ておいた方がいいかもね。」
エリーは頷いた。
昨夜の襲撃と、あの異様な兵士たち。
まだ分からないことが多すぎる。
二人は冒険者ギルドへ向かった。
◇
ギルドの扉を開いた瞬間、カインは足を止めた。
「……忙しそうだね。」
普段なら依頼を探す冒険者たちの声で賑わうホール。
しかし、今日は違った。
受付では職員たちが慌ただしく書類を整理し、冒険者たちも真剣な表情で情報交換をしている。
昨夜の襲撃による影響は、ギルドにも大きく残っていた。
「どうする?」
エリーが小声で尋ねる。
その時だった。
「あれは……。」
奥から一人の中年男性が歩いてくる。
以前、盗賊を引き渡した際に姿を見かけた支部長――クランツだった。
「君は……カインだったな。」
「はい。」
クランツは頷く。
「少し時間をもらえるか。」
「分かりました。」
二人は案内され、ギルド奥の応接室へ入った。
◇
「まずは礼を言わせてくれ。」
椅子へ腰掛けるなり、クランツは深く頭を下げた。
「昨日の襲撃……君が住民の避難誘導や、敵兵との戦闘に力を貸してくれたと聞いている。君のおかげで、多くの命が救われた。」
カインは困ったように笑う。
「俺は、自分にできることをしただけです。」
クランツは静かに頷いた。
「それでも感謝している。」
しばらく話した後、カインはふと尋ねた。
「そういえば、ギルド、かなり忙しそうですね。」
クランツは苦笑する。
「ああ。負傷した冒険者の対応に、街の警備……どちらも人手が足りない。」
一度、言葉を切る。
「それに、ドラゴンの調査もある。」
カインが顔を上げる。
「ドラゴンですか?」
「ああ。」
クランツは頷いた。
「北の遺跡で、巨大な竜影が目撃されたという報告が入っている。……この話は聞いたことがあるか?」
「はい。リヴァルのギルドで耳にしました。」
「そうか。」
クランツは苦笑する。
「調査、場合によっては討伐するためにここへ来た連中も、今は公国の防衛に回されている。この状況では、改めて腕利きを送る余裕もなくてな。」
「なるほど……。」
カインは少し考える。
昨夜の襲撃で、街は大きな被害を受けた。もし本当にドラゴンがいるのなら、放っておくわけにもいかない。
「……なら、俺が行きましょうか。」
クランツは目を見開いた。
「君が?」
「はい。調査だけなら、俺にもできます。」
クランツはしばらく考え込んだ。
「本来なら、君たちに頼むような依頼ではない。」
カインは黙ってクランツの言葉を待った。
「だが、昨夜の働きは聞いている。敵の位置を正確に把握できる能力があるなら、危険を避けながら調査することもできるかもしれん。」
クランツはやがて頷いた。
「……分かった。それじゃあ、君たちにお願いしよう。」
「ただし、目的はあくまで調査だ。ドラゴンを見つけても無理はするな。少しでも危険を感じたら、すぐに撤退してくれ。」
「はい。」
カインは頷いた。
「ですが、この後、公爵邸へ向かう予定があります。その後、改めて来てもよろしいでしょうか。」
「もちろんだ。その時に正式な依頼書を用意しておこう。」
「分かりました。」
◇
昼を少し回った頃。
カインとエリーは、公爵邸を訪れていた。
案内された先は、本邸ではなく、アリアーナが暮らす別邸だった。
扉を開けた瞬間、全員の視線がカインたちへ向けられた。




