第二十三話 七星会議
その静寂を破ったのは、オーエンだった。
「神聖はアルカディア、公国はトライデンで間違いないだろう。」
エルフの男が静かに口を開く。
「……セントリアで起きるのか?」
ウォッチャーは短く答えた。
「是。」
その一言に、オーエンは僅かに眉を寄せる。
「……友を疑う。」
予言の一節を静かに繰り返す。
アルカディア神聖国。
トライデン公国。
二つの国を思い浮かべ、オーエンは目を細めた。
「まさか、紛争の火種か?」
ウォッチャーは答えない。
「…………」
オーエンはしばらくその姿を見つめた。
「……そこは、言わぬか。」
そして、もう一つ――死せる竜もまた、運命の地を目指す。
北の遺跡で目撃された巨大な竜影。
あまりにも時機が重なりすぎている。
「強者は公国に集う……。」
そうすると、やはり予定通り冒険者をエヴァンスへ集めることなのか。
かといって、死せる竜が目指す『運命の地』も、公国とは限らない。
オーエンは腕を組み、静かに目を閉じた。
エルフの男が静かに頷く。
「いずれにせよ、こちらも備えておくべきだろう。」
「迷いの森は警戒を強める。」
ウォッチャーは何も答えない。
ただ、鏡の向こうから静かに見つめている。
銀髪の女性が、小さく肩をすくめた。
「どうやら妾には関係ないようじゃの。」
そして、鏡に映る面々へ視線を向ける。
「他にないなら、先に失礼させてもらおうかのぅ。」
ウォッチャーが僅かに間を置く。
「……ああ。」
「…………。」
銀髪の女性は何も言わず、ウォッチャーを見つめた。
やがて、その口元に僅かな笑みを浮かべる。
「ではの。」
その姿が、鏡面から静かに消えた。
東国風の装束を纏った女剣士も、何も言わない。
一度だけウォッチャーへ視線を向けると、その姿が鏡面から消えた。
それを合図にしたように、エルフの男も続く。
オーエンもまた、鏡面から姿を消した。
一人、また一人。
鏡に映る姿が減っていく。
だが。
獣の耳を持つ大男の姿は、まだ鏡に映っていた。
何かを考えるように、しばらく黙っている。
やがて、ウォッチャーへ視線を向けた。
「……また何か見えたら教えてくれ。」
「…………」
ウォッチャーは何も答えない。
大男も、それ以上は何も聞かなかった。
しばらくウォッチャーを見つめ、その姿も鏡面から消えた。
鏡に映る姿は、二人だけとなった。
ウォッチャー。
そして、白髪の男。
先ほどまで七星たちの姿を映していた鏡面に、静寂が戻る。
長い沈黙の後。
ウォッチャーが静かに口を開いた。
「……約束は。」
白髪の男は、小さく頷く。
「果たした。」
しばし、沈黙が流れる。
「そうか。」
それ以上、言葉は交わされなかった。
白髪の男も何も尋ねない。
ウォッチャーも、何も語らない。
やがて、白髪の男の姿が鏡面からゆっくりと消えていく。
最後に残ったウォッチャーは、しばらく何も映らなくなった鏡を見つめていた。
その瞳に。
何が映っているのか。
それを知る者はいない。
ウォッチャーの姿も静かに消えた。
再び鏡には、誰の姿も映っていなかった。
◇
満月だけが、静かに世界を照らしていた。




